クリスマスのパーティー
Side Raphael
聖夜祭。
国民、いや世界中がこの日を祝福する。
前世では、クリスマスと呼ばれ、恋人たちのイベントとして名高い、俺たち非モテ(リクは非モテではなかった。だろうな!)は、街を見て血涙を流す、そんな特別な日。
そんな俺は、学園が主催するパーティーで、パートナーがいなかった。
いや、探そうとはした!だが、俺はそもそもAクラス唯一の生徒会役員!割と遠巻きにされている。
そういう訳で、人を探そうにもいなかった。だから俺は、ギルマスを頼った。
しかし、ギルマスは教師だ。どうやら、割とゆるゆるなこのパーティーでも、だめなことはあるらしく、教師とパートナーにはなってはいけない、というルールがあるらしかった。
俺は文句を言いたかったが、そもそも貴族は幼い頃、高位貴族ともなると、生まれる前から婚約者がいるのは当たり前らしい。
だから、普通は無難に婚約者をパートナーにするし、(パートナーじゃなかったら、不仲なのかという噂が立つ)そうでなくても、学友がいる。
その日までに、慌てて縁談を組む家もいるらしく、普通は、誘う相手がいない、ということにはならないのだ。
それでも、当然あぶれる者はいるし、自らソロで参加する者もいる。
だから、当然あぶれたからと言って、恥ずかしい、という事もないのだが……。
「何で俺以外の生徒会メンバーは、皆パートナーがいるんだよ……」
「ハロルド様とルー以外は、そもそも婚約者がいるから」
「私は、ルー様に誘われたので!」
「俺だけ仲間外れかよ……」
「奇数だからな。俺かアインが余るより、お前が余った方が安全だ。あとは、積極的に誰かと組まなかったせいだな」
「た、確かに……ですね」
アインに一撃くらわされ、サティが追い打ちを決め、最後にハロルドが止めを刺す。
俺は、心に甚大なダメージを負った。
いや、確かに俺よりもずっと、ハロルド(攻略対象)とか、アイン(攻略対象)とかを一人にさせとくのはマズいけれどもさあ。
いや、本気でマズいか。この学園での、生徒会メンバーという肩書は、結構いいのだ。
平民である、『白桃』のヒロインが、ゲームでいじめられたのも納得である。
そして、なぜ俺はいじめられないのか小一時間。
そして、ハロルドとアインの衣装は、暗い青を基調としていて、差し色に銀色が使われている。
2人とも雰囲気が似ているし、物凄く似合っていて格好いい。サティは、薄いピンクのドレスを着ていて、可愛い。流石ヒロイン。
ルーデウスは、オドオドしつつも、薄茶色のコートが似合っている。あのヤンデレ攻略対象、ルーデウスと名前が一緒で、髪の色も一緒なのだが、まさか同一人物なのか?
「……いいな」
どこからともなくやってきたマティアスが、かみしめるように呟く声が聞こえた。欲にまみれたその声に、俺は内心引いた。というか、アイン以外は全員引いてた。
改めてアインを見ると、細身のスラックスにコートは、アインの細身の体形を強調しているように見える。
……これデザインしたの、マティアスだろ。攻略対象になれるぐらいのイケメンから出てくる言葉が、キモオタと一緒なんだが。
もう転生者確定だろ。誰がこんな俺様王子と恋したいんだよ。俺の前世の妹、マティアス推しだったんだが。
「どうしましたか?」
一瞬にして沈黙した俺たちに、アインは不思議そうに聞いてくる。
いや、さっきのマティアスの発言、聞いてなかったのか?
「……さっさとパーティーに行くか」
「はい」
ハロルドが引き離しにかかった。ハロルドが差し出した手に、アインが手をのせた。それを、歯ぎしりしていそうな表情で見るマティアス。……あんた、婚約者いるのに何やってんだ。
ジェシカは、呆れたように笑っていた。まあ、いつも通りのことだし、俺も慣れてきてはいるのだが。
俺はアインに言われ、服を仕立てた。俺はこのパーティー専用の服を仕立てるほどの金はなかったから、制服で参加するつもりだった。しかし、アインがそれに難色を示し、そして服を買ってくれた。
結構金持ちらしく、ポンと買ってくれたのだが、同じ平民なのだろうか……?
流石、叙爵の話があるだけはある。
そんな俺の服は、赤を基調としたデザインだ。デザイナーの腕が良く、特に希望を言わずとも、格好いいものができた。
「はあ、僕たちも」
「は、はい!」
ルーデウスは結構余裕そうだが、サティはかなり緊張している。こうしてみると、ルーデウスは本当に貴族で攻略対象なんだな。
そうして俺たちは、会場に入ることになった。
きらびやかな海上、大きなテーブルの上には豪華な料理。学園主催のパーティーに参加したのは、これが初めてではないものの、いつもその豪華さに圧倒される。
「ねえみてくださいまし?格好いいですわね、あの二人」
「本当ね。しかも二人とも、婚約者いないんでしょう?」
「そのようですわ。わたくし、あの二人のどちらかの婚約者になりたいですわ」
「でもあなた、婚約者がいらっしゃらなかったかしら?」
「いるけれど……でもあの二人よりも格好良くもないし、将来も……ねえ?」
「ふふふ、あの二人と比べるのは可哀そうよ。私も同じ意見だけれども」
くすくす陰湿な話をしながら笑う二人の令嬢に、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
女って怖……。うちの女連中は、こんなこと考えないぞ……。
本当に二人の婚約者が可哀想だ。
だが、確かにハロルドとアインは、他の男と比べ、確かにレベルが違った。
マティアスとジェシカも、他とレベルが違うのだが、二人は婚約者同士だ。話にならない。
会場中の、令嬢たちの猛獣のような視線にさらされながら、音楽が始まった。ダンスが始まったらしく、次々と二人組で踊りだす。
俺は相手がいないから、壁のシミになっているしかない。
そして、この会場での最注目ペアも、ダンスするらしい。それを、心底悔しそうにするマティアス。アインへの執着、本当に外には露見していないんだな。
さっき、護衛を心配していて、心優しい!素敵!と言っていた令嬢がいた。顔なのか?顔がいいからみんな騙されるのか?
ちなみに、ダンスはハロルドが男役で、アインが女役だった。それを見て呆けていた令嬢たち。確かに、あれは見とれる。
前に学園銃を揺るがした事件があったのだが、それがぶり返してしまうのだろうか?
それだけが今、とても心配だ。




