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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩
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これは有罪ですか?

Side Matthias


「んっ……はむ……っ……ん……」

すっごい声出しているのはアインである。俺の首から血を吸っている。前から抱きつくように血を飲んでいるため、非常に距離が近い。と言うか、全身で密着している。



「……いいのか、それで」

ラースは、俺に抱き着きながら血に夢中になっているアインを見ながら言った。



「俺は構わないぞ?」

「アイン……大胆になったな」

「何を言っているんだ、貴様は」

ラースの目は、遠くを見ていた。諦めたとも言う。



「初対面の時怯えさせちゃったからなァ」

「それは貴様の無神経さに臆しただけじゃないか?そういうのは、小さな子供は嫌だろう」

「ん……おいひい」

遠い目をしながら昔を思い出しているラースに、俺は言葉で刺した。そして話を全く聞かないアイン。

ラースは、アインにチラッと目を剥けた後、顔を手で覆い、溜息を吐いた。



「……それは当然だろう。俺の血だしな」

「貴方たち傍から見たらヤバい集団なの、どうか自覚なさって?」

先に我慢が限界を迎えたのはジェシカだったようだ。ラースも同調している。



確かに、思いっきり抱きついている一人を無視して三人で会話している。しかも、抱き着いている奴は美しい翼も広げている。それをラースは気にしたのだろうが、俺は気にしない。

だが、もし外からこの集団を見たら、俺はこの四人組に関わりたくないな。




「さて、本題に入ろう。何故貴様は突然暴れ出した?」

「あーやっぱり聞くか、それ。まあ、いいぜ。調べれば分かるしな」

そう言って、ラースは目を瞑る。彼を取り巻く雰囲気に、常にあった気軽さはない。




「人族には、アンタ等人間と、リズ姉のようなエルフ、それからリズ姉の師匠はドワーフだったらしいけど、他にも獣人が存在する。――とまァ、人族にはたくさんの種類がいる。

じゃあ、ここで疑問を覚えた事はねェか?魔族には二種類しか存在しない。しかもその二種は種族的に大きな違いがないンだぜ?」



そのことについては、先程ジェシカと話した。此岸の魔族と彼岸の魔族。違いといえば、強さと頑丈さ位で、違いといった違いはない。見た目もあまり変わらない、寿命もほぼ変わらない。

此岸は基本的に2、3属性位適性があるが、アインの例があるから、適性の多さも関係ない。


では、何が違うのか。



「俺も一緒でいいと思うんだがなァ。けど、此岸の特徴を聞いて、全く違う生き物だ、て思ったしなァ。此岸と彼岸の違いに比べて、此岸同士、彼岸同士の違いなんて、誤差みたいなモンだしな」

「そうなのか?」

「人間だって、一々適正属性で種族分けなンかしないだろ?」

「まあ、確かに……」

誤差なのか。エルフと人間並みに違うように見えるが。



「此岸と彼岸の違いは大きく三つある。一つは、特殊能力。

鬼人なら肉体強化に狂化(バーサーク)状態、感覚強化。吸血鬼なら血操術に蝙蝠化と声操術だな」

「声操術?」

聞き慣れない言葉に首を捻る。



「声で人を操る能力だ。分かりやすく言えば、魅了の一種だな」

「それなら分かりますわ。吸血鬼は、自分の声を聴かせることによって、相手を魅了していたのですね」

「そういうことだ。アインはそれを多用していたンだよ……。声が出せないのはかなりストレスになったと思うぜ」

「それは……強すぎないか?」

そういえば声が出せないんだった。今出せているからすっかり忘れていた。

俺は、声操術を使うアインを想像してみた。そもそもそれがない状態でも、“鮮血の死神”と呼ばれていたのだ。敵を魅了し始めたら本当に敵なしになる気がした。


そう思うと、父上を暗殺しようとした際、失声症で本当に良かったと思う。あまり喜べないが、そうでなければ本当に打つ手がなかった。



「ん、もう大丈夫です。ありがとうございます」

恍惚とした表情でアインは俺から離れた。……なんか、勘違いしたくなるな。



「俺のお陰だからな?感謝しろ」

「はい、ありがとうございます」

「……そういうとこ、治さねェと嫌われるぞ?」

「あ、勿体ない」

ラースの言葉をガン無視して、アインが俺の首筋を舐める。そして離れると……。アインが使い物にならないのは十二分に解った。



「……いいのか、それで」

ラースが何とも言えない表情をしていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Lars


「話を進めンぞ」

茶番続きで全く話が進まないンで、さっさと続きを話す。



「二つ目は、衝動だ。アインと俺の衝動は見ただろ?アインをはじめとした吸血鬼は吸血衝動と言い、血が欲しくなるンだ。そして満足したら、このように集中力がなくなる。とはいっても、こうなること自体ない筈なンだがなァ……」

俺は二人に吸血衝動の話をした。その間、アインは王太子サマにもたれてまったりしてた。よっぽど満足したのか、ぽわぽわしてる。四六時中辺りを警戒しまくってたヤツとは思えない程気を緩めてる。アインは眠くなったのか、目をこすりながら王太子サマを枕代わりにしようとしている。


自由だな。そして誰だよ、コイツ。絶対アインじゃねェ。



「俺のは破壊衝動。体力、魔力共に尽きない限りそれは続くンだ。定期的に発散しないと、さっきのように誰彼構わず襲っちまう。普通は理性は残ンないモンだが……。俺は異能力の影響で理性は結構あるンだ。俺だけの特殊ケースだな。

衝動明けは、疲れ果てて何もできなくなる。――当然っちゃ当然だな」

「そうなのね。確かに、殆ど先程と変わりなかったから、分かりませんでしたわ」



二人が少しほっとしてるのを見ると、いきなり近くで鬼人が暴れるかもしれないと考えてたらしい。流石に、その前に唸るし、分かりやすいと思うンだが。



「実は、吸血鬼みたいな例外以外は、半身がいれば一切起こらなくなるンだ。ただし、相思相愛、両想いの関係じゃないとダメだがな」

「吸血鬼はどうして駄目なんだ?」

「例外に入っている彼岸は、ちょっとした違いがあるンだ。

俺らは、この世ならざる力――最初に説明した力を使うと、衝動が溜まっていく。一定の許容量を超えたらさっきのように突然暴れだしたりする。これが所謂(いわゆる)衝動ってヤツだ」

大きすぎる力は必ず反動がある。彼岸では反動なしに使えるらしいが――俺には関係ない。


「だが、例外は、魔力とは別の力を使って、この世ならざる力を使っている。それを補給するのに、吸血鬼だったら吸血が必要なンだ」

その力は、多少は自力で生成できるみたいだが、そこら辺の人間を襲って血を吸いまくる方が効率がいいらしい。


俺の血も、効率だけはいいらしい。味と風味が終わりきってるらしく、あのポーカーフェイス(といっていいかわからない)を突き破り、これでもかと顔を歪めてた。むしろかわいそうに思った。



「普通の彼岸は、例えばずっと走ってたら疲れるだろ?走るって所を鬼人は怪力や狂化状態に、疲れを衝動に変えた感じだな。疲れすぎたら眠くなるけど、その状態がさっきの俺だな。


例外の場合は、イメージ的には魔法に近い。魔力とは違う力を予め蓄えておいて、それを使う感じだ。使いすぎたら衝動だってある。


吸血鬼にとって吸血衝動は、魔力切れの時の貧血と同じなンだよ。まァ、半身がいれば、その衝動もかなり軽くなる。無防備になりやすいけれどな」

「無防備になりやすい……」

王太子サマが何やら考え込んだ。まさか、ソイツ(アイン)を襲おうってか?止めた方がいい。アインの反応から、王太子サマを当然のように許容するだろう。だが止めろ。アインの後ろ盾は強力すぎて、もはや一つの国家では相手にならん。



「マティアス様?流石にそれは嫌われるどころかどこかに失踪コースですわよ?」

「俺がそういうことを考える訳ないだろう。俺をそう言う背徳な人間に仕立て上げるな。不敬だぞ」

「ならいいンだ。アインに無理に手を出すなよ。なんなら同意ありでも手ェだすな。アインが迫ってきたら……。仕方ないが」



――それは本人が悪いな。ノア兄たちも納得すンだろうし、()()()()()を抑える手立てになってくれるかもしれないしなァ。



出来れば余計な諍いを無くしたいと思いつつ、俺は王太子サマの肩で微睡んでいるアインをじっと睨みつけた。

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