謎の黒ずくめ
Side Unidentified
あの少女を部屋に誘う。
親しくなったから、というのもあるが、魔法祭で気づいた。
あの力は、異能力だ。
融合魔法を簡単に放てるようになる異能力。
あの方は、それを英雄候補に植え付ける、とおっしゃっていた。
まさか、適当に選んだ職場で、そんな出会いがあるとは、これっぽっちも思ってはいなかったが、都合がいいかもしれない。
私は翼を広げ、穏やかに微笑んで待つ。
天使の存在は、知っているだろう。
あの方が、どこにいるのかはわからない。けれど、近くにはいるのだろう。
あの方は、英雄候補の近くにいる、とおっしゃっていた。
候補。あの方法では、強力な英雄を作り出すことはできないらしい。
それが難点なのだが、力がない以上、数を増やすしかないようで……。
全てを解決してくれるくらい、力が強い英雄が現れれば、というのがもはやあの方の口癖になっていた。
あの方は、案内人だ。だから、どう足掻いても英雄になることができない。
国への奉仕精神が高い、あの方のことだ。自分を今も責めていらっしゃるのだろう。
だから、私も協力する。今、どれくらい計画が進んでいて、どの計画が進行中で、なんてこと、欠片もわからない。
あの方とは、ついぞ接触を図れなかった。
私はやる。やり切る。そう並々ならぬ覚悟を決め、それを悟られないように優雅に振舞った。
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Side Sattie
楽しみ~!私、友達の家(夏休みの別荘は除く)に遊びに行ったことがなかったから、とっても新鮮!
私は、今にも鼻歌を歌いながらスキップ思想は私を見たジェシカ様は、苦笑している。
本当に、大人びている。子供っぽい私とは大違いだ。
服も、水色のワンピースドレスで、上品ながらも普段よりカジュアルだ。
対してラファエルさんは、学園の制服だ。
元々は私服を着ていこうとしていたらしいが、普段は付けないブローチを付けたアインから、ダメ出しをされたらしい。
それで、普段と変わらない出で立ちになったらしい。……もしかして、ラファエルさんの私服ってダサいのかしら?
ちなみに私は、制服だ。そもそも私はいい感じの服なんて一着も持ってない。
素直にコーディネートは諦めた。
「この組み合わせは、初めてですわね」
「そうですね!クラスも違いますし!」
「そうだな。……アインが来ると思っていたんだがな」
珍しすぎるメンバーに、ラファエルさんは気まずそうだ。
「確か、お世話になった方が今日、誕生日だそうよ?」
「お世話になった人……誰だ?」
「誰なんだろう……」
なんとなく、普段何してるのかわからないんだよね。想像もつかない。
物凄く早起きしちゃったときに、鍛錬しているのを見かけるくらいだし。
あれは、舞を舞っているみたいで綺麗だったなぁ……。
「他にも誘ったんですけど、マティアス様はカーティス様と用事があるっておっしゃっていましたし、ハロルド様は勉強したいから、ルー様は、お兄さんとの約束があって、フィンレー様は……」
「調べもの、だったな。一体何を調べているのやら」
ラファエルさんが、私の言葉の続きを言う。
ともかく、皆見事に予定があるお陰で、こんな珍しいメンバーになったのだが。
ちなみに先輩方は、勉強会を開いていたり、婚約者とのデートの予定だったりして、誰一人として予定は空いてなかった。
……そんなに予定が丸被りすることあるんだ、と思ったのは私だけではなかった筈。
「ここで待ち合わせかしら?」
「そうですけど……来ませんね」
「時間、間違えてないよな?」
「そんなことしないよ!」
ラファエルさんがジト目で言った言葉に、反射で返したが、私も内心ひやひやしていた。
しかし、それも杞憂だったらしい。
「サティ様ご一行でお間違いないでしょうか」
「え?」
聞いたことがない声に振り返ると、そこには仮面で顔を隠した人物がいた。
「……誰だ?」
ラファエルさんが分かりやすく警戒する。私も、魔法をいつでも撃てるよう、準備をする。
「これは失礼いたしました。――私の名前は、ウリアです。どうぞよしなに」
「……女だな」
「え?」
ラファエルさんが、小さく私たちにしか聞こえないように呟く。
仮面の人物――ウリアは、体形を隠すようなゆったりとした黒ずくめの服に身を包んでいる。
声も中性的で、男性か女性かは判断できない。
「……流石ですね。ばれてしまったようです」
「ええーっ!?」
「そろそろ、皆さまをご案内したいのですが……よろしいでしょうか」
「誰が怪しいやつについて行くと?」
「困りましたね。――では、こうしましょうか。貴方方の中で、最も強い人物を、私が制圧して見せます。これで、貴方方は私に従う他ないと、理解するでしょう」
そう言うや否や、ウリアはどこからか短刀を取り出す。
私は、ラファエルさんに視線を送ったが、ラファエルさんはすぐに両手を上げた。
「降参だ。――無駄に体力を消費したくない」
「え」
「理解いただけたようで何よりです。――では、着いてきてください。私はただの案内にすぎませんから」
ウリアは、ラファエルの降伏宣言を聞くや否や、短刀をすぐに懐に収め、歩き始める。
私たちは、慌ててウリアの後を追うことしかできなかった。




