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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩

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衝動去ってまた衝動

僕はにっこりと笑って、未だ破壊衝動から抜け出せないラース兄さん――5に言ってやった。


「単純だよ」



僕のその言葉に、5ははっとしていた。やっぱり、戦闘中においての5の勘は鋭い。



「限界を超えて使った。操作できる血の量を増やすために態と傷付けられに行ったし、5にも僕の血を染み込まさせて貰った。この量を動かせば、僕は必ず強い衝動を起こすだろう。でも!これが僕の本気だ!」

そう言いながら、僕は5を血操術で縛る。流石の5も、簡単には抜け出せないようだ。



「ぐッ、放せ!」

「そう言われて素直に放す馬鹿はいない!さあ!神の名を持つ輝きの槍よ!天より穿(うが)たれ、我が敵を(めっ)せ!神槍(しんそう)グングニル!」

「ぐ、ぐおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」

僕の放った魔法は、光属性としては最上級のものだ。これで大体どんな物でも滅することができる。


光り輝く巨大な槍が空から降ってくる。5は、僕が行動を縛っているため、大した防御もできない。神の名を持つ槍は、すさまじいスピードで5に突っ込んでいった。



「な……!まさか、その魔法を放つとはな……!」

「ま、不味いわね。こんなの、地形が変わっちゃうわよ……?」

あまりの強風に、マティアス様とグラッチェス様が悲鳴をあげる。


普通、そんな攻撃をもろに受ければ、消し炭になってもおかしくない。というか、此岸の魔族でさえもなる可能性がある。



―――だが、その括りに九星は含まれてはいないが。



「ハァ、ハァ、ハァ、や、やったぞ……!1!」

豪快な土埃の中から、5がしっかりと立っているのが分かる。所々、服が擦り切れているが、意識はしっかりあるようだ。それに、破壊衝動が収まった様子はない。



別に手加減した訳ではない。九星という化け物の中で、5が特別頑丈だっただけだ。



「お前の作戦はよかったが、俺を完全に消耗させることは出来なかったようだなァ!次は俺の――」

「まだだよ。僕の本気はこんなもんじゃない!」

「まだそれを放つのか?!やめろ!周囲に甚大な被害が出るぞ!!」

マティアス様が叫ぶが、僕には関係ない。それよりも5を止める方が先だ……!



「闇より出でよ、万物を切り裂く悪魔の剣よ!我が敵を切り裂き、呪い殺せ!テルヴィング!」

「おいおいおいおい!それ、連続して出せるモンじゃねェだろ!」

5は、連続で魔法を放つ僕にドン引きしている。マティアス様とグラッチェス様は言わずもがなだった。


確かにそうだ。普通の魔術師なら、10年は魔力を溜めない限り使えない、威力だけが取り柄の燃費が最悪に悪い魔法だ。多くは存在すら知らない。

もし、存在を知っても、御伽噺と同じように捉えるか、そうでなくても実用性皆無な魔法と記憶するだろう。


だが、僕は持ち前の魔力の多さと、魔術の実力――要は魔力の効率が素晴らしくよく、他の魔術師が使うよりも遥かに必要な魔力を削減することができる。だから、こういう大型魔法――神話級魔法を少しは気軽に放てる訳なのだ。



邪悪な闇の気配を持つ不気味な剣が、僕の呼びかけに応じ、地面から現れた。それは僕の敵をいつでも切り裂けるように、空中に浮き、僕の命令を待っている。


「これで止めだ。光は闇を作り、闇は光を作る。我は光と共に昇り、闇と共に沈む者。永久の連鎖を汝に――アイオーン」



とても強く美しく輝いている光の鎖と、反対にとても禍々しく、深く暗い闇の鎖が僕の周りに現れた。僕を取り囲むように二つの鎖は動く。僕が合図を送ると、鎖は5を捕まえようと、5に襲い掛かる。剣は鎖の間を搔い潜って5に切りかかる。



「クソッ!全てを焼き尽くす地獄の業火よ!我が敵の命を焼き尽くし、地獄の罰を与え給え!レーヴァティンッッ!!!」

5はそれに対抗するため、神話級魔法を使う。

地獄の業火が5を守るように取り囲む。剣や鎖の行く手を阻む、決壊のような役割をさせ、何とかしのいでいる。

僕の放った魔法と5が放った魔法。この3つは、術者の命令を忠実に守るため、正面衝突した。


元々5は魔法が苦手だ。そのため、神話級魔法一つ打つだけで魔力を切らしてしまう。



――でも、それでいい。破壊衝動は、破壊できる力がなくならない限り続く……。魔力も立派な武器の一つだ。



神話級魔法が至近距離に三発撃ち込まれ、その衝撃で土が抉れ、地形が変わ――らなかった。



「は……?」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「は……?」

誰かが言った。それは、5――ラース兄さんが発した言葉ではないのが容易に理解できた。



「気づいてたんだ」

「当たり前だ。そもそもお前が環境破壊に一番シビアだったからな。荒野でもない所で、あんな大魔法放つなンざ、おかしいと思わねェ訳ねェだろ」

「それもそうだね」

僕はクスリと笑った。



僕は、ラース兄さんを投げ飛ばすと同時に、ちょっと広い結界を張っておいた。それは、神話級を何発か、重点的に放たない限り壊れない代物で、自動回復機能まである。


結果、周囲に何の被害を(もたら)すことなしで、ラース兄さんの破壊衝動を収めることができた。



「ほんっと、お前は用意周到だよな」

「それが僕の仕事だからね」

「職業病かよ。――ま、よかったな」

「え?」

「声。出るようになったンだろ?めでたいな。何事も一つずつだ。

まあ、さ、俺たちは、アイン、お前に傷ついて欲しくないのが一番だからさ。無理、すンなよ。なンか、辛いことがあればさ、俺たちを頼れ。なンせ、俺たちは仲間(アストロロジー)なンだからな」

「ラース兄さん……」

僕は、涙が出そうになって、俯く。ラース兄さんの顔を見れない。多分、したり顔で笑っているのだろうが、なんとなく気恥ずかしかった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おい、その眼……大丈夫か?」

「大丈夫なように見える?」



――不味い。



あれから、僕とラース兄さんは激しい戦闘の後の体を引きずりながら、待たせていたらしい馬車の所までやってきた。


慌てて向こうへ行ったかと思ったら、しばらくして僕とラース兄さんがボロボロで帰ってきたのに吃驚したのだろう。御者は、ちょうど手に持っていたブラッシング用の櫛を落としてしまった。


マティアス様とグラッチェス様は汗だく、僕とラース兄さんは血と汗と土だらけなので、まずは水を浴びることにした。その最中、ラース兄さんが、吸血衝動を起こしかけている証拠である、僕の瞳が赤くなっているのを見つけ、今に至る。



「で、血ィ吸いたい訳か。俺の衝動を抑えるために自分が衝動起こしてどうすンだよ」

「ち、ちをすいたい」

「あーあ駄目だこりゃ。食い意地張って全く話聞いてねェ。さっさと血、飲ますか」

そう言って、ラース兄さんはマティアス様に話しかけた。


「ちょっといいか、王太子サマ」

「どうした?」

「アインが吸血衝動になっちまってなァ。悪いが、少し血を分けてやってくれねェか?」

「構わない」

「え、ちょっ、ちょっと待ってくださいまし!何を言ってるんですか!?」

「血を分けて欲しいンだ」

「貴方の血は!?」

「俺の血は不味いって。飲めたモンじゃないって言ってたなァ。あれを飲むぐらいならそこら辺の人間襲ったほうがマシ、ともな」

「俺がいいと言っているんだ。今更口を挟むな」



――3人は何を話しているんだろう?ああ、早く半身のあの白い首筋に齧り付きたい……!



マティアス様の首筋は白い。前に血を飲んだ時、ちょっとこぼしてしまったことがあった。その時、白い首筋に滴る赤い血が、より食欲をそそってしまい、いつもより多く飲んだことは記憶に新しい。



「ほら」

「!!」

マティアス様が、襟を広げた。僕が血を吸いやすいようにしてくれる。僕は――差し出されたそれに、思いっきり牙を突き立てた。

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