ポガチョスへの道中
聖夜祭が終わり、その後に控えた、長期休暇までの学園生活も無事に過ごした。
聖夜祭が終わった後、ハロルド様がマティ様に連れていかれ、そのことに気づいたカーティス様が、二人の後を追ったことがあったが、一体どうだったんだろうか。
その後、マティ様はカーティス様に呆れ顔をして、ハロルド様はカーティス様に感謝していた。
一体どんな話をしたのだろうか?
流石にそこまで蝙蝠を仕掛けていないため、その会話内容を知ることはできないが、恐らく大した話でもなかったのだろう。
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ミリア姉さんは、今日来るらしいものの、もう少し遅くなるらしい。
僕は、旅をする準備を整え、朝早く起きていたらしいマティ様に挨拶をして、旅立った。
その時、フィンレーと一緒に学園の外を出て、要の元へと送り届けた。
僕はすぐにサージェント兄さんたちを迎えに行き、ポガチョスへと向かった。
「はあ、旅生活はもう嫌だ」
「ヒュー、まだ三時間しか経ってないよ」
「飯も塩辛いし……はあ」
「調理器具はあるから、大丈夫。それに僕、闇属性魔法結構得意だから」
そう言いつつ、僕は亜空間収納を出し入れする。
しかし、僕のその言葉を聞くと、二人とも物凄く不安そうな顔をした。
「……こんなことになるなら、テンから料理、まじめに教えて貰うんだった」
「同感。あれを食べるより、塩辛いものを食べた方がましだよ」
死んだ目で何かを思い出す二人。ちなみに、僕の料理の腕が上がったのは、チーズルに出向した後なため、それよりずいぶん前にオケディアを去った三人は、僕がメシマズなままだ、という認識なのだろう。
「ぐうの音も出ないけど、ちょっとは僕のこと、信用してくれても……」
「お前、それで記憶喪失になった奴もいるんだぞ……?」
「た、確かにゼスト兄さんとミリア姉さん、ラース兄さん、サティ姉さんの記憶が混濁したけれど……」
「結構被害デカいじゃねーか」
「あははははは……」
サティ姉さんから聞いたときは本当に驚いた。
まさか、あれを僕がやらかしたと思い込んでいるとは……。
実際、僕がやらかしてはいるものの、皇月影として、良かれと思ってやったのだ。だから、アインとしての僕がやったことではないというか……。
実際、その後、僕が振舞った料理で、体調不良者が続出したからか、サティ姉さん以外の皆の記憶が、僕で上書きされたのだと思うけれど。
サティ姉さんの記憶は、皇月影の記憶が一切ないから、別の人物で置き換えされたんじゃないかな……?
サティ姉さんは不自然だと気づいてないみたいだけど、普通は二歳児に火なんか扱わせない。何なら、あの時包丁も使ってた。
遠征や従軍で料理をする必要があると判断されたから、一応やらされただけで、まずいことには変わりない。
本当に、シャンメルに出会ってよかったと思っている。
「シャンメルを知ってる?僕、その人に料理を教えて貰って、かなり料理の腕が上がって……」
「劇毒から不味い料理に上がっただけか?」
「失礼な……。サティ姉さんはきちんと食べてくれたよ」
「サティは優しいからな」
「共通の知り合いがいるだけの人のお菓子、不味かったら食べないでしょ」
「「確かに」」
ムッとしながらそう言うと、二人はようやく納得してくれたようだった。
そして、ヒュー兄さんが、僕にびしっと突き付け、こう言った。
「不味かったら呪うからな」
「でも僕、邪神からの呪いを受けてるから、多分呪いはじき返しちゃうよ?」
「お前なあ……」
「アイン、ヒューは絶対不味い料理を出すな、って言ってるんだよ」
サージェント兄さんが、クスクス笑いながら、ヒュー兄さんが言いたいことを補足してくれた。
「だが、俺はそれ以外にも不満がある」
「野宿は、旅の工程で何度かするよ?いくら顔を偽らなくてよくなったとしても、飛行魔法は本当に大変なんだから」
「ごめんね。僕たち、あまり鍛えてなかったから……」
「霊薬あるんだから、別に鍛えなくてもいいだろ」
「それでよく、邪神に立ち向かおうとしたね……」
「それでも、僕たちは強いからね。九星ほどじゃないけど……」
確かに、生活は冒険者での収入で賄っていた。要と一緒だ。
要ほどではないにしろ、かなり強力な冒険者として、有名なのだ。
「本当に、九星は狂ってるよな。普通こういうのは、護衛依頼を受けて、それについて行って移動するというのに」
「僕、冒険者ギルドには行きたくないからね」
「アインは近づかない方が賢明だね。僕もテンもしょっちゅう絡まれるし」
「ああ言うの、ガンとばせば一発だろ」
「それができるのはヒューだけだよ」
サージェントが苦笑しながら、好戦的なヒューをなだめる。
「ラースは走って、ステラからセオドアまで移動して、ミリアは飛行魔法で飛んでくる、か」
「あ、違うよ。ミリア姉さんが使うのは、悪魔の力だよ。ミリア姉さん、異能力で人間なのに、彼岸の力を使えるから……」
「悪魔の力か……。九星は、本当に厄介だな」
彼岸の中で、最も厄介な力の一つと呼ばれるそれを、使えるミリア姉さんはかなり特異だろう。
更に、何の代償もなく使えるのだ。ただ、それも効果は力の弱い混血並みではあるが。
「そんな話より、ポガチョスについたらどうするんだ?王族の暗殺か?」
「早いよ……。まずは調査だね。ノア兄さんが、何を警戒しているのか、それを知りたい」
「そうだね」
ヒュー兄さんの言葉に、僕が答え、サージェント兄さんが頷いた。
まだ、ポガチョスへの道のりは長い。




