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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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欲望は人を強くするのかもしれない

僕が生徒会室についたときには、もう既にほとんどの人物が揃っていた。


「え……な、何かありましたか?」

「あるに決まってるでしょ!?」

「そうだよ!」

「「心当たりあるでしょ~?」」

「ええっと……」

一気に詰め寄られ、困ってしまう。


扉の音が鳴り、背後に誰かがぶつかる感覚があった。


「うおっ、こんな入り口に止まるなよ、アイン」

「あ、すみません」

僕は素直に謝り、さっと避ける。


「一体何の騒ぎですか。先輩方までみんな揃って……」

「いい?今日は特別なイベントなのよ?」

「そうですか?」

「そうだったか?」

僕は、ラファエルと共に首をかしげる。


だが、二人とも何も心当たりがないため、もしや人間のみの特別なものが……?と考えが飛躍すると、マティ様が助け船を出してくれた。


「お前は先週末、シャンメルの元へ行ったんだな?」

「はい、行きましたね」

「なら、手土産というものが存在すると思わないか?」

「手土産……あ、そういうことでしたか」

ようやく合点がいった。どうやら、そういうことらしい。


シャンメルのお菓子がここでも人気で嬉しい。


「こんなに貰ってしまって、少し困っていたんです。しかし、ここまで喜んでもらえるなら、シャンメルの読みが当たりましたね」

僕は、亜空間収納から、シャンメルからもらった紙袋を取り出す。

その紙袋に、みんな顔を輝かせていた。



「生徒会に入ってよかったです……!」

「代金を払いたいですわ」

「シャンメルの好意なので……。恐らくシャンメルは固辞すると思います」

「そうよね。――公爵家でも、頻繁に食べれないものなのに、とても贅沢ですわ……!」

皆が大絶賛する中、サティ姉さんがこそっと小さく囁いた。


「こんなにおいしいなら、料理の腕が壊滅的な人でも、美味しいものが作れるのは当然よね……」

「そ、そんなに言わないで……。い、今は大丈夫だから」

「吸血鬼が作ったものなんか、信じられない」

「それはそうだけれども……」

あの黒焦げパンケーキは本当にごめんなさい。


「お前は一体何を作ったんだよ……」

いつも笑顔なサティ姉さんが、虚無な顔をしていたためか、ラファエルが恐怖で表情が引きつっていた。


「材料が結構間違えてるパンケーキ」

「……ちなみにどれくらい?」

「油と酢を間違えて、蜂蜜と油を間違えて、バターと牛脂を間違えてたわね」

「どんなパンケーキだよ」

想像したのか、ラファエルの顔が青い気がした。


泡吹いて倒れたからね……。一応味見したけれど、吸血鬼の舌は、全くあてにならない。


「何故か人参とピーマンが入ってたらしいの」

「逆になんで入れようと思った?」

「あ、アクセントにいいかなって……」

どこかで、苦みは料理をおいしくする、って言ってたから……。


「そんなアレンジはいらん」

「はい」

一発で台所を出禁された僕は、素直に頷いた。



……そう言えば、要は大丈夫だったから、って琥珀兄上に食べてもらったら、青通り越して土気色だったな……。そういうことだったんだ。


「マティアス殿下に言われた時は、何の冗談かと思ったんだが……」

「私もー!冗談だと思うよね!?」

「でも吸血鬼は、半身と出会うまではずっと、物凄くまずい血で衝動が起きるのを止める必要があるんだよ」

「ああ、言ってたな……」

「シャンメルさんのクッキーは美味しいと感じるの?」

「感じるよ。僕は、基本的に半身の血より不味くて、此岸の血よりおいしいもの、という区分しかないけど、シャンメルのは違うから」

「おおざっぱすぎる……!」

ラファエルは頭を抱え、サティ姉さんはあちゃー、と額に手を当てていた。



「……今普通に会話したが、前から知り合いだったのか?というか、アインはいつ敬語をやめたんだ」

「私、元々九星と同郷?なんだろう、九星が九星になる前一緒だったみたいな……?」

「そうだね。その時に一緒にいたんだ」

「知らない振りしてたのか?」

「というより、サティ姉さんは記憶喪失だったので……。あまりいい記憶でもないし、思い出さないならそれに越したことはないかな、と」

僕の言葉に、ラファエルは納得したらしい。ラース兄さんも同じ対応だったし、不思議に思ってたんだろう。


「ずっとサージェントたちが言ってたんだよね、黒髪の知り合いはいないかって。アインのことだったんだね」

「お前はそもそもアイン以外の黒髪の知り合いに会ったことがあるのか?」

「ない!」

「なら分かれ!」

サティ姉さんは今日も抜けている。ラファエルは、そんなサティ姉さんに呆れているのだろう。



「でも、黒髪緑眼って言ってたから……」

「僕は黒髪緑眼だよ。物凄く黒に近いけれど」

「そうなのよね……アインは確かに緑眼なのよね」

僕の瞳は昔は今より緑だっただろう。だから、僕の瞳が黒ではなく緑という事に、違和感がなくなったのだ。


「……見えない」

「よく見れば、確かに緑のところはあるがな」

「マティ様!」

後ろを振り返ると、背後から覗き込むようにしているマティ様と目が合った。


「アイン、今日はやけにサティと距離が近いな?」

「ええ、どうやら記憶を取り戻したらしくて……」

「あら、サティは記憶喪失だったの?」

「はい、実はそうでして」

「それで、お前たちは記憶を失う前の知り合いだった、と」

「そうなんです」

ジェシカ様が、驚いたように口に手を当てる。マティ様は、面白そうに笑う。


サティ姉さんの記憶喪失も、幼い頃のことなので、ほとんど関係なかったりする。



「あ、クッキーなくなりそう」

サティ姉さんが、なくなりそうなクッキーを見つけ、素早くつまむ。


「お前は食べなくていいのか?」

「僕はよく食べていましたから。僕は少しで大丈夫ですよ」

シャンメルは、誰かに料理を食べさせるのが趣味だという、変わった人だった。

だから、しょっちゅう口の中にクッキーを押し込まれていたことを思い出す。


あの頃は、本当に血しか飲んでいなかったから、食事をおろそかにしていたのだ。


「本当にいい人脈だよな、一体どこであったんだ」

「それはとある屋敷で……」

「……がんばろうかな」

「欲望が溢れ出てますわよ」

よだれがたれているラファエルに、ジェシカ様が冷たく一言。


「サティ姉さんとあまり変わらない……」

昔からケーキを何個も食べるサティ姉さんは、甘いものに目がなさすぎる。ラファエルは、そんなサティ姉さんと同じ目をしていた。

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