戦争
Side Lara
戦争はいつも残酷だ。
私は、後方に建てられた天幕の中、内心ため息交じりにそう呟いた。
今日は珍しく、一つの戦場に九星が固まっている。一人一人の戦力が桁外れすぎて、そんなことはほとんどなかったのだが。
ノア君は、九星のみならず、一人一人の兵士に至るまで、脅威的であることを知らしめたいらしい。
だから、異能力者をたくさん配備した。
「アタシたちがあれだけ暴れれば、少なくともステラに戦争を吹っかけようなんてヤツ、いないと思ったンだけどねェ」
リズちゃんは呆れている。
当時のオケディアは、全方向に戦争を吹っかけていた。しかも、それを可能にする莫大な戦力があったのも厄介だった。
当然、私たちが革命を起こす前にも、新たに宣戦布告した国も多かった。
だからこそ、ノア君とゼス君は戦後処理が大変だった筈だ。私も、他国を王妃として回った。
ほとんどの国は、彼我の実力差を理解して、すぐに和平交渉を持ち掛けてきた。
こちらから理不尽に宣戦布告され、政権が変わったから和平を結びましょう、なんて向こうからすれば、あまり気分のいいものではないのが事実だが、何を言ったところで、九星がいなくなった訳でもない。何なら、九星の意見がそのまま国の意見になる。
これが、大国と小国の違いだ。オケディアは、領土も少なく、これまでは戦争も嬉々として仕掛けるような感じではなかったため、小国と思われがちだが違う。
そこを理解した、賢い国は多少の賠償金と、捕虜がいたなら捕虜も返還された。
しかし、ステラをただの小国と侮った国々は、むしろ攻撃を仕掛けたことにより、彼らが不利になるような和平条約を結ばされたりもしていた。捕虜は、一人返すにつき、お金を要求した。
結局、ほとんど捕虜の返還請求はこなかったものの、彼らは国に見捨てられたと理解し、ステラで第二の人生を歩むことになった。
そこでも問題は発生した。
当然、捕虜は他国の人間だ。文化も違ければ、慣習も違う。
そこで諍いが起きてしまったのだ。それを抑えるためや、取り締まりのために、色々と動いた。
そこでようやくうまく回るようになったステラに、ウィキッドからの襲撃と、他国からの宣戦布告。
九星は、表に出しこそしないけれど、怒りを抱えているのは当然だろう。
『全軍、前進だ』
ノア君が、軍に対して号令をかけた。
ルーヴァ・ハティート・ポガチョス軍は総勢43万人。対してステラ軍は10万人。数は、こちらが圧倒的に劣っている。
だが、こちらがやや劣勢ではあるものの、大きな差は付いていない様子だった。それは、異能力によって、戦力が底上げされているからだろう。
「さて、これから私は忙しくなるわね」
私は、飲みかけの紅茶をそのままに、天幕の外に出る。早速、怪我人が運び込まれていたらしい。
運び込まれた男は、矢を腰に受け、苦痛に表情が歪んでいる。
「回復」
私は、男に刺さった矢を抜いて、回復魔法をかける。すると、先程まで痛みで呻いていた男は、驚いた表情と共に立ち上がった。
「い、痛くない!あ、ありがとうございます!」
男は礼を言うと、すぐに戦いに向かった。
「怪我人が!!」
「私が全て治します」
私は、次々に運び込まれる怪我人を、異能力で直していった。
私の異能力である“無限の生”は、回復魔法の威力をかなり底上げする異能力だ。だから、大体の傷は、最も威力が弱い回復魔法である、回復で何とかなってしまう。
だからこそ、矢の傷もナイフの傷も、武器に塗られた毒だって、簡単に治せる。
流石に、蘇生はできないものの、生きてさえいれば、一瞬で傷を回復させることができる。
地面が、段々と赤く染まる。
私は、最初は一人一人に魔法をかけていたが、段々と運ばれる人数が多くなり、範囲回復魔法を発動したりもした。
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後退の命令が出され、怪我人の治療がひと段落したとき。ノア君が、私の元に歩いてくるのが見えた。
「ここにアイン君がいれば、向こうのヒーラーとか、指揮官とかを暗殺して貰えたのになあ」
口惜しそうに言うノア君に、私は笑った。
他の九星が聞けば、顰蹙を買うだろうが、妊娠している私を戦場に出したくなかったのだろう。でも、アイン君がいたところで、私が戦争に行ったのは変わらない。
なぜなら、ミリアちゃんは、私ほどの回復魔法を使えないから。でも、アイン君がいれば、戦争はすぐ終わるのは、間違いようのない事実でもあった。
「私は大丈夫よ。それに、未来が見えるノア君がいるんだもの。私の危険は、回避してくれるでしょう?」
「それは当然だよ」
「それに、ゼス君だって、暗殺に向かない訳じゃないでしょ?アイン君とは違って、殺し方が特徴的になるだけで」
「ゼスト君か……。ここから狙撃してもらうか」
ノア君は、私の考えをいい考えだと言った。そして、無理をしないように、と言い、他の九星の元に向かった。多分、ゼス君に元に言ったんじゃないかな。
私は、膨らんだお腹を優しくさすった。私たちの子供には、戦争なんて知らずに育ってほしい。
私は治癒士として、数多の戦場を見てきた。その中には、見るも無残な死体になっている者も少なくなかった。そんな光景を知らない人が、増えてくれればいいな、と思いつつ、私はひと眠りすることにした。




