表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

230/283

世紀末な事情

「いや、教えて貰う。同じ魔族として、人間の国に危害を加えるのを黙って見ている訳にはいかない」

「ならお前は死んでくれ。――人間の国に危害を加えたくないんだろ?」

「今じゃない。――別に、ペスケ・ビアンケには何もしない。それに、その魔族を殺すことになったとしても、決して苦しませずに殺すことを誓う」

「去れ。ここはお前がいていい場所じゃない」

「いていいかどうかはロレンツォが決める。君も僕も、決定権は持ち合わせちゃいない」

僕も負けじと言い返す。


単純に、僕は彼らの目的を達成するために生かされているだけ。何故、僕に死んでほしいのか。正直欠片もわからないが、九星や要は僕に死んでほしくないと言う。

ここは、唯一僕に死んでほしいと思っている()()なのだ。


何が何でも手放す訳にはいかない。


九星や要に接触して、心変わりをしないように。



「まあまあ落ち着いて二人とも」

「少し、討論に熱が入りすぎてしまったようで」

「はあ?お前、タラヴを殺そうとしただろ」

僕のロレンツォへの弁明を、遮る低い声が、隣からする。

その声だけで、激怒していることを察した。


「殺すかどうかはまだ決めてない」

「殺す選択肢が入ってる時点で、信じられんな」

「仕方ないでしょ。魔族には、ロースタスの件がある。あれを、二度と引き起こしてはいけない。それが、妖狐や吸血鬼の仕業だったら――その二種族の虐殺が久遠で始まる」

「はあ?」

恫喝の声。僕は、無視して続ける。


「生まれるだけで罪、という存在がいるんだよ。ここで生きていても、周囲を含め、不幸にしかならないなら、ここで殺した方が、まだ幸せだろう」

思い出すのは、蘇芳兄上の言葉。あれが、魔王太子派の言葉なのだ。

死ぬべきだ、息をするだけでも罪深い、みっともない、下劣な淫魔……。下手したら、奴隷のように扱っても、何の罪にもならない時代になるかもしれない。

そんな社会で、金華の誰かの妻になる……。想像するだけで、最悪な気分だ。吐き気がする。


処刑になったとて、温情もないだろう。きっと、むごい死に方になるだけだ。なら――僕が殺ぜばいい。


「手前……!」

青筋を立てて青年がキレる。ここは、とても仲間思いだ。だからこそ、一度仲間に引き入れた存在を殺す、と言われ、頭に血が上ったのだろう。


「ここにいる時点で、自分の能力の使い方を知らない可能性がある。そこのラファエルのように。だからこそ、僕が使い方を教えることもできるし、僕なら不測の事態にも対処することができる」

「いらねえ。手前がいなくとも、俺たちだけでやれる」

「ラファエルがいれば、ある程度はうまく行くかもしれない。けど、それだって限度がある」

「それでも手前の手は借りない」

僕たちは、睨み合うこととなった。互いに一歩も譲ることができない。きちんと芯のある信念が、互いの対立をお(ぜん)立てしているのだ。


「アイン、この子が例の子だ」

「ラファエル!ついに仲間を売ったか!!」

目の前の青年が怒鳴る。ラファエルに連れてこられた幼女は、その声に酷く怯えた。


「……意外に大きい」

「そこ!?」

「今何歳?」

「4歳だって」

僕の質問に、ペスケ・ビアンケの少女が答える。まあ、嘘だろうな。


「今、何歳?僕、吸血鬼なんだけど」

「37歳……」

消え入りそうな声で、しかし確かにそう言った。


彼女は、妖狐だ。それも混血に近いが、純血の。


「……不味いかも」

顔から血の気が引いたのを感じた。


「どうしてだ?」

ラファエルが、暢気な顔で、暢気に聞く。


「君、今までどこにいた?今まで、どれくらい力を使った?」

僕は、妖狐の細腕をがっと掴み、鬼気迫る表情で聞く。


「……怖い」

「怖がってるだろ!!」

「黙って」

僕はうるさい青年を拘束魔法で黙らせ、じっと妖狐――タラヴを見つめる。


「質問を変えようか。なんで()()()()の君が生きているの?どうやって生き延びた?」

「ち、力を使って……」

「だろうね。それで、生まれは下級貴族でしょ?」

「な、なんで知って……」

「調べた。久遠の第九魔王子を調べている時に、偶然見つけた。――金華に引き取られたとばかり思ってたけど、自力で抜け出したんだ?」

タラヴは、だんまりを貫いた。


「きんか?」

「きんかって……金貨?」

多分漢字が違うだろうが、どうでもいい。その沈黙こそが、答えだ。


「悪いけど、君には死んでもらう」

「おい!!」

「や、やだ……!」

「嫌がってるだろ!!」

「君、国をいくつか傾けたよね?」

「え?」

タラヴの顔が、強張った。


「知らないとは言わせない。ロースタスの件が重なって、妖狐と吸血鬼は危機的状況に立たされている。過激派に出会えば、周囲の人間ごと殺される」

「俺たちが守ればいいだろ!!」

「相手はラファエルより強いかもしれないし、それが複数人の可能性が高い。勝てる?彼岸だったら十中八九殺すこともできない」

「そ、それは……」

「今はいい。すぐには殺さない。でも、何かその子がやらかしたら、僕はすぐにでも殺す」

「手前……!」

「し、死にたくないッ……!」

「――どうやら、わざと国を傾けた訳じゃなさそうだし、その国だって小国も小国。どうせすぐに滅ぶ運命だった国ばかりだ。それに」

僕は、タラヴの顔をじっくり見て、懐にしまったままの、魔法陣が書かれた紙を手渡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ