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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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協力要請

色々と、生徒会の仕事に奔走していたり、要とフィンレーが細部を調整したりをしていたりしている間に、時間は飛ぶように過ぎていった。


聖夜祭が終わって一週間経てば、一月程度の長期休暇が訪れる。

スーさんにも話は通して、ペスケ・ビアンケに護衛の依頼を出した。


要という、A級冒険者という名の武力がいなくなる以上、変なことを考える輩がいないとも限らない。

そのための対策なのだ。


スーさんは元踊り子で、かなり人気だったらしい。その美貌と、卓越した踊りの技術で、観客たちの心を鷲掴みしたのだとか。


そんなスーさんは、とある有名な旅芸人の一団に所属していた。そこは、久遠にも来国できるほどの有力な一団だった。

その久遠で出会ったのが要だ。


どうやら二人は一目見た途端、恋に落ちたらしい。しかし、要は僕という婚約者もいたし、何より最近没落気味だった実家からは、皇の血を引く吸血鬼を娶ることを、再三求められていた。

それは、一族に生まれる此岸の数が、他家と比べて圧倒的に多いことからの焦燥感に過ぎなかった。


だからこそ、その佐倉家次期当主の要と、人間で爵位もないどこの馬の骨とも知らない踊り子。

この二人の結婚は、認められなかった。


確かに、一夫多妻だとしても、必ず偏りが出る。それどころか、スーさんは要の半身だから、要は僕を放っておいてスーさんに夢中になる筈だ。

そう、佐倉家の連中は考えたらしい。


それは、僕も同じ見解ではあるものの、結局要はスーさんと駆け落ちした。僕に、何も言わずに。


当時、佐倉家がかなり荒れた。ただその時にはもう既に、僕は自分で自分を守る術を得ていたし、皇としては、最初から僕と要を結婚させるつもりはなかったらしい。


いくら要と僕が乳兄弟で知己(ちき)の関係だったとしても、かなり渋っていた。結局、僕たちの婚約が成立したのは、唯一僕が家族以外に懐いていたのと、ちょっと特殊な吸血鬼だったからだ。


特殊と言っても、元々戦闘についての才能があっただけだ。その年齢でかなり強かったし、吸血鬼の空を飛べる特性を捨てたとしても、関係なかったという、稀有な吸血鬼。それが、要だ。



だから、たぶんA級冒険者よりも実力はあるし、元々森だったところを開拓して、家も自分で建てた要は、本当に同年齢なのか疑いたくなるくらいにしっかりしている。


だからこそ、要に任せていれば、ほとんどのことは何とかなる。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次に、僕はサージェント兄さんたちと接触した。


「久しぶり、テン兄さん、サージェント兄さん、ヒュー兄さん」

「……久しぶり」

「久しぶりだね。ええっと……アイン?」

「さっさと入れ」

ヒュー兄さんは、顎をしゃくって僕を中へ促した。


僕は、すぐに中に入り、素早くドアを閉める。

テーブルを四人で囲い、僕は口を開くこととした。


「サージェント兄さん、ポガチョスという国を知ってる?」

「ポガチョス……?」

「何が言いたいんだ?」

テン兄さんは首を傾げ、ヒュー兄さんは敵意丸出しで会話に割って入る。


「――単刀直入に言うと、僕はしばらく、そのポガチョスの調査でセオドアから離れる。それに付き合ってほしいんだ」

「馬鹿なことを言うな。なんでサージがそこにいかなきゃならない?どうせ九星の任務だろ?」

「それが、そこは獣人の国なんだ」

「獣人の国ィ?別にサージがいなくてもいいだろ」

「サージェント兄さんはほら、獣人だからポガチョスに紛れ込みやすいと思う」

僕は、まっすぐにヒュー兄さんの瞳を見た。しかし、ヒュー兄さんは揺るがなかった。


「だろうな。だが、いなくても何とかなるだろ?」

「ずっと、姿を隠し続けていたら、何とかなるね。でも、僕はそれをしない予定だよ」

「は?なんでだよ」

ヒュー兄さんにギロ、と睨まれる。そこまでヒュー兄さんが止めるのも、何か理由がある筈だ。

けれど、ポガチョスについて、さっきまで知りもしなったのに……?



「ノア兄さんからの指令だよ。――必要になったら、王族を暗殺しろ。おかしいと思わない?」

「おかしいところ?確かに思うが、別にノアは人間だ、誰だってこういう言い方もあるんじゃないのか?」

「ない。未来が見えるなら、どちらの方がいい、なんて簡単に分かる筈」

「そんなに簡単にいく訳ないだろ」

ヒュー兄さんは皮肉に笑うが、僕はずっと引っかかっている。

ポガチョスの王族が死んで、九星は何の得を得るのか?


答えは、何も得ない。

なぜなら、ポガチョスの獣人が増えたところで、ルーヴァ・ハティート・ポガチョスは結局負けるから。

どんなに戦力を投じようが、僕たちが暴れたどんな戦場と、大きく逸脱している訳でもない。

だからこそ、ずっとステラの王として、ステラの得になることを考えているノア兄さんの考えが、全く読めないのだ。


「僕は、行くよ」

「おい!」

「ねえ、アイン。一つ聞きたい。――僕の異能力が、必要?」

慌てるヒュー兄さんを尻目に、サージェント兄さんは僕に問いかける。その質問は、僕を試しているかのようだった。


「必要。今ちょっと調べた限り、感染症が広がっている。それに対して、僕は特に医学的知識がある訳でもない。――だから、僕はサージェント兄さんについてきてほしい」

「分かった」

「ありがとう」

ホッとした。これで、合法的に王族に近づけるかもしれない。そして、探る。ウィキッドが紛れ込んでいるか否か。

肩の力が抜けた僕に対し、未だにヒュー兄さんは厳しい表情を作っていた。


「俺も連れてけ」

「え?でも、サティ姉さんはここに帰ってくるんじゃ……?」

「サージと急用ができた、とでも言えばいいだろ。テンは留守番な」

「分かった……」

ヒュー兄さんの言葉に、テン兄さんは頷く。


かくして、僕のポガチョスへの旅は、サージェント兄さんとヒュー兄さんが付いてくることとなった。

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