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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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休暇前の大仕事

夜。誰もが寝静まった後の、静かな時間。僕は屋上にいた。


「お疲れ様。ノア兄さん、わざわざ鳩を寄越さなくても、テレパシーでいいのに」

僕はそう言い、伝書鳩の足から、紙を受け取る。多分、指令が書かれているのだろう。ラース兄さんが、ノア兄さんに報告している筈だから、それに関しての指令が、正式に下りたのだろう。


そう思いながら、僕は紙を丁寧に広げる。


そこには、案の定ポガチョスの調査の記述があった。更に、必要に応じて王族を暗殺しろ、とも書かれている。

流石に考えすぎだとは思うものの、ノア兄さんの言う事だし、王族に関しては注意して見ていく必要がありそうだ。


僕はそこまで読み進めたが、さらに続いていることに気づいた。


「続いてる……?」

僕は、不思議に思って読み進める。

まずは、ルーヴァとハティートについて、怪しい動きがあるのかどうかの調査。

そして、ステラに一度行くこと。

……ああ、ついに来るのか。


ノア兄さんは、僕に公爵の爵位を与えるつもりだ。その言葉を見て、僕はもう観念することにした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とある日の朝。授業が始まる前の時間。マティ様は、明らかに不機嫌な顔をしていた。


「……」

「めっちゃ不機嫌じゃん……。何したの、アイン」

「お前は敬語を使うことを学べ」

「相変わらず堅苦しーなあ、もう」

カーティス様が、ヘラヘラとした笑いを、ハロルド様に向ける。それに煽られ、怒りをより露にするハロルド様。


「えっと……」

「簡単な話ですわ。アインが九星の任務で、学園を離れる必要があるからですの。それを昨日言われて、すっかりへそを曲げてしまったのですわ」

「もうちょっと、伝え方を工夫すればよかったですね……」

「お気に入りの護衛がいないからと、すぐへそを曲げるマティアス様がおかしいのですわ。アインが気に病む必要はないですわよ」

呆れたように言うジェシカ様に、僕は内心辛辣だな、と思った。



マティ様がここまで不機嫌なのは、昨日、僕が九星の任務をこなすために、休暇中は学園にいることができない旨を話したからだ。

代わりにミリア姉さんが来ることを、マティ様に伝えたのだが、特にこれといった反応もなかった。



「アイン、休暇中いないの?」

「いないよ。任務があるから」

「……それは――暗殺なの?」

サティ姉さんは、声を潜めて僕に問う。僕は、静かに首を振り、口を開けた。


「違うよ」

そうとしか言えない。

まだ、サティ姉さんは軍の残酷さを知らない。知っていたとしても、慣れていない。

だから、知らせる必要もないだろう。


ノア兄さんは、ポガチョスの王族を、殺す気だという事を。


指令は、殺しても殺さなくてもいい、という風にしていたが、未来が見えるノア兄さんが、そんな不確定な指令を下すことはない。

多分、僕に暗殺指令を出すことに、若干の抵抗があったのだろうが、ノア兄さんが言うなら、ポガチョスは九星に何かしらの危害を加えるのだろう。


ただ、わざわざ伝書鳩を使ったのは、分からないのだが。

ちなみにその鳩は、僕の部屋でぐっすり眠っている。一度ステラに行く必要があるから、任務に行く前に、ステラに行こうかな。ついでに、鳩を届ければいいし。


僕は、そこまで考えながら、未だ何もはまってない、左手の親指を呆然と眺めた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



生徒会は、段々と仕事量が多くなっていく。聖夜祭の準備と引継ぎ作業を並行して行っている。


ここから夏までは、4年生の卒業式と、聖夜祭以外に行事はない。

その聖夜祭が、4年生の最後の生徒会としての大きな仕事だ。



聖夜祭は、長期休暇の前にやる行事だ。


それは、国ごとに由来は違うものの、同じ日に行う、聖なる夜を祭る行事だ。


セオドアでは、大昔、戦争によって離れ離れになってしまった二人の仲のいい兄弟が、たった一日だけ会うことを許された日、らしい。

セオドアが元々ロースタスだからか、ロースタスとほぼ一緒だ。


ロースタスの伝承は、更にその兄弟が、ロースタスを建国した王と、その兄だ。兄は死に、弟は生き残った。兄を失い、嘆き悲しんでいる弟を見て、精霊が憐れに思い、弟の誕生日であるその日に、天国にいる兄を一日だけ、現世に連れてきた。

死んだはずの兄にあった弟は、涙を流して喜んだという。


ステラでは、異能力が人々に宿ったとされる夜らしい。だからステラでは、その異能力を与えた存在に対し、感謝をして祭りを開く。


久遠では、初めての此岸が生まれた日、らしい。衝動に悩まされる彼岸にとって、此岸の魔族は希望だった。だから、初めての此岸に見な、狂喜乱舞したらしい。



伝承が違うのにも関わらず、他国にも同じ行事があるのは面白い。

ただ、どれもかなり古い伝承のため、口伝えで伝わっていく最中に、正確なものは失われてしまった可能性が高い。



学園では、聖夜にパーティーを開く。今年は、王族がいるからか、例年より豪勢になる予定らしい。

生花の手配をして、業者に講堂の飾りつけを頼む。演奏家に予約を入れた後は、料理を手配する。

これを、数ヶ月前から始める。


ただ、このパーティーは社交界のような魑魅魍魎が渦巻くパーティーではないため、招待状はあえて送らないが、パートナー同伴で参加する。

当日までにパートナーが見つからない場合は、フリーで参加して、相手を見つけることもある。


だから、都市によってはフリーな人物が多い場合があるらしい。



「アイン、パーティーには参加する、よね……?」

「するよ。サティ姉さんは、誰をパートナーに選ぶの?」

サティ姉さんはホッとしたらしい。


「じゃあ……」

「サティさん、ちょっと話いい?」

「どうしましたか、ルー様?」

サティ姉さんは、何かを言いかけたが、ルー様に話しかけられ、そのままどこかへ行ってしまった。



――どうしたんだろう?



僕は首をかしげたが、マティ様は妙な表情をしていたし、ジェシカ様はにやにやしているような気がした。

他の人も、何か微笑ましいものを見るような目で見られたのだが、唯一ハロルド様は、何も変わらなかった。

僕と二人で、首をかしげた。

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