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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩

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Bloody Battlefield

狂気的な笑みを浮かべながら、ラース兄さんは僕に殴りかかる。常人では見えない速度で連撃されている。頬にラース兄さんの拳が掠り、血が出る。


「ぐッ……!」

「おらおらおら!守ってばっかじゃ俺に勝てねェぞ!?」


確かにその通りではあるが、現状手立てがない。少し距離が離れれば、魔法という手もあるが、距離を取ろうとすると、すぐさま距離を詰められ、振出しに戻る。


そもそもラース兄さんは、頭を使った戦闘はあまりしない。だからこそ、こういう風に理性が欠如した状態でも、十二分に力を出せるのだが……。



「うわぁッ……!」

腕で防御しようとしたが、間に合わず、もろに顔に食らってしまった。あまりの勢いにラース兄さんから視線を外してしまった。


「もう一発、喰らいやがれ」

「ぐッ……!!」

僕の腹にラース兄さんの拳が食い込む。口から悲鳴が漏れ、体は吹っ飛ばされていく。



僕は暗殺者(アサシン)で、本来は一騎打ち(タイマン)なんて苦手なのだ。防御を鍛えるよりは、素早さや攻撃力を集中的に訓練した方が効率がいい役職なのだ。本来なら。


でも僕は、今のように身を隠さずに戦うこともある。ただ、正直なところ、隠密しながら攻撃した方がやりやすいし性にあっている。


対してラース兄さんは狂戦士(バーサーカー)だ。九星の中で、攻撃力と防御力はピカイチ。筋肉がごてごてついているのに、かなり素早い。ラース兄さんにはもちろん接近戦では勝ち目はほぼない。

九星で最も強い攻撃力を持つ上、リミッターを外しているラース兄さんは素手でも十分強いのだ。



「チッ、手応えがねェ。さてはお前、威力殺したな?」

「当たり前でしょ?ラース兄さんの拳を受け止めてピンピンしてるの、エリック兄さんとオットー兄さん位だよ。僕が真面に受けたら、軽く意識飛ぶよ?」

「死なねェだけマシだろ」

軽口を躱しながら、僕はラース兄さんからの攻撃を受け流す。


軽く意識が飛ぶなんてとんでもない。過去には一日中目を覚まさなかったことがある位だ。そんな威力のある拳が無限に襲ってくる。毎秒寿命が縮む思いだ。

だが、それは教えてやらない。



「しつこい、なあ!ハッ……!」

「ゴポッ……」

「これで暫くは大人しくして!ハァ、ハァ、ハァ……」

途切れ途切れになる息を急いで整えながら、僕はラース兄さんに目を向ける。彼の首は――胴体と泣き別れていた。



人間や、此岸の魔族は、こうされたら死ぬしかない。そういう不文律が、この世界にある。

だが、唯一、彼岸の魔族と呼ばれる存在は、その不文律が通用しない。種族でそれぞれ違う手順を踏まない限り、彼岸は死なない。だから当然――。



「チッ、動けなくなったじゃねェか!」

首だけになったラース兄さんと、胴体だけになったラース兄さんが動き出す。


「違ェ!もうちょっと右だ!右!ああ、前すぎンだよ!」

自分の体に野次を飛ばしながら、首だけで器用に飛び跳ねる。漸くラース兄さんの胴体が首を見つけ、傷口に繋ぎ合わせた。



「ふぅ、第二ラウンドだ」

「上等……!」

僕たちは戦闘を再開した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どれ位経っただろうか。ずっと後方で僕たちを追いかけていたマティアス様とグラッチェス様が合流した。


それ位の時間になると、互いに無傷、という訳にはいかなくなっている。

まず僕は、既に3回は心臓を握り潰された。ラース兄さんは5回首を飛ばされ、10回以上心臓を貫かれている。


辺り一面には血の匂いが漂い、僕らは血と汗と泥でぐちゃぐちゃになっていた。



「はぁはぁはぁ、いい加減……止めなさい……!」

「アイン、ラース、今すぐ止めろ。味方打ちしている場合か?」

「……ッ!す、すみません、マティアス様!今ラース兄さんが暴走していて……がッ!!」

勢いのついた拳を顔面に叩き込まれる。会話は中断され、勢いよく吹っ飛ぶ。



「俺と殺り合ってンのによそ見か?随分と余裕じゃねェか」

なァ?と言いながら、不適の笑みを浮かべるラース兄さん。ここまでされた理不尽に、僕はキレた。



「説明位させろ!!」

「あ"あ"?そもそも本気すら出してねェ野郎の言うことなンぞ、聞くかよ?なァ、1(ワン)!!」

「――後悔しないでね?5(ファイブ)


決めた。絶対殺す。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Matthias


アインとラースが戦っている。互いに傷つき、転がり回り、激しく目まぐるしく位置を入れ替えながら戦っている。


アインは吸血鬼だし、ラースは鬼人だ。文字通り人間離れした戦いだ。

それに血を流しているにも拘らず、怪我をしている様子はない。

つまり、怪我をした側から治っているのだ。だが、俺が言いたいのはそこではない。



「なあ、ジェシカ。お前はこれをどう見る?」

俺は視線を前に固定しながら問う。



「貴方が言っているのがこの地面の血の事なら、私が言う事は無いわね。ただ一つだけ。どうやったらあんなに血を流せるのかしら?」

ジェシカも俺と同じようにして答えた。


確かにそうなのだ。人の物差しで測るから、異常に見えるのかもしれないが、さすがに魔族同士の戦いでも、汗を流すかのごとく血が流れているのは普通ではないと信じたい。


「致命傷を治療したのか?」

「あれを人間の物差しと同じように考えない方がいいわね。私、漸く魔族の種族がわざわざ二つに分けられている理由を知ったわ。此岸の魔族って、ちょっと人間より身体能力が高いだけだもの」

「そうだな」



魔族は此岸の魔族と彼岸の魔族に分かれている。此岸と彼岸の違いを知ろうにも、そもそも彼岸の数が足りな過ぎる。

ここに彼岸が二人いるだけで奇跡に近い割合だ。尤も、彼岸の近くには必ず一人は彼岸がいるため、そう珍しいことでもないようなのだが。



「彼岸の魔族、か。何故彼岸なのだろうな」

「さあ?何か意味があるんじゃないかしら」

此岸と彼岸の由来も気になる。桁外れな生命力が彼岸の者のように見えたのだろうか?


「アインやラースのように、同じ彼岸でもかなり違うが、彼らは同種らしい。反対に、此岸は彼岸とかなり似ている。強さは違うらしいが、それでも強い。――どうして、此岸と彼岸なのだろうな」

「それは私もわからないわ。でも、態々分けるってことは、そうする必要があった、という事で合ってるわよね?」

「俺もそう思う」

魔族についての会話に華がさく。



「「あ」」

アインがラースの首を切り落とした。ごろりとラースの首が転がる。勝負はついたが、あれじゃあ、流石に生きてはいないだろ――。



「チッ、またかよ!そんなに人の首落として楽しいか!?」

「まだ……?僕そろそろ倒れそうなんだけど……。なんでそんな頑丈なの……?」


その通りだよ。なんで生きてんだ首切り落とされて。何もなかったかのように会話すんな。



「1!もうへばったのか?じゃ、仕方ねェ。アンタが俺の衝動を解消出来ないンなら、俺はどっかで暴れるしかねェな?」

「――!まだ……!まだ……イケる!僕を……舐めるな、5!」

「――そう来なくちゃなァッッ!」



そう言って、二人は激突する。しかし、職業の差は、確かに存在する。幾ら強いとは言っても、アインは暗殺者。不意打ちが得意だが、真正面から打ち合うのを想定していないということにもなる。対してラースは狂戦士。近接主体の戦士だ。



――アインにとって相性が悪すぎる。



それが俺とジェシカの共通認識だった。が、九星の都市伝説は事実なのだと、俺たちは思い知ることとなる。



「……?」

「……」

ラースが何かを訝しみ始めた。それによってできた隙をアインが突く。そういう攻防が何合かされた後、ラースはとあることに気付いたらしい。



「ま、まさか……血かッ!!?」

「……ご名答」

「馬鹿なッ!アンタはこの量の血を操れない筈!なのに、どうしてだ……!?」

ラースは酷く狼狽したように言う。それに対してアインはにっこりと笑って一言。



「単純だよ」

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