やべー奴×2
Side student
今日の聖夜祭、とても楽しみだわ!
だって、あのハロルド様とアイン様がいらっしゃるのでしょう!?
あのお二方、将来有望なのに婚約者がいらっしゃらないのよ。
きっと、今日の聖夜祭のパーティーで、婚約者を探すに決まっているわ!
なら私が、絶対その婚約者の座に収まってみせる!
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とは言ってみたものの……。
「皆さん、やっぱりあの方たち目当てなのね……」
早々に休憩スペースに引き籠ってしまった、あのお二方に群がる女子生徒の多さに、私は辟易とした。
「あれだけいるのでしたら、近づくのでさえ一苦労ですわ……」
私は、婚約者がいない令嬢たちや、婚約者と不仲と噂の令嬢たちのほぼ全員と戦わなければいけないのか……とがっかりしていた。
ただ、つい最近アイン様を一部のマナーがなっていない令嬢たちが追い回した事件が起こり、アイン様が体調を崩してしまわれた。
そのことを皆反省し、きちんとマナーは守っているらしい。
ただ、かなりの視線にさらされているため、居心地の悪さを感じているらしい。
――本当に格好いいな……。そして仲もいいんだ……。あ、アイン様がちょっと笑った。
ついじいっと見入ってしまう。
すると、ハロルド様と目が合ってしまった。
「あ……」
つい声が漏れる。
すぐにハロルド様は目をそらしてしまったが、それだけで私はとても幸せだった。
「いい……!」
突然、近くからそんな声が聞こえた。
「ちょっと、静かにしてよ恥ずかしい」
「ハリー、あの二人が、どれだけてえてえのか……何もわかってない!」
恐らくパートナー同士らしい二人が会話しているのが聞こえる。
男子生徒の方が何かを熱弁するのに、女子生徒がたしなめている。
「うるさいわね……。確かに眼福ではあるけども」
「ああ、どっちが攻めでどっちが受けなんだろう……!どっちもほとんど属性は被ってる。年上攻め?年下攻め?あ、そう言えばアインには敬語属性あった」
「本当に恥ずかしいから、声に出さないでくれるかしら?」
男子生徒が出した名前に、ドキッとする。え?アイン様?攻め?受け?
そんなよくわからない用語を口にする彼を、心底嫌そうにたしなめる女子生徒。
「誰にも言えない秘密で禁断の恋……。主従のカップリングもいいけど、これもこれであり……!」
「ねえ、それ本当に口に出さないで。不敬で処刑されても知らないわよ?」
禁断の恋……主従……まさか、最近巷で密かにはやり始めた、男性同士の恋愛のことを言っているのかしら……?
それを理解するや否や、私はハロルド様とアイン様をもう一度観察する。
何かを話すハロルド様とアイン様。たまに、小さく笑うアイン様に、ずっと変わらず無表情を貫くハロルド様……。
なんだか、アイン様がハロルド様に片思いをしているように見えてしまう……。本当は、そんなことはない筈なのに……。
ハロルド様も、アイン様が周囲を魅了しているのを、不満に思っていらっしゃるようにも見える。
そ、そんなこと、ある訳ないわ!私は、絶対にハロルド様かアイン様の婚約者になるんですもの!!
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Side Ain
「疲れるな……」
ハロルド様の言葉に、僕は内心頷く。
周囲は女子生徒に囲まれており、ハロルド様以外に気心が知れた仲の人物は誰もいない。
誰も話しかけにこないのが、まだ気が楽なのではあるものの、それでも僕たちに集中する視線に、やはり気が疲れてしまう。
僕たちは一回ダンスを踊り、すぐさま休憩スペースに逃げていた。そうすることで、下手に話しかけられる事態は避けられるが、群がられる事態は避けられないらしい。
ただ、しっかり休憩スペースには入ってこない彼女らが、少しおかしかった。
食事を軽くつまみつつ、ハロルド様と談笑して、時間を潰していると、どこからか、騒ぎが聞こえた。
「嫌な予感がするな……」
ハロルド様が苦々しい表情を作りながらつぶやく。
僕は、見知った気配の持ち主から、どうハロルド様を隠すか、素早く考えを巡らせる。
「ハロルド様、休憩スペースから出ましょう」
「どうしてだ?」
「恐らく、騒ぎを起こしているのは――」
僕は、あまりの言いづらさに、ハロルド様から目を逸らす。
そんな僕を見て、ハロルド様は、とある考えに思い至ったようだ。
「ハロルド様」
「おっと、悪いな」
ハロルド様と一緒に、場所を移動しようとしたところ、不注意でぶつかりそうになっていた。
僕は咄嗟にハロルド様の腕を引いて、それを回避する。
「すみません、大丈夫でしたか?」
「悪かったな。怪我はないか……なんだ、お前か」
僕たちは謝りつつ、相手の顔を見ると、そこにはシルクリーン様とヴォンジョン様がいた。
ハロルド様がシルクリーン様を見て、不安そうな表情をしたのを、ヴォンジョン様は見逃さなかったらしい。
「安心してください、こいつはきちんと、私が見張っておきますので」
ヴォンジョン様が胸を張ってそう言うと、シルクリーン様をひっつかんでいた。
しかし、僕はあまりその言葉を聞いていなかった。何故なら……。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あ、大丈夫です~。いつものことなので。ほら、行くわよ」
シルクリーン様が鼻血をだらだらと流していた。どことなく、表情が虚ろな気が……。
そんなシルクリーン様を、ヴォンジョン様は引きづって、どこかへと連れ去ってしまった。
本当に大丈夫なのだろうか……。
「おい、そんなことをしている場合じゃないだろう?」
「あ、そうでした。すぐ移動を――」
「お待ちくださいませ、ハロルド様」
僕たちが移動しようとするが、どうやら間に合わなかったらしい。
どこか狂気さえも感じる声に、僕の背筋に冷たいものが走る。
僕たちが恐る恐るその声の持ち主に目を向けると、そこには髪を振り乱したオストワルト様がいた……。




