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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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ないものねだり

ちょっとしたトラブルはあったものの、無事貧民街から外に出た。


「まず何するの?」

サージェント兄さんが語り掛ける。僕は、トゥルクの方を見て言った。


「いい宿知ってる?防犯がしっかりしている、貴族御用達の宿」

「もちろんでさぁ!ささ、こちらですぜ」

そう言って、トゥルクは歩を進めようとしたが、僕は待ったをかけた。


「どうしたんでっせ、月影様」

「その恰好で行くの?服装規定があるのに、そんな恰好で行けば、間違いなく門前払いだよ?」

「あ、そうでございやした。どうしやしょうかね?」

トゥルクの質問に、僕は二着の豪華な服を亜空間から取り出す。


「これに着替えよう。――その服はあげるよ。ただ、トゥルクの分は仕立ててないから、まず行くのは服屋だね。仕立て屋じゃあ、時間がかかりすぎるから」

そう言って、服を受け取ったサージェント兄さんとヒュー兄さんはおっかなびっくりその服を抱えた。


「いいんですかい?」

僕は、その問いに静かに頷いた。

そもそも、僕たちが止まる宿に自由に出入りできなければ、僕たちも困るからだ。

金もあるし、必要経費だろう。


「というか、俺たちも仕立て屋に言った記憶がないんだが?」

ヒュー兄さんが怪訝な表情をする。


「それは、僕が事前に調べておいたから、大丈夫だよ」

「こっわ。流石と言えばいいのか、普通に気持ち悪いと言えばいいのか」

「いつか使えるかも、と思ってね。案外早めに使える機会が来てよかったよ」

「つまり知ったのは最近……!?」

ヒュー兄さんの顔色が悪くなるが、単純にそれは僕の目測だ。本人たちが知らないことを、僕が気づかれずに知れる訳がない。

まあ、一応ちょっと大きめに伝えているから、多少は余るだろうが、大丈夫だろう。


「服屋で着替えるか。――なあ、お前はどうなんだ?まさか――」

「僕のは、いい生地が使われている服だからね。これだけでも、服装規定は軽くクリアしているよ」

「いいなあ、学生は」

「その分、学費はものすごく高いでしょ」

「冒険者じゃなければ、そしてサティが特待生じゃなければ、とても払うことはできませんでした」

サージェント兄さんは、どこか遠くを見ているが、別に学費免除がなくても、全く払えなかった訳でもないだろうに。


「でも、制服でいつまでもうろつくことはできないから、僕も一緒に着替えるけれどね」

僕はそう言った。


この制服は、()()()マティ様が入学の際に、仕立てるよう指示した、今の僕にとっては()()()()な制服だ。


今の僕の身長は180cm近くある。普段の身長が、170cm足らずなため、この服を普段使いするには大きすぎる。

たまに、マティ様が未来が見えているのではないか、と錯覚することがあるのだが、本当に不思議だ。


ただ、僕は本来180cmと少しあるので、たぶん未来を見透かしてる訳ではないのだろう。



僕たちは、服屋についた。戦闘にいた、服装規定を満たしていないトゥルクに、店員は顔をしかめたものの、すぐ後ろにいた僕を見つけ、顔に笑みを張り付けなおした。


「いかがいたしましたか、お客様!」

猫なで声の店員に、僕はトゥルクに似合う服を何着か見繕ってほしい、と言った。

そんな僕に、トゥルクは遠慮していたが、僕は無理やり受け取らせた。


店員は、サージェント兄さんやヒュー兄さんの方をちらちらと見ていたが、着替えれる場所を探している、と言うと、すぐに案内をしてくれた。


僕も一緒にそこに入り、着替える。


「和装じゃないんだな」

「そうなると、必然的にヒュー兄さんが主人になるよ?僕、久遠から逃げ回っているから」

藪蛇になってはいけないため、久遠のことに関しては、調べていないのだが、恐らく兄弟の誰かから、追手が出ているだろう。

多分、仕事の詰まり具合や、関係値的にも、琥珀兄上が有力じゃないかと思う。

時雨兄上や、梅姉上、雪影兄上や御影姉上は、いつ会っても忙しそうだったし、かと言って、琥珀兄上以外と、そこまで親しかった訳でもない。

皆、僕を嫌っているか、無関心か。

それに、琥珀兄上は、僕を本気では探さないだろう。


だって、僕が見つかってしまったら、年齢的にも、権力争いが勃発する。


だから僕だって、見つからない努力はすべきだと思う。――本当は、一か所にとどまることがいけないとはわかっている。


早く、邪神を倒さなければ。


だが、その前に目の前の仕事をこなさなくてはならない。

未来が見えるノア兄さんの言う事だ、きっと邪神討伐に繋がる。そう、信じて。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うおっ、皆さん格好いいじゃねぇすか」

「そうかな」

「うわー、慣れない」

「和装なら慣れてたんだがな……」

しきりに自分の姿を見る二人に、僕は苦笑する。


「トゥルクも、似合ってるね」

「へへっ、そうですかい?」

僕の言葉に、トゥルクは照れた。

チーター獣人らしく、童顔で可愛く見られるらしい。

よく、オルファにいじられているのだとか。


僕も、似たような悩みがあるため、気持ちは痛いほどよくわかった。


僕は若干女顔だ。女性に間違われることはない。ただ、もうちょっと雪影兄上に似ていたらな、と思った。

僕には、妖狐と雪女の血が入っている。

対する要は、人狼の血が入っているらしく、顔立ちも精悍(せいかん)だ。


いいな、と昔要を羨んだら、微妙な顔をされたのを覚えている。



ちなみに、トゥルクとそんな話をしていたら、ヒュー兄さんが、美形のないものねだり程鬱陶しいものはない、と文句を言ってきた。

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