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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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錬金術師

Side Turk


「ふーん、やっぱりそうなんだ」

あっしは月影様に、まずは貧民街の状況についての状況を教えて差し上げた。


とても美しい顔立ちをした男が、形のいい唇に、白くて細い指を置く。

ぼろ布に隠された顔は、本当にこの世に存在するのか?


だが、ここまで美しいからこそ、この男の姉は国を傾けてしまったのだ。


傾国の美姫。あっしはついうっかり見惚れそうになりそうになるのを、必死に抑えた。


「ねえサージェント兄さん、確かめてみる?」

「やめた方がいいでっせ!今、感染症の所為で、普段よりも治安が悪くなっているんでぇ、あまり長居しない方がいいですぜ」

あっしは、必死で止めた。こんな乗客に、危険な目に合わせる訳にはいかねぇ!


この国は、元々は獣人が平和に暮らしていた、集落があったのだ。

しかし、そこへ人間がやってきて、次々に蹂躙していった。


必死で抵抗したが、結局そのまま支配されてしまったのだ。



そして、人間が持ち込んだであろう感染症が、獣人を襲い始めた。

原因不明の高熱に、体中にできる発疹。そのまま熱は下がらず、小さい子供や年寄りから死んでいく。


特効薬もなく、ただただどうすることもできない。



「僕はこれでも錬金術師でね、薬も作ることができるんだ」

「それに、魔族はあまり病気にならないから、特に心配しなくてもいいよ。あと、僕たちは強いから、襲われても返り討ちにできる」

「なるほど、確かにそうでさぁ」

魔族は強い。更に、彼岸ならもっと。


なら、大丈夫だろうと判断し、あっしは感染者が集まっている地区へと案内することにした。



口と鼻を布で覆う。これをするだけでも、感染症にかかる可能性が少なくなるらしい。


「ここがそうでっせ」

「案内ありがとう。それにしても……ひどいな」

月影様がそう呟いた。


確かにひどい。みんな死屍累々としてるし、感染症なだけあって、誰も看病したがらない。


それに、治療法がないもんだから、ここに病人放り込んで放置するしかない。


「サージェント兄さん」

「すぐ取り掛かるよ」

サージェント様が、腕まくりをする。


月影様が何もない空間から、何やら見たこともない道具を取り出す。



――ありゃなんだ?!まさか、ガラスってやつか!?



あんな高価なものを……と、心の中で叫び声をあげる。


病人を診察しつつ、使う薬草を選んでいる。


「まず材料は、これで……」

「聖水の用意はいつでもできるよ」

「ありがとう。そこまでいいものじゃなくてもいいよ」

「分かった」

そんな短い会話の中、ガラスの器具の中に、魔法で作った水が注ぎ込まれる。次に、それが淡く光り、それが聖水になったらしい。


「じゃあ行くよ。――異能力、錬金術(アルケミー)

その言葉と共に、材料が混ざっていく。少しして、理屈はさっぱりだが、一つの瓶の中に、うっすら緑色をしている液体が出来上がった。


「これを、10ミリくらいかな」

「分かった」

「げ、こいつら身を清めてねーのかよ」

「ヒュー兄さん……?」

「あっしも手伝わしていただきやす!」

あっしは、薬をサージェント様から受けとる。


次々と、病人に薬を飲ませていく。治るようにと、願いつつ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「終わったね」

「ああ……鼻曲がりそう……」

「これで、熱は収まっていくと思うよ。明日も来るから」

そう言いながら、サージェント様は立ち上がり、月影様は器具を片付けていく。



「これ以上は、ここに長居する理由もないし、行くか」

月影様の言葉に、誰も、反対の声を上げなかった。



あっしが先陣を切り、貧民街から外に出る。

その道中で、やっぱり出会ってしまった。



「おやおやぁ?オルファちゃんとこのチーターじゃねぇか!」

「チッ」

今、一番会いたくなかったやつに会ってしまった。


ハイエナ獣人のヤンギだ。


こいつは、いつも誰かを見下して、にやにやと気持ち悪く笑っている。


「あっしは今、忙しいんでぇ」

そう言いつつ、あっしは月影様たちを連れて行こうとする。


「ちょいちょいちょい、待ってよ。――それにしても、今日連れてる客は随分と上玉じゃねぇか」

「――うちの客に手を出す気か?出す手でもなくされてぇのか?」

「チーターごときの脅しに、誰が屈する?そもそも、ボスは蛇女じゃねぇか!そっちこそ、この俺にそんな口利いていいのか?」

上から見下すようにして、おかしそうに笑うヤンギに、あっしは舌打ちしかできない。

なぜなら、あっしは諜報専門なのだ。だから、目の前のヤンギのように、暴力沙汰は得意ではない。


悔しさに歯噛みしていると、空気が変わったのが、肌で感じ取れた。


「お前、僕の道を妨げないでもらおうか。僕、さっさとこの国での用事を終えたいんだよね」

月影様の、その言葉が聞こえ、あっしは顔を上げた。


そこには、鋭い血の刃に囲まれたヤンギがいた。

いくつもある血の刃の一つは、ヤンギの頬を傷つけ、そしてその傷から、血が滴り下りている。


「ヒィイ!!」

「それと、僕たちに手を出したら、どうなるか……わかる?」

「……は、はぃぃぃいいい!!!し、失礼しましたぁぁぁあああああ!!!!」

月影様が凄むと、ヤンギは文字通り尻尾を撒いて逃げていった。


「ははっ!流石ですぜ!」

いや~、スカッとした。いつも嫌味な奴が、情けなく逃げていくのを見て、あっしは笑いが止まらなくなった。


「こんなトラブル、もうごめんだから、さっさとここ、出ようか」

「ごもっともでさぁ」

あっしは、さっきよりも足取りも軽やかに、貧民街から外に出た。

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