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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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世話焼きな一流料理人

ちょっと描写を変更します

休日。あれから数日も経てば、体調もすっかり万全で、僕は煩わしい魔法陣の描かれた紙無しで、歩くことができていた。


今日は、シャンメルの誕生日だ。だから、誕生日の贈り物を(たずさ)えて、シャンメルのレストランに行く道中の花屋で、予約をしていた白いダリアと飛燕草(ひえんそう)霞草(かすみそう)、カーネーションの花束を買った。


シャンメルは多忙なので、サプライズをすることはできないが、こうして喜ばせることはできるだろう。


僕は、異能力を自分に薄くかけながら、シャンメルのレストランに辿り着いた。


シャンメルのレストランの名前は、アペゼラ・ターブル。安らぎの食卓という意味を込めたらしい。前職の主人は、暗殺者()が紛れ込んでいた、安らげない食卓だったため、そんなことがないように、という願いを込めているらしい。



「予約していた、アインです。店長のシャンメルの誕生日を、祝いに来ました」

「ようこそおいでくださいました、ご予約のアイン様ですね。ご案内します」

僕は落ち着いた外装の建物に入り、僕は入り口にいた給仕に名乗る。すると、給餌は心得た、という風に店内へと案内をした。



「こちらのテーブルにどうぞ」

そう言い、とある個室に僕を通す。僕は、花束が入った紙袋をできる限り給仕と一緒に隠しながら、個室に入った。

彼もまた、僕の協力者なのだ。



「しばらくお待ちください」

ここは、日替わりのコース料理を楽しむことができる。その料理がどれも絶品だと、有名になるのにはあまり時間がかからなかった。



ちなみに余談だが、先程の給仕は元同業者だ。彼――ゼノフォンもまた、暗殺者としてシャンメルの元職場に侵入していたのだが、シャンメルが僕が暗殺者だと気づいたとき、芋ずる式に彼のこともばれてしまった。

完全別口だった彼は、完全なとばっちりだが、巡り巡って暗殺稼業から足を洗うことができたのは、僥倖(ぎょうこう)だっただろう。


今の仕事の方が何倍も楽しいのだとか。

いいな、と幸せそうな彼をやっかみつつ、僕は最初の料理が運ばれてくるのを待つ。



しばらくして食前酒が届けられる。しかし僕は下戸なため、ノンアルコールカクテルだ。シャンメルや、給仕たちは僕のこの体質を理解してくれているため、特に何も言わなくとも察してくれる。


僕はそれを口に含む。すると、小前菜(アミューズ)が運ばれてきた。小さく盛り付けられた料理を、手で食べる。ゆっくりと咀嚼(そしゃく)しながら、味を堪能(たんのう)する。


次は前菜(オードブル)。カトラリーを外側から使うのは、シャンメルから教えられた。

美しく盛り付けられた料理を、ナイフで切り分け、フォークで口に運ぶ。久しぶりの味に、笑みを小さく零した。


水を飲みつつ、次の料理を待つ。次に運ばれてきたのはポタージュ。薄黄色の液体を、僕はスプーンですくって口に流し込む。


シャンメルは、一流シェフだからなのかというべきか、かなりマナーに厳しかった。よくゼノが泣かされていたのは、いい思い出だ。


次から主菜。まずは魚料理(ポワソン)。新しいナイフとフォークを手に取り、身が崩れないように丁寧に切り分ける。

ソースをつけ、それを口に運ぶ。柔らかいこの魚は、かなり崩れやすいので、注意が必要だ。


そして、口直しとして氷菓(ソルベ)が運ばれてくる。スプーンですくい、食べる。口の中に、冷たい感触と控えめな甘さが広がる。


次に肉料理(ヴィヤンドゥ)。ナイフで切り分け、食べる。レアという焼き加減で、中は赤い。

僕は膝上のナプキンで口の周りをぬぐい、次の料理を待つ。


次は、チーズ。シャンメルは、アイン君には関係ないが、と前置きをした上で、チーズの役割について語った。

どうやら、二日酔いを軽減させる効果があるらしい。


シャンメルは、チーズがかなり好きなようで、チーズの話だけで一日が終わってしまうほど。だからか、シャンメルとかかわりがある人物はみな、かなりチーズについて詳しくなってしまうのだ。


最後に、デザート。皿に乗るケーキは、カフェのケーキとは全くの別物。シャンメル特製のチーズケーキに舌鼓を打ちつつ紅茶を飲んでいると、シャンメルが現れた。


金の髪を短く切りそろえ、ひげを生やした男性。白い厨房服がぴったりと似合う、小太りの優しい目元を持つ彼が、シャンメルだ。



「久しぶりだね。いつぶりだっけ?えっと……夏休みあとくらい、かな?」

「そうですね。それ以来です」

見た目通りの優しい声に、僕はそう返す。

すると、シャンメルは垂れている眼を嬉しそうに細めながら、頷く。


「うん、制服もよく似合ってる。学園生活は、楽しい?お友達もできた?」

「楽しいですよ。色々と困ったことも起きますが。友人は――できた、と思います」

「うんうん。人がたくさんいれば、そんなこともしょっちゅう起こるよ。それにアイン君は綺麗(きれい)だからね」

茶目っ気たっぷりに笑うシャンメルに、僕は笑う。


「シャンメル、誕生日おめでとうございます」

僕は、綺麗にラッピングされれた花束をシャンメルに差し出す。


「ありがとう。嬉しいよ。綺麗だね……。この花は、店内に飾らせてもらうよ」

「あとこれも……。前に新しい調味料が欲しいと言っていましたよね?」

「ああ、伝がなくて諦めてたやつね。――まさか?」

僕は、亜空間収納から、久遠の調味料セットを取り出し、シャンメルに渡す。持ちきれない分は、一緒にいるゼノに渡す。


「ありがとう!やっぱりここから久遠は遠いから、どうしても買い付けれないんだよね。それに、久遠は鎖国的だから、商人たちもビビっていきたがらないし」

「なら、ここにいけば久遠の食材も取り扱っていますよ」

「おお!ここにいけばいいんだね?アウグスト商店……聞いたことないなぁ」

「ここは、結構信用できますよ。価格も良心的ですし。ただ、伝がないと物を売ってもらえないので、あまり広く知られていないんです。僕も最近存在を知りました」

本当に最近。僕がシャンメルへの誕生日プレゼントに悩んでいると、いたずらっぽく笑ってあんなことをのたまった男の手を借りた。

彼としても、シャンメルとのつながりが欲しかったのだろう。


シャンメルは、僕が渡したメモをとても大切そうに懐にしまい込む。まるで、それが黄金の塊であるかの扱いに、僕は小さく笑った。



「今日の料理はどうだった?アイン君が来ると聞いて、腕によりをかけて作らせてもらったよ」

「とても美味しかったです。食事の時間があっという間に感じましたよ」

「それはよかった」

そう言って、シャンメルは穏やかに笑う。


「じゃあそろそろ……」

「もう終わりか。もうちょっと話したかったなぁ……」

シャンメルは、時間を忘れて話す癖がある。だから、誰かがしっかり時間を管理しないと、いつまでも時間を気にせずに話し込んでしまうのだ。


心の底から残念そうにするシャンメルに苦笑していると、シャンメルが箱を差し出した。僕は、いつもより大きい箱におっかなびっくり受け取る。手に伝わる重さに、僕は驚いてシャンメルを見た。


「中身は焼き菓子だよ。ほら、お友達に分けてあげなさい」

「こんなにたくさん……!」

僕が申し訳なく思っていると、見かねたゼノが、口を開いた。


「シャンメル、昨日から楽しみすぎて、なかなか寝付けずにお菓子作ってたんだよ。こんなにたくさん店頭に出す訳でもないから、貰ってやってほしい。ここ最近ずっとウキウキだったんだよ」

「ちょっとゼノ君!そんな恥ずかしいことを言わない約束でしょ!?」

「そもそも焼きすぎだよ。アイン、遠慮するだろ」

「……アイン君は綺麗だし、きっとたくさん人に囲まれていると思って……」

しゅんとするシャンメルに、僕は笑った。


「生徒会の人に、今日シャンメルに会うことを言ったら、お土産を期待されました。もしかしたら、あっという間になくなるかもしれません」

「それはよかった!」

シャンメルは、満面の笑みを浮かべる。その横で、ゼノが呆れたような顔をした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕は代金を支払い、店を出る。

シャンメルが元気そうでよかった。


僕はそう思いながら、帰路についた。

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