サンドイッチの食べ方について
Side Matthias
ある日の昼下がり。婚約者とのデートと称して、休日に街に降りた俺たちは、人気なカフェに入った。
もちろん、王太子とその婚約者が街に出るのだ、当然護衛はいる。
その護衛の一人にアインもいるが、離れた席で待機をしており、また彼の異能力で作ってもらった符を使い、周囲に俺たちの会話が聞こえないようにする。
「ジェシカ、ダブルデートをしないか?」
「いいわ。いつ、どこにしましょう」
ジェシカは、ゆっくり上品にカップを口に運ぶ。
当然、俺たちの姿は見られているため、大きく取り乱すことはできない。
だからこそ、俺たちは細心の注意を払う。
「時間は冬期休暇の二日目で、場所は街だ。その時なら、予定は空いてる」
「いいわ。私もその時は暇だし」
俺の提案に、ジェシカが乗る。
「ジークを連れていく。護衛はアインだ」
「分かったわ。ふふ、ジークが一年年下だから、なかなか会う機会が少ないのよね。どっかの誰かとは違って」
恨めしそうに見るジェシカに、俺は笑いが止まらない。
「俺はアインを自分の専属護衛にしているからな。アインが二歳年下でも、問題はない」
「本当にずるい。アインがものすごく忙しくなればいいのに」
「二日間、ステラに行く用事があるらしいが、それだけだしな」
ジェシカの恨みごとに、俺は余裕で返す。
「私は来年からじゃないと、ジークと毎日顔を合わせることも難しいのに……」
「でも、まずは意識させるところからじゃないか?」
ジークはいまだに、ジェシカのことを兄の婚約者、としか思っていないようだが。
それも、俺との婚約状態が続いているからなのだが。
俺と年が近い上、誰かと婚約状態ではない公爵令嬢なんて、いないからな。グリンダはハロルドと、ロゼッタはスバルと婚約関係らしい。
あとは、いたとしても年が行き過ぎていたり、幼すぎたり。侯爵令嬢以下だったりする。
別に侯爵でもいいのだが、それよりも公爵の方がいいのは、火を見るよりも明らかだろう。
「いいなあ、聖夜祭のパーティーでも、アインは護衛として、マティアスの近くに侍るんでしょ?私は来年からしかパートナーになれないし、しかも確定でなれる訳でもないし」
「アインと組ませて、パートナーをしれっと交換すれば、問題ないだろ」
「そうね……。私たちの婚約なんて、そう簡単に解消できないから」
国で一番大きい婚約なのだ。解消するのは、かなり大変な上、変な噂も立ちやすい。
「ああ。まず俺が、王になる意思がないことを示し、そのあとにアインがそれなりの身分であること、ジークに王になる意思があること、これをすべて満たさないと、何もかもうまく行かないしな」
「そう!アインはずっと叙爵を避けてるし、ジークはマティアスがいる手前、王座につく意思なんかないし!」
ケーキを上品に食べながら、ジェシカは文句を言う。
「一応、王家は位の高い令嬢としか、婚約できないからな。ジークと年が近い令嬢なんて、皆婚約者がいるか、イヴァンかシルフィアが婚約を結んでいる家かのどちらかだからな」
「つまり、私たちが穏便に婚約を解消すれば、ジークと婚約するのに最も相応しいのは、私、という事になるのね」
「ああ。アイツも、ジェシカと婚約をしたくなければ、そもそもそういう風に動けばいいのに。動かなかった、という事は、別に憎からず、と思ってるんだろ」
「そうね」
俺たちは、爽やかな笑みを浮かべながら、どす黒い悪巧みを話し合う。
近くに座ってこちらを見ているアインが、仲良く笑い合っている俺たちを見て、不思議に思っている。
周りの護衛たちも、微笑ましそうだが、現実は自分が好きな相手を、どうからめとるか、どう自分の策略にはめるのかしか考えていない。
自分が望む未来に突き進むため、互いを利用し合っているのだ、俺たちは。
「一回、デートの時はぐれることにしましょうか。そうすれば、相手と合流するまで、私たちはお互いにデートを楽しめる!」
「ああ。アインはかなり敏感な上、人探しが得意だが、中身は大人に見えるがしっかり子供だ。気を逸らし続ければ、探し物を探すどころじゃなくなる」
「ジークは、押しが弱いから、私が引っ張っていくわ。いやなら拒絶すればいいだけも話だもの」
「しかも、他の護衛は、アインの実力を完璧に認めている。だから、他が護衛につかない」
「絶対に成功させましょう。このダブルデートを!」
俺たちは、あくまで上品に見えるよう心掛け、内心は熱い思いを燃やしていた。
「ああ。俺たちは、城下町を歩くから、お前たちは貴族街を歩け。夕方になれば、待ち合わせ場所に集合すればいい」
「でも、ジークやアインにばれるんじゃないかしら?」
「もし、まだいなければ、相手がいるあたりの場所を探ればいい」
アインの気を逸らすのをやめれば、すぐに居場所は割れるだろうしな。
「そうね、そうしましょう」
俺たちの会議が終わるとほぼ同時に、俺たちは食べ終わった。
護衛の一人が、慌ててサンドイッチを三つくらい口に押し込んでいたが、もうちょっと頼む量を抑えることはできなかったのか。
流石に、それでも入りきらなかった最後の一つを、その護衛と同席していたアインが食べていた。
俺たちに後れを取らないよう必死で、両手で一生懸命に食べるアインは、とてもとても可愛かった。
……カメラほしい。
ただ、同席している他の護衛と比べ、頬一杯に詰め込んでいないことから、明らかに平民じゃないんだろうな、というところがうかがえる。
こういうところ、結構抜けてるよな、アインって。




