獣人とは
獣人。彼らは、獣と人の中間の容姿をしている、いわゆる亜人だ。
獣人は、他の種族と比べ、頭が悪い代わりに力が強い。体も大柄なものが多く、そして種族というものがある。
サージェント兄さんが獣人だが、彼は羊の獣人だ。羊の獣人の特徴は、人の容姿に羊の角と耳、それから横長の瞳孔と天然パーマの髪だ。
山羊の獣人もいるのだが、彼らとの違いは髪質だけだ。
彼らを間違えると、烈火のごとくキレる。それはまるで、鬼人のラース兄さんに鬼、というのと同じくらい。
鬼は、衝動を抑えきれずに狂化した姿だ。それは、他の彼岸にも怒りうる出来事で、鬼とはまた別の単語で指される時がある。
それを彼岸は恥、と捉えており、ラース兄さんが怒るのも当然である。
閑話休題。
それが彼らの世間が抱く印象であり、やや間違っていると言えばそうだ。
獣人が優れていないのは、頭脳ではなく協調性。頭脳も、確かに優れていない場合もあるものの、サージェント兄さんは錬金術師だ。
当然錬金術は頭がよくない限り、できるようなものでもない。
そんな彼らが国を作っても、さほど違和感はない。ただ、好戦的な性格の持ち主が多い獣人が戦争という場所があったのにもかかわらず、出てこなかったのが異常だ。
好戦的では無い種族が国を建てたなら話は別だが、そうならそもそも宣戦布告はしなかった筈。ルーヴァとハティートは、特に獣人と、特筆するかかわりもなければ、あそこの近くを拠点とする獣人は、かなり好戦的だった筈。
第二のチーズルとするには、ちょっとチーズルに近すぎる。あまり、信じられなかった。
となると、いくつか可能性がある中での最も説得力があるものは、感染症により、戦争ができる状態ではなかった、という事だ。
それなら、戦場にいなかった理由も説明がつくし、ステラに自信満々に宣戦布告した理由もわかる。
宣戦布告した後に、感染症が流行ったのだ。しかし、僕は医者ではないため、獣人の生態についてや、病についてはよくわからない。
これは、休暇中に自分の目で確かめるしかないが、その時サージェント兄さんも連れて行った方がいいかもしれない。
それが、たまたま獣人と人間の生活区域を分けていただけで、獣人のみにしかかからない感染症ではないという可能性もある。
僕は、治療薬を作ることはできないし、妊婦のララ姉さんを連れまわす訳にもいかない。
それに、獣人であるサージェント兄さんがいれば、ちょっとは警戒心もほぐれる気がする。
更に、僕は蝙蝠の獣人に成りすますこともできる。
どこまで効果はあるかはわからないが、やった方がいいだろう。
ちなみに余談だが、エルフとドワーフは、仲が悪い。自然と共に暮らすのがエルフで、人工物に囲まれて暮らすのはドワーフ。
エルフはドワーフを蛮族だと見下し、ドワーフはエルフを傲慢だと罵る。
つまり、とんでもなく仲が悪い。
それは、人間にも似たようなことが言え、特に金属の武器を持っている人間を、エルフは嫌う。ドワーフは、人間に対しては良き隣人なのだが、それも排他的なエルフとは対照的だ。
だからこそ、ドワーフと気が合い、ドワーフに師事したリズ姉さんは、エルフの中の異端中の異端だろう。リズ姉さんの好きな武器は刀で、それはエルフが最も嫌うもののうち一つだからだ。
ちなみに、エルフの国も、ドワーフの国も存在しないが、エルフには、クリスタルパラスの近くに隠れ里があるらしい。
そしてドワーフは、国を建てるより、人間の国で武器を作る方がいいのだとか。彼らはクリスタルパラスを中心に暮らしている。
なんだかんだ言って、彼らは気が合うのかもしれない。
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深夜。眠そうな目をこすりつつ、僕の後ろを歩くフィンレー。ぶつくさ文句を言う要。
「そろそろ、出発の日も迫ってきたし、改めて作戦を確認しよう」
僕は、二人を見て、口を開く。
「僕からお願いしたいことは大きく分けて二つ。一つは、イーストフールの、フィンレー以外の王族の失脚。当然、後ろ暗いものがある、準王族もね」
「分かった。あとは、ステラの件だよな?」
「そう。昔にあった、ゴブリン村――というか集落だね。あそこを調べて欲しい」
「確か、またゴブリンがたまり始めてる、って言ってたな」
「うん。あそこの土地が悪いのか、あそこに集まるのが過酷だからなのか……。フィンレーもいるし、無理に村の壊滅を目指す必要はない。いざとなれば、九星を派遣して貰えれば終わりだしね」
「まあ所詮他国だしな」
要のいう事は、冷たいようで的を射ている。
他国の問題に首を突っ込むことは、あまりいいことでもない上に、利点がない。
更に、ステラの場合、解決を可能とするだけの暴力を持ち合わせている。なら、つついて余計なことをする必要もない。
「これ、休暇だけじゃ無理だよな……。行くだけで、どれぐらいかかると思ってんだ……」
「だから、休学届、出しといてね。実家のごたごたを片付けるため、と言って」
「今じゃなくていいんじゃないか?」
「今じゃないと、ロースタスにウィキッドが侵入して、王族を洗脳し始めるけど。そうなったら、ロースタスは今度こそ、歴史から消されるよ?何せ、今やロースタスがある意味はない。セオドアがあるからね」
僕は、冷たい声を出す。まだ精霊的に、セオドアがロースタスという認識であるという事が、超古代国家に知られていない。
知られたら、クリスタルパラスやステラはともかく、久遠はロースタスの存在を許さないだろう。
僕が行方不明になるのが決まったのが、ロースタスの所為だから、時雨兄上はロースタスに対し、いい感情なんか持っている訳がない。
それに、イーストフールのように、他の国の王族も腐っている。時雨兄上を、見た目だけで侮っているかもしれない。実際は、4倍近い年齢差なのだが。




