パーティーのパートナー
サティ姉さんとルーが、隣の部屋に消えた後、カーティス様が、大きなため息を吐いた。
「あーあ、パーティは楽しみなのに憂鬱だな~」
書類を前にしたカーティス様が、腕を頭の後ろで組みながら、口を尖らせていた。
「俺の方が憂鬱だ。何せ、婚約者がいなくなったのだからな」
「いいじゃん。好きな女の子、選び放題で」
「お前は……」
ハロルド様が呆れたように、眼鏡のブリッジをつまむ。対してカーティス様は、一瞬で笑顔になる。
「遊んでないよ?浮気はアウトだからね。それに、相手の子が可哀想」
「当然だ。お前のような軽薄な奴に遊ばれた挙句、嫉妬深いガナーシャの嫌がらせを受けるなど、災難でしかない」
「ひっどいな~。あ、そうだ!これ、確か同性同士でもパートナーになれるらしいし、アインと組んだら?」
「「はい?」」
「あ"?」
ハロルド様と僕は困惑し、マティ様は、ドスの効いた声でカーティス様を脅す。
「マティアス様はジェシカ嬢がいるじゃないですか。どうせ、サティはルーに誘われただろうし、そうなるとアインには相手がいない。そうでしょう?」
「そうだな」
「そしてフリーにしておくのもよくない」
「ああ」
「だから、たまたま空いてるハロルドとパートナーになれば、面倒ごとは少しは避けられません?」
ね?とマティ様に笑いかけるカーティス様とは対照的に、マティ様の機嫌は急降下だ。
「どうせ、学生のままごとのようなパーティですよ?友達同士でパートナーになる学生も少なくないですし、いい考えだと思いますけどねー?」
「……ハロルドは、どうだ?」
「グリンダが面倒そうですが、多少は大丈夫でしょう」
「……」
マティ様は、人差し指を顎につけ、必死に何かを考えている。
しかし何も思いつかなかったのか、溜息を吐いてから、仕方ない、と言った。
このまま上手くまとまりそうでよかった。ミリア姉さんは、この学園の臨時教師として、ここに来る手筈になっているから、それを速めることも考えてはいた。
だが、それをしなくてもよさそうだ。
「……クラスで、問題を起こさない女子生徒を探すのは駄目なんですの?」
「それだ」
ジェシカ様の言葉に、すぐさま飛びつくマティ様。心なしか、表情が輝いている。
「でも、下手したらその子、虐められちゃいますよ?ほら、どっちも人気なんで」
カーティス様は冷静に、僕たちの顔を指さして言った。
「そんなに大事ですかね?」
「さあ?俺もよくわからない」
僕たちは、その意味が分からず、二人で顔を見合わせる。
「ああ、確かにな……」
「それに、多分……」
「似た者同士だし、とりあえず意味が分からなくても、そのまま組ませたらいいんじゃない?」
「はあ、そうするか……」
マティ様は、何かを諦めた様子だった。そんな様子に、僕たちは余計に分からなくなった。
「戻りましたー」
そんな会話をしつつ、更に仕事を進めていると、他の委員会を回ってきたラファエルが、生徒会室に帰ってきた。
ラファエルは、やや疲れたような表情をしていたが、この部屋に漂う変な雰囲気に気づき、怪訝な顔をしていた。
「……どうしたんです?」
「聖夜祭のパートナーについて。――ラファエルは、相手決まってるの?」
「決まってない」
「ラファエルは……大丈夫だね~」
「え……なんです?」
カーティス様の一言で、ラファエルはより困惑顔になる。
「カーティス」
「別に、貶してる訳じゃないよ?ただほら、ハロルドはとんでもなく優良物件じゃん?宰相子息で、公爵令息。成績優秀で、将来安泰。婚約者もいないから、めっちゃ狙い目じゃん。
アインは、結構顔いいし、学年一の秀才。王太子の側近だから、将来安泰なのは変わりないし、婚約者もいない。更に、平民だから、爵位が低くてもアタックしやすいしね~」
ハロルド様の咎めるような声をものともせず、カーティス様はハロルド様と僕がフリーだと危険な理由を丁寧に並べていた。
「それは分かりますよ。……というか、この二人本気で気づいてなかったんですね」
ラファエルは、周囲の反応に納得した僕たちを見て、呆れきっていた。
「俺は、パートナーを作れれば作りますよ。ただ、別にフリーでもいいと思っていますが」
「でも生徒会役員だから。ラファエルも、案外優良物件ではあるよ」
「……マジで?」
ラファエルの瞳が、驚愕で開く。
「だって、俺たちと一緒に仕事してるでしょ?それも、Sクラスを押しのけてAクラスが。アインがだめなら、ラファエルに流れる子もいそうだしね~」
「男同士だから、そんなに虫よけ効果にならないんじゃないですか?」
「オーラでそもそも近づけなさそうだけどね~」
「確かに」
何を想像したのかはわからないが、カーティス様とラファエルは、笑っていた。
「……とにかく、時期をごねてずらしておいてよかった」
「なにをごねたんだよ」
ラファエルが、僕が安堵して呟いた一言に、目ざとく気付く。
「僕、ノア兄さんからずっと叙爵の打診をされていて……」
「でもそれ、来年には関係なくないか?」
「あ」
「お前なあ……」
確かに、来年の存在を忘れていた。そんな僕の様子に、ラファエルは開いた口がふさがらない様子だった。
「しかも、公爵……」
「マティアス様の次に身分が高くなりますわね。ふふ、その時は、私はアイン様、と呼ぶべきでしょうか?」
「ジェシカ様……。流石にそれは……」
「ふふふ」
ジェシカ様は、楽しそうに笑った。
僕は、来年の聖夜祭が大変そうだと思いつつも、今年の聖夜祭をどうやってやり過ごそうか、と考えていた。




