表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

248/283

情報屋

「それにしても、よくあの王子様がお前の遠出を許したよな」

「え?」

ヒュー兄さんの言葉に、僕は驚く。


「会ったことあったっけ?」

「いやっ!ほ、ほらサティが言ってたんだよ、王子様とアインはいつも仲良しって」

「そう……?」

「そう!」

物凄く必死だった気が……。

サージェント兄さんがあまりにも必死に誤魔化すものだから、僕はあまり追求しないようにした。


ところで……なんでマティ様はわざわざ九星でもない、表向きはただの一般人な三人を訪ねたんだろう?


ただ、そんなことを考えても仕方ない。

できるだけこの旅を短縮させたい。


僕は、ポガチョスへの道を急いだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――二日後。


あまり長旅に慣れていない二人を気遣ったのと、ステラよりも遠かったので、二日かかった。

ちなみに、文句たらたらなヒュー兄さんのために、一日目は街の中に入り、宿に泊まった。


二日目は野宿だったが、どうやら僕の料理はお眼鏡にかなったようだ。

シャンメルの下で、料理を学ぶのは、かなりきつかったが、今役立っているのが嬉しい。



ポガチョスに入る前、僕は蝙蝠の獣人に成りすまし、ヒュー兄さんはうさぎ獣人の変装をした。

サージェント兄さんは元々羊獣人だから、変装はしない。



「何でおれはうさぎなんだ……!」

「だって、草食系獣人と肉食系獣人は仲が悪いからね」

「お前は?」

「肉食系だね」

「おい」

すぐに前言を裏切る僕に、ヒュー兄さんが反応する。


「蝙蝠は、草食系もいるから、大丈夫だよ」

サージェント兄さんが追加説明する。


「そうなのか。それで、俺たちはこれから何をするんだ?」

「まずは、貧民街に行こうかな。ここで、感染症が流行った可能性があるからね。となると、一番その感染症の被害を受けているのが、貧民街だよ。それに、情報屋はこういうところにいる、という相場があるから」

だからこれ、と僕はぼろ布を差し出した。それに対し、ヒュー兄さんはとても嫌そうな顔をしたが、僕は無視した。


「……………………これを着ない、という選択肢は?」

「うーん、最悪身ぐるみはがされて殺されてもいいのなら……」

「そうだよな……」

ヒュー兄さんは、案外綺麗好きらしい。

でも、ぼろ布に慣れていた方が、戦場でも目立たないし、貧民街にも潜入できるから、ぜひとも今回の経験を機に、慣れていってほしい。



「うぅ……」

僕が差し出した布を纏ったヒュー兄さんは顔をしかめた。

ヒュー兄さんは魔族なのだが、もしかしたら久遠でそこそこ地位が高かったのかもしれない。



「あと、何も話さず、周囲も見ないでね。謎の三人組を演出するんだ」

「それはどうして?」

「だって、いきなり、食い詰めた貧民の振りをしろ、って言われたところで、難しいでしょ?」

「ああ」

ヒュー兄さんが自信満々に言う。素直だ。


「だから、お忍びの三人組。貧民から距離は取られるけれど、ただ者じゃない雰囲気を出せば、スリとかに狙われることはないし、情報屋からも情報を買いやすい」

「情報は買うんだ」

「そうだね。自分で集めることもできるけど、買った方が手っ取り早いし、そもそも貧民街は常に何かしらの感染症が漂っているし、治安も最悪。できれば、あまり近寄りたくないね」

「それもそうか」

納得してくれたらしい。


これからの動きも打合せして、僕たちは貧民街へと、足を踏み入れた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「くっさ……」

「そういうこと言わないの」

「俺、人狼の血が混ざってるんだよ……。だからにおいに敏感なんだよ……」

ヒュー兄さんがげんなりしたように言う。

確かに、それは大変そうだ。


「ねえ、情報屋の場所は分かるの?」

「全く?」

「え?」

まさかの僕の回答に、サージェント兄さんが驚く。


「でも、見たらなんとなくわかるよ」

「そうなんだ……」

サージェント兄さんは、僕の言葉に頷くしかない、という感じだ。



こういう貧民街にある情報屋は、基本的にお香がたかれている。

それと、見張りもいる筈だ。

やけに鋭い視線を送る浮浪者が、情報屋を見つける目印だ。



「金……金を恵んでくだせぇ……」

少し、貧民街を奥に進んだ時のことだった。

今まで見た浮浪者よりも、ずっと汚らしい浮浪者が、両手を必死に差し出している。

ハエが飛んでいるその浮浪者に、ヒュー兄さんは顔をしかめていた。


「えっと……」

「これくらいでいいかな?」

僕は、サージェント兄さんの前に立ち、物乞いに小銀貨を渡した。

銅貨では安すぎるが、金貨や銀貨では高すぎる。


じっと手の中の銀貨を見て、物乞いはニヤッと笑った。


(あん)ちゃんいい目をしてんじゃねぇか……。ほら、こっちだ」

「え?」

「ん?なんだ?そういうことじゃねぇです?」

「そういうことだよ。ただ、ちょっと説明してなかっただけ」

「ふーん、じゃ、ついて来てくだせぇ」

僕たちは、その浮浪者についていった。ずんずん裏路地へ進む浮浪者についていくと、段々とガラの悪い街並みになっていく。


「こ、これは……」

「こういうところに、情報屋はあるんですぜ?知らねぇです?」

「……」

サージェント兄さんは、口をつぐむしかなさそうだった。


僕たちは、その後特に口を利くこともなく、そのまま情報屋へと入っていった。


「んん?なんだい、騒々しいねぇ」

ボロボロな骨董品(こっとうひん)店。骨董品に囲まれ、奥で煙管(キセル)を吸う一人の若い女性がいた。


「客ですぜ、姐さん」

「客?なら却下だ。あたしゃ、もう客を取る気はないよ」

「でも姐さん……!」

2人の会話を中断させるためにも、僕は人差し指を立てた。


「なんだい?金貨一枚で売れる情報はないよ!」

「なにを言ってるの?」

「まさか、金貨十枚かい?足元みられちゃぁ……」

「そちらこそ、侮らないでもらえるかな。金貨100枚だよ」

「は……?」

女性は、呆気にとられたかのように、口を開いて固まっていた。


ちなみに、金貨百枚あれば、それなりに豪華な屋敷が王都に建つ。

要の家は、金貨六十枚相当の家だが、それは割と大きい家が、郊外に建っているからだ。


「だから、この国の情報、些細なものでも全て貰えるかな?」

僕はにっこり笑ってそう言った。

初めてまともに僕の顔を見たらしい彼女の顔は、ほんのり赤くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ