男のロマン(らしい)精霊武器
学園が終わった放課後。
まだ、生徒会の仕事はあるものの、書記はエヴァーゼ先輩だけで回るらしく、他にも庶務は、どうやら学園の備品を壊したらしいウィリアムズ様兄弟が、罰としてすべてやるらしく、僕たちは早々に邪魔だとして、生徒会室から追い出されてしまった。
クァッド様は、ウィリアムズ様兄弟を手伝うらしく、そのまま残った。
そして、追い出された僕たちは、勉強と言ってもやることがないため、素直に鍛錬することになった。
一緒に追い出されたハロルド様は、暇ではあるものの、戦えないため、見学に。
「しっかり間合いを確認して。僕相手にそんなに詰めてどうするの」
「キャッ!」
僕は、懐に飛び込んできたサティ姉さんを殴り飛ばす。
「あと、気配を消すなら殺気も消して。居場所バレバレ」
「うおっ!?」
僕は振り向きざまに、ラファエルにナイフを投げる。
急に目の前に現れた小さなナイフに、ラファエルは大袈裟に身をのけぞらせ、何とか回避した。
「僕は魔法と魔力と異能力、一切使わないんだから、それをうまく使ってよ」
「距離とってもいつまでたっても近いんだもん!」
「それはラファエルに助けてもらってよ。ラファエルも、僕翼使わないんだから、空飛べば簡単に距離取れるでしょ。サティ姉さんを援護して」
「それを片っ端からお前が叩き落としてるんだろうが!」
僕のダメ出しに、二人が揃って反論する。
だって、そもそも僕はこのナイフしか攻撃手段がないから、距離を詰めないと話にならないし、目の前の、明らかに目くらましが目的な魔法は、当たっても痛くもない。
この戦闘訓練のルールは簡単。僕対サティ姉さん、ラファエルの一対二で、僕の攻撃手段はこの短刀のみ。それに対してサティ姉さんやラファエルは、何でもありだ。
最初、ハロルド様は無茶だ、と言っていたが、二人が僕に一切傷をつけられないでいるのを見て、色々と理解したそう。
「お前、ちょこまかと動いてるから、全く本命の魔法が当たんないんだよ!」
「そうだよ!本当は身体強化でも使ってるんじゃないの!?」
ラファエルとサティ姉さんが僕に詰め寄る。
僕はあまりの圧に、たじたじになる。
「そ、それは当然、僕はラファエルよりも軽いし、サティ姉さんより筋肉がある。その分俊敏にもなるよ」
「うう……」
「だから、僕が離脱できないくらい大きな、高威力の魔法を放てばいい。そうすれば、僕は碌に自分を守る術がないから、もしかしたら勝てるかもしれないよ?」
僕に勝てる方法の一つを提示すると、うなだれていた二人の目の色が変わった。
「そんなことすれば、地形変わるだろ!それに、そんな魔法使えないし!」
「そもそも、アイン全く魔法放たないじゃん!無理だよ!」
「脳筋だな……」
ハロルド様がボソッと呟いたのが聞こえた。
ちなみに、ミリア姉さんと同じ条件で戦ったとき、僕はこれで負けた。
俊敏性が高いのは、いいことではあるが、パワーで全てを解決できてしまうような人相手には、かなり不利だ。
ミリア姉さんには、魔法で動きを制限された上で、高威力魔法を撃ち込まれた。
もしこれがラース兄さんなら、なんともなかったのだろうが、僕はそうもいかない。
「俺は戦いについて、よくわからないが、攻撃する前に逃げ道を潰すのは、いい考えじゃないか?それと、恐らくこいつは殺しても死なんだろうしな」
「……ハロルド様、それは二人に僕を殺せと言っているんですか?」
親指で僕を指し示すハロルド様から飛び出た言葉に、僕は驚愕する。
「それで死ぬようなら、そもそもジャスパーに負けてただろう」
「それも、そうですが……」
夏季休暇、僕はジャスパー様を瞬殺した。
前に戦った時よりも、格段に動きはよくなっているように感じたが、まだ命のやり取りを経験したことがないように感じ、そこまで脅威にも感じなかったのを覚えている。
「それと、この二人はどれほど強いんだ?」
「ラファエルは、ジャスパー様とは苦戦しますが、恐らく勝つ可能性がありますね。ジャスパー様よりは体の動かし方がめちゃくちゃなため、経験で勝っているだけです。すぐに負ける日が来るんじゃないですか、今のままだと」
「俺は剣術のけの字も知らないんだが」
「基本、魔物相手には奇襲が一番だから。剣術がなくとも、構わない」
暗殺なんて、そもそも奇襲で殺すし。一度も交戦したことがない暗殺者もざらだ。
「私は私は!?」
「異能力以外で、特に目立ったところはないかな」
「ガーン」
「サ、サティ姉さんは最近始めたばかりだし、仕方ないよ」
落ち込むサティ姉さんに、僕は慌ててフォローを入れる。
「だって、使える武器がこれしかないのに、近づきすぎって……!」
「だってナイフ同士の戦いで、僕がサティ姉さんに負ける想像がつかないから……」
「それはそうだけども……!!」
僕のナイフは片手にすっぽりと収まる小さなナイフだ。対してサティ姉さんは、短剣というには結構大振りだ。
でも、僕にはこのナイフを投げる、という選択肢もあるから、サティ姉さんはそれを注意しながら戦わなければいけない。
結局、近すぎる間合いは危険でしかない。
「サティ姉さんなら槍かな……。剣でもいいけど、斬ろうという思いが先行しすぎて、結局距離詰めすぎるところまで、想像がつく」
「槍って、アインが前使ってた!」
「槍は初心者に優しい武器だから、僕も使えるんだよ。ただ、槍だと室内戦に不利だから、他の武器を伸ばしたし、刀の場合は師匠のような存在がいたから」
「へえ、師匠……」
「あのトンデモ剣術か?なんでただの刀が、氷出すんだよ!俺もやりたいよ!」
ラファエルが嘆きだしたが、そもそもあれは精霊の力で、人間に例えるなら異能力だ。
魔道具は、魔法陣が刻まれた道具であるため、異能力を持っている武器は魔道具ではない。
そして、そういう武器は、全て精霊が宿っていることが前提なのだ。
どっかの誰かが、精霊武器、という事を言っていたが、まさしくそうだと思った。
「まずは、凄腕鍛冶師を見つけない限り、無理だね」
「無理難題すぎ」
どうやら、とんでもない無茶であるという事に気が付いたようである。
“世界最高の鍛冶師”と名高いリズ姉さんですら、今までで五つしか作り出せていないのに、そんな武器を作れるほどの凄腕鍛冶師が、特にそっち方面の伝がないラファエルが見つけ出せる筈もない。
どうか、諦めてくれ。




