閑話:モーリスガン詰め
Side Maurice
時は、かなり前――。魔法祭での新聞が、学園で大波乱を巻き起こしたあたりまで遡る。
僕は、去年スバル相手にやらかしたことを、アイン相手にやらかしたことに、全く気付かずに、暢気に廊下を歩いていた。
「こんにちはー!!」
元気よく、放送委員室の戸を開けた。それと同時に、僕は何者かに殴られ、気絶した。
こ、ここに不審者が!!
そんなことを叫べる時間があるのなら、そもそもこの場から逃げ出している。
実際は、そんなことをする間もなく、意識は暗闇に沈んだのだった……。
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「はっ!ここはどこ?私は誰?」
グワングワン痛む頭と共に目覚めた僕は、周囲を確認する。
すると、椅子に縛られていることが分かった。
この部屋には、立派な調度品が並べられているものの、誰もそれを使っていなかった。
つまり無人。
――これは、前世からの経験で言うと――誘拐!いやー、まさか脅してまでこの僕にイラストを描いて欲しいと言う人が現れたとは!有名になったもんだなあ!
一人でそう納得し、わくわくしながら依頼人を待っていると、この部屋の戸が開く。
まず、そこからぞろぞろと人が入ってきた時点で、なんか違うな?と思った。
次に、マティアスとアインが這ってきた時点で、え?となった。
その次に、ロゼッタとスバルが来た時点で、これまずい……?と思った。
次に、最後にハリーが来た時点で、終わった\(^o^)/と思った。
これは!腰を深くおり、頭を下げて!
「この度は誠にすみませんでした!!!」
とまずは謝った。
「ほう。自分がしたことについて、どうやら理解があるようだな?」
マティアスが口を開く。とても高圧的なその声に、僕は恐怖に慄く。
いえ、全くありません。
「それでも、やらかすんですね?」
にこにこしているように見えて、実は笑っていないスバルが、眼鏡の位置を直す。
圧が……圧が……ッ!!
「お前、前はもうしないと言っていなかったか?」
ロゼッタが鋭く僕を刺す。
よくわからないけど、すみませんでした!!
「もう、モー君、騒ぎは何回目?今まで放送委員のよしみで庇ってあげてたけど、今回はさすがにないからね?」
ハリーがそう言うが、そもそも今まで守ってもらったという実感はない。
それにしても、マティ×アイが!!尊い!!
オロオロするアインに、まるで元気づけるかのように頭を撫でるマティアス!後ろでやってるから誰も気づいてないけれど!尊い!!
しかもあの身長差もよき!いい具合に身長差があるから、アインがマティアスに対して上目遣いになる!かわよっ!
ゴホンゴホン。
流石に今、興奮する訳にはいかない。
「貴様、何故ここに連れてこられたのか、分かるか?」
「いえ……。ただ、もうちょっと穏便に……」
「あ"?」
「いえいえ!なんでもありません!!」
マティアスに、まだずきずきする頭のことについて文句を言うと、どすの聞いた声が漏れた。
慌てて僕は前言を撤回した。
「さて、モー君。なんで詰められてるのか、分かってるよね?」
気を取り直して、ハリーは僕にそう問うた。
「……もしかして、僕が描いたイラストが、何かしましたか?」
あまりの既視感。僕は、それについて聞いた。
「ああ。貴様が描いたイラストの所為で、アインがかなり迷惑をこうむってな?」
「俺が証人となろう」
マティアスとフィンレーのダブル王子パンチ。マティアスが明らかにキレてるのと、フィンレーが物静かなのが怖い。
「……」
アインは何も言わない。というか、こちらを見もしない。これ、僕を視界に入れたくない、という事なのだろうか?
「前も同じ事やったし、今度は生徒会役員に被害が出てるから、生徒会長として、生徒会を介入させたいんだけど、ハリエはどうしたい?」
ハリエとは、会長がうちの委員長を呼ぶ愛称だ。
正直、会長の案は、とても魅力的だ。それはハリーも同じだったらしく、すぐに色よい返事を返していた。
「まあ仕方ないわね。こっちの監督不行届だしね。いいよ。生徒会に却下されまくったら、いい加減モー君も理解できるでしょ。それに、モー君と私、学年違うから、面倒見切れない部分もあるし」
「そう言えば留年しましたね」
「……」
スバルが僕に冷たい視線を送る。確かに、あのループスでさえ、留年してないのにな。
「さて……次やらかしたら、どうすると、前回私に言いましたっけ?」
「……申し訳ございませんでした!!!」
この後、スバルに何をされたのか、口が裂けても言いたくない。
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という事があった。結局、アインはあの時かなり気が引けていたらしく、あの後かなり謝ってくれた。
完全なる被害者なのに、本当にいい人だ。
アインがそこまで怒ってなかったが、その他(マティアス、ロゼッタ、スバル、会長、ハリー)が怒っていたため、全くのお咎めなしにはならなかった。
しばらくの間、奉仕活動をすることとなり、風紀委員会のポスターも作ることになった。
それで迎えた聖夜祭。パートナーはハリー。互いに婚約者がいないため、あまり者同士、という事で組んだのだ。
そして、そんな僕の情報網に、とある情報が引っかかった!!
「まさか、アインがハロルドとパートナーを組むとは……!」
正直、ハロルド×アインは、ちょっと解釈違いだ。
そう思いつつ、早めにハリーと一緒に会場入りした。
「見て、あそこにいらっしゃるの……」
「生徒会の方々だわ……本当に見目麗しいわ」
「私、あの方々に近づくために、あえてパートナーを連れてきませんでしたのに!」
「そうですわ!まさか、アムステルダム様とアイン様がパートナーになるなんて、予想外でしたわ……」
令嬢たちの会話から、どうやら生徒会メンバーが会場入りしたことを察する。
そっちに目を向けてみると、そこにはペアルックの豪華な衣装で、寄り添い合う二人……。
「ちょっと!モー君汚い!」
いつの間にか、鼻血が出ていた。僕は慌ててそれをハンカチで拭った。
いや、結構ありかも……。ハロルド×アインは。どっちも雰囲気似てるからこそ、同じタイプの攻め受け両方見れるのがお得すぎる……!
「今日のパーティーでのイラスト、描いてもいいけど絶対に外に流出させないでよ」
「分かった……」
今年の聖夜祭、本当に来て良かった!!




