奪還成功!
Side Sattie
ラファエルさんが、撃たれた。
血をどくどくと、大量に流している。
目の前には、ジェシカ様がウリアに拘束されて、あの拳銃を突きつけられている。
私は、そんな目の前の惨状を、受け入れることができなかった。体が勝手に震え、全く動けなくなる。
「逃げなさい!誰か、助けを……助けを呼びなさい!」
ジェシカ様が叫ぶ。けれど、私の足は、鉛のように重く、全くと言っていいほど動けなかった。
「な、なんで……なんでこんなことを……?」
「計画だよ。あの方に任されたんだ。きちんと、こなさなくては」
「計画って……?」
「さあ?それは教えてあげられない」
笑って、私の質問をはぐらかす清掃員さん。
「貴方は、一体誰……?」
「誰だろうね?」
私は、信じられなかった。一つも、まともに質問に答えない彼が、今まで話していた清掃員さんと、同一人物であることを。
「目的は何かしら?答えなさい!」
「気が強いね。――けど、教えてあげれないかな?」
「なにを言って――!」
「これ以上、余計なことを言うなら、ウリアの持つ拳銃が、火を吹くよ」
「……」
清掃員さんに脅されたジェシカ様は、渋々黙った。
「それにしても、そこの彼、可哀想だね?圧倒的な武力差に、倒れ伏せることしかできないのだから」
愉快そうに笑う清掃員さん。ラファエルさんは、今まで頑張ってきた。
アインと一緒に、どこかしらに消える瞬間がある。
その時、ラファエルさんはアインに稽古をつけて貰っているらしい。
段々と強くなっている、と喜んでいたのだ。
そんな彼の努力を嘲笑う清掃員さんを、私は許せそうになかった。
そう思うと、なんだか体が軽くなった気がした。今なら、動ける。
「ジェシカ様を……ジェシカ様を解放して!」
私は、そう言って魔法を放つ。しかし、それは簡単にウリアの魔法と相殺されてしまった。
「たったこれだけ?がっかり」
詰まらなそうな清掃員さん。私は、次々と魔法を撃つが、焼け石に水だった。
「ねえウリア。まだサティが本気を出してくれないみたいだよ?」
「……承知しました」
ウリアは、拳銃の先を、ラファエルさんに向ける。
「やめて!!」
私は、ラファエルさんの前に躍り出た。
足に、尋常じゃない程の痛みが走った。
「イっ……!」
私は、自然と溢れた涙と共に、撃ちぬかれた足を抱える。
とんでもない痛みだ。意識が飛びそう。
けれど、私が気絶したら、今度こそ終わりだ。
私は、何とか気を張った。
―――もし、敵に負けそうになったらね、絶対に諦めない心と冷静な頭があれば、大抵のことは解決するわ!
―――そんな訳……。
―――だって、私たちはとても強いから!だから、この力でできないことなんて、ないのよ!
―――03はいつも元気だな。
―――いいでしょ?それに、私と13は、同じくらい魔法で何でもできちゃうんだから!
―――それもそうだな。
青い髪の少女と、オレンジの髪の少年。私たちの会話に、静かに耳を傾ける黒髪の少年は、なんだか知っているような気がした。
私は、鋭い痛みと共に脳裏に浮かんできた映像に、目を白黒させる。
けれど、すぐに冷静さを取り戻す。
――何か……何かない?この状況を打破する方法が!
私は、目の前の敵を睨みつけながら、何とか記憶を探る。
―――拳銃を持つ敵を相手取るなら、まずは遠距離で戦わないこと。次に直線で相手に突っ込まないことだ。
茶髪の青年の声がした。
―――拳銃は、引き金を引く必要がある。連射速度は魔法より圧倒的に遅い。だがその分威力が高い。
その青年は、続けてそんなことを言っていた。
―――13、君の能力は、融合。全てのものを融合させることができる。だからこそ、決して使い方を間違えないでほしい。
黒髪の青年は、とても真剣そうな表情で私に言った。
決して顔は思い出せないけれど、とても綺麗な顔を、とても真剣そうにしていたのを覚えている。
それと、彼は続けて何かを言っていた。
なんだったっけ……?
私が考えているうちに、ウリアは拳銃に何かをしていた。
「サティ、聞いてくれ」
「ラ、ラファエルさん……?怪我はッ、怪我は大丈夫なの!?」
「俺のことはいい、聞いてくれ。あれは、恐らく弾切れだ」
「弾……切れ……?」
「そうだ。銃は、一度に撃てる数が決まっている。あの拳銃は、どうやら六発らしい」
「六発……」
ウリアは、拳銃を私たちに向ける。
「もし六発分撃たせたら、必ず隙ができる筈だ。……何か、銃弾に細工でもしてあったのか、俺は体が全く動かせない」
「それは!」
「俺は彼岸の力をあまりうまく使えないからな。魔法での援護はできるが、それだけだ」
「それでも、ありがたいわ」
私は、覚悟を決める。
「融合」
私は、異能力を使う。
私は完全な丸腰だ。だから、異能力を多用していくしかない。
「サティ。受け取れ」
「それは……!」
ラファエルさんが寄越したのは、立派なダガーだった。よく見ると、先端しか刃がついてない。
「刺すことなら、誰でもできるだろ」
「ありがとう」
私は、記憶から短剣の構え方を探し、何とかまねて見せる。
「さすがはサティ。様になってるよ」
「褒められても嬉しくない!」
「サティ!危険よ!やめなさい!」
「ジェシカ様!――やらなきゃいけない時があるんです。何に代えても!」
「でも!」
ジェシカ様は全く納得していなかったが、私はラファエルさんに結界を張り、迷わずに突っ込む。ウリアは私に拳銃を撃ったが、かするだけだった。
これで二発。私は、銃弾を捉えるような動体視力なんてものは持ち合わせていない。でも、ラファエルさんの言う通りに動けば、避けることはできる。
相手は、ジェシカ様を持っているせいで、なかなか身動きが取れない筈だ。だからそこを突く!
私は、三発目を体勢を低くして避けると、そのままダガーで突く。
けれど、どうやったのか綺麗に避けられてしまった。
牽制のためか、足元に一発。
けれどこれで、ジェシカ様を拘束する手は大きく緩んだ。ジェシカ様は、その隙を見逃さず、大きく抵抗し、拘束から逃げ出した!
「さすがです、ジェシカ様!」
「ありがとう、サティ。でも、まだまだよ」
私は、そう言われてウリアを見る。しかし、その隙に銃弾を撃ち込めばいいものの、ウリアは不気味な沈黙を保っていた。
「お見事!でも、そう簡単に帰してはあげられないなぁ」
清掃員さんが、手を叩きながら愉快そうにそう言う。私は、ダガーを片手に身構えた。




