結局わからぬまま
Side Sattie
室内が、とんでもなく明るくなる。
私たちは咄嗟に目をつむり、痛いくらいに眩しい光から、目を守る。
やりすぎだと思ったが、たぶんこれで終わりだろう。
私はそう思い、次アインに会ったら、精霊たちに魔法を手伝ってもらうときのアドバイスを貰おう、と心に決めた。
しばらくし、光が落ち着いたらしいのを感じ、目を開いてみた。
「………………うわぁ」
私は、顔を引きつらせていた。
そこには、無傷の清掃員さんと、傷だらけで、明らかに満身創痍だとわかるウリアがいた。
服は所々焼け焦げ、仮面はひびが大きくなっており、今にも砕け散りそうだ。
更に、フードの隙間から、くすんだ赤色の髪が零れていた。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
ウリアは、息を切らしているものの、しっかり立っていた。
正直、あれだけの威力の魔法を受けてもなお立っているのは意外だった。
ウリアを侮りすぎていたのかもしれない。
「サティ、これが聖属性魔法じゃなくてよかったな」
ラファエルさんが、私を睨んだ。
私は、ごめんなさい、と身を縮こめた。
「……いくら上級魔法といったって、あれだけの威力なんか出せない。一体どういうからくりで?」
「けれど、上級魔法であるのは確実です。神話級魔法なら、もっととんでもないですから」
「そりゃ、そうかもしれない、けど……」
あの魔法は、私たちの度肝を抜いただけでなく、清掃員さんから余裕も奪っていったらしい。
「そろそろ引きましょう。また、とんでもないものが飛び出てくるかもしれませんので」
「――あ、ああ、そうだね。まあもう目的は達成できたようだし」
「待て!お前らの目的は何だ!!」
ラファエルさんが、何とか起き上がりながら、叫ぶ。その額には、青筋が立っていた。
「教えない。――せいぜい、頭を悩ませるがいいよ」
「では、これで」
「逃がすもんか!」
私は駆け出したが、風属性中級魔法、バーストで足止めされた。
私が思わず顔を背け、目をつぶっている間に、二人は消えてしまっていた。
「チッ、転移魔法陣か……」
ラファエルさんはよたよたと歩を進め、いつの間にか床に落ちていた紙を手に取る。
そこには、緻密な線が描かれていた。
「魔法陣は魔力を流せば使えるが……。駄目だな。発動しない」
「そんな……」
取り逃してしまった。私は、落ち込んだ。
「まあ、逃がしてしまったが、この結果は上々じゃないか?あいつは、俺よりも強かった訳だしな」
「そうね。――サティ、とても格好良かったわ。助けてくれて、ありがとう。後日、改めて礼をするわ」
「い、いえいえそんな!ただ私は必死で……」
れれれ、礼なんてとんでもない!!そんなことを考えつつ、私は必死に両手を振って、遠慮する。
しかし、ジェシカ様はそんな私の手を握って、柔らかく微笑む。
「いいじゃない。私はこれでも公爵令嬢なのよ?きちんと礼をさせてちょうだい」
「分かりました」
「あと、マティアス様からも礼がある筈よ。だって、マティアス様の婚約者を守ったのよ?」
飛び切りいい笑顔に、私は拒否することもできず、私は頷く他なかった。
だって!私はただの平民だもん!確かに、遠慮は失礼かもしれないけれど……。怖い!!
「はあ、色々とわからないことだらけだな。誰か、その方面に詳しそうなやつでも呼ぶか」
「詳しそうって……」
「あ」
恐らく、思い浮かべている人物は、みんな同じだろう。けれどその彼は、今日は大事な予定がある筈だ。今学園にいるかどうか……。
「一応、訪ねてみましょう。いなくても、後で調べてもらえばいいわ」
「そうですね!私も、聞きたいことがありますし!」
「俺もだ。特に、拳銃について」
「そうね。私、初めて見たわ。もしあれが、珍しい武器ならば、それだけで襲撃犯が誰なのか、絞れそうね」
ジェシカ様は、頬に手を当てながら、そう言った。
「ジェシカ様、何か、あの女について、覚えていることはありませんか?」
「お、覚えていること、かしら?」
ラファエルが、真剣な眼差しと共に、ジェシカ様にそんな質問をした。
確かに、直接触れたジェシカ様なら気づくことがあるかもしれないしね!
「そ、そうね……。結構覚えのある匂いがしたわ」
「覚えのある匂い!?」
「そ、それは一体どこで!」
「私が愛用している香水の匂いよ。少なくとも、金銭的にはかなり裕福な方でしょうね」
「香水の匂い……」
ラファエルさんが、考え込むように呟く。
「あと、ウリアは女性で確定ね。その、なんと言えばいいのかしら……」
ジェシカ様は、困った顔をしながら言葉を詰まらせる。
その反応だけで、私はなんとなくわかってしまったが、ラファエルさんは気づかなかったらしい。
「一体どうしてわかったのですか?」
「その……。抵抗する時に、腕が胸に当たってしまって……」
「ああ……」
ようやく察したようだ。どうやら、私が攻撃した時に抵抗した時、当たってしまったらしい。
ジェシカ様曰く、低くうめいたような気がしたが、気のせいかもしれないとのこと。
「そう言えば、結構あの爆発痛かった筈なのに、涼しい顔してたよね?仮面付けてたから表情わかんないけど」
「まあそうだな。動きは、右手が封じられてること以外、何も変わらなかったしな」
「それに、サティのあの光属性魔法……。あれを受けても立ってた、わよね」
「頑丈すぎるだろ……。俺は鉛玉数発で全く動けなかったのに」
「一体、誰だったんだろう……。それに、清掃員さんも。結局名前もわからないままだし……」
私たちは、謎を抱えたまま、途方に暮れる他なかった。
ちなみに、入り口の火はさっきのバーストで消し飛んだらしい。水問題解決。




