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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩

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この世ならざる存在

Side Matthias


「どうするって、行くに決まっているだろう。生憎と俺は、お膳立てされた舞台に怯む奴ではないからな」

俺は自信満々に言い切る。幼い時からもうずっとこれなので、今更恥ずかしさもない。



「アイツ、これが好きなのか?見る目無いな」

「何か言ったか?」

ラースが、何かを呟いていたが、よく聞き取れなかった。



「いや、何もない。それより、アンタも行くのか?若しかしたらいいモンが見れるかもしれないぜ?」

「ではお言葉に甘えて。楽しみですわ」


おほほ、と上品に笑うジェシカを見て、ラースが一言。

「女って皆こういう笑い方すンのか?いや、アインもしてたか」



「皆ではありませんが、少なくとも、貴族や貴族に係る者は皆、こういう風に笑いますわ。口を隠して笑うのはマナーですもの」

「そういうモンか。――じゃ、準備はいいか?今から行くぞ」

「は?今からか?」


ラース曰く、アインがいる場所はここより遠いらしい。だから早く行きたいらしいが。

……ならもう少し準備してから行け。思い付きのように行こうとするな。それに俺たちを巻き込むな。



「ノア兄がさ、時間ない、って言うから……。それに、あそこなら数時間で着くだろ」

「貴様は一日でステラからセオドアに来れたのか?」



セオドアは面積が広い国の一つだ。


最も広いのは、魔族の国である久遠(くおん)で、前世でいう、ロシアより少し小さくした感じだ。あそこは、周りを海で隔てられており、独特な発展をしたらしい。



対してセオドアは、アメリカの三分の二程。


ちなみにチーズルは、アメリカの半分、オケディアは日本の二倍程度しかないらしい。よくその国力差で戦争仕掛けられたな。九星がいたからか?



ステラはセオドアの西に位置しているが、王都はセオドアの南に位置している。理由は、王都からそう遠くないところに港町があるからなのだが、ステラからセオドアの王都まではかなりの距離がある。

西から入ったとすれば、どんなに急いでも三日はかかる。


更に、ステラとセオドアの間には広大な平地が広がっている。平地といっても痩せた土地なため、砂漠化し始めているが、そこを突っ切るのにも時間がかかる。隣国とはいえ、近い訳ではない。



「いや、もう半日かかった。寝坊したんだよ……」

まさかの寝坊。半日遅れたのがまさかの寝坊。

……と言うか、半日遅れる程の寝坊とは?



「――えー馬車で行くのか?なァ、馬車担いでもいいか?――駄目?でも――分かった。大人しく馬車で行く。――という訳で、馬車探すぞ」

「何がという訳だ説明しろ脳筋」

「ノア兄が、必ず馬車で行け、と言ったンだよ。だから数日分旅できる荷物を整える必要があるが、ノア兄が馬車以外全て用意してくれたンだと」

凄いな、絶対零度の司令官。本当に未来が見えているんだな。



「という訳で、良馬を教えてくれ」

「俺に命令するな」

と言いつつ早くアインに会いたいため、いい御者と共にラースに紹介する。



「俺人生二度目だなァ、馬車乗るの。一回目は最悪だったな……」

「まあ、馬車にもグレードがあるからな。どうせ貴様が使ったのは、軍用の安い馬車なのだろう。対してこれは王家御用達だ。質は保証しよう」

「そうなのか?でも俺、数日の間、窮屈な馬車の中にいるの、耐えれっかな……?」

「野盗や魔物がいるので、問題ないですわ」



ラースはド田舎から出てきた感じがしていたのだが、本当だったようだ。それに、やんちゃ属性まであった。



「さて、馬車まで決まったのなら、話は早い。行くぞ!」

「待て、貴様早まるな。数日の旅の準備とやらはきちんとしてあるのか?」

「ああ、ノア兄が全てしてくれたからな!」

「貴様は本当にそれでいいのか……?」

小学生の遠足かよ。司令官も、なんとなく母親に見えてきたな……。不安しかない、と頭を抱えていると、ジェシカに肩を叩かれた。彼女も同じだったらしく、何かを諦めた表情だった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Ain


僕が森で木の実を取っていると、森の外で騒がしい声がした。



「お、あそこにアサルトホークが!石で届くか?」

「何やってるの、馬鹿!小鳥獲ろう、っていうノリで物凄く強い魔物を獲ろうとしないでよ!」

「アイツ位余裕だって」

「貴様等は静かにすることもできないのか?それよりもアインを探すことが急務だろう」

「アイツ旨いンだよなぁ~」

「「知るか!!」」

「あのぅ、もう少し声のトーンを下げていただかなくては、魔物に襲われてしまうのですが……」

「おっさん、魔物は旨い」

「フン、馬鹿を広めるな」



……聞かなかったことってできるかな?

アサルトホークは、一般人なら狩ろうとすら思い付かない程危険だ。



「お、見覚えある気配すンなって思ってたらアインじゃねェか!」

「チッ」

「オイ」

ついつい舌打ちが。僕、あれだけ騒がしい奴と同類に見られるの、嫌なんだが。



「あ……」

「数日ぶりだな、アイン。その様子だと、元気か」

「はい。心配を……」

「いい。お前は俺の所要物なのだぞ?これ位出来なくてはどうする」

「そうですよね!――それで、ラース兄さんが何かし――」

「悪ィ、俺、飲み込まれそうだ……」

会話の途中に割り込んできたラース兄さんは、かなり顔色が悪い。



――ん?もしかして、異能使っていない?



そのことに気づいた僕は、慌てて身体強化の魔法と身体のリミットを()()()、ラース兄さんを抱え、森に背を向けて走った。最初は、何かに耐え忍ぶだけだったが、唸り声が混ざり始めた。出てくる声が、殆ど唸り声になったところで、思い切りラース兄さんを投げ飛ばす。ここまでで数キロは稼げた。



「ぐッ、うううううぅぅぅぅ……」

「……」

頭を抑えながら立ち上がるラース兄さん。ゆらり、と動き顔を上げる。そこには愉快そうな表情のみ、浮かんでいた。



「やっぱり……!破壊衝動!ここで問題なのが、どれだけ大事にしないかって所だけど……」

九星は、正直あまり知られない方がいい。力が強大すぎるため、存在自体で無意味な騒動の火種になりかねないのである。つまり、周りを破壊させずに、ラース兄さんの破壊衝動を満たさなくちゃいけない。



彼岸の魔族は、程度の差こそあれ、何かしらの衝動を抱えて生きている。

吸血鬼なら吸血衝動、鬼人や人狼なら破壊衝動。他にも、凍結衝動や魔法衝動、戦闘衝動なんて言うものもある。どれにも共通しているのが、実際に起こったら傍迷惑な衝動しかないことだ。その中でも、吸血鬼が酷い。その他の衝動は、精神的に成熟していくにつれ、回数を減らしたりすることができるが、吸血鬼の吸血衝動のみは抑え込むと最悪死ぬ。なのでよく犯人は吸血鬼だろうによる、謎の事件が勃発しているのだ。



話は戻し、今ラース兄さんは破壊衝動に飲まれてしまっている。破壊さえしたら収まるが、衝動のままの破壊させると、最悪国一つが滅ぶ。セオドアは大国であるため、滅びはしないが、所詮はその程度だ。なので、僕が戦ってラース兄さんの周囲への被害を抑えるのだ。



――これ絶対ノア兄さんの案でしょう。誰か失踪しても碌に他の九星派遣しなかったのに。



「まあ、いいでしょう。ラース兄さん、どこからでもかかってきて」

「ハッ!そのまま死ンじまっても知らねェぞ?」

「最強の僕がみすみす殺されるとでも?」

「ハハッ!愚問だな!――そら、お望み通り俺の拳を味わいやがれッ!」

そう言い放つや否や、ラース兄さんは僕の視界から姿を消した……。

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