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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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全ては手のひらの上

Side Finlay


「……今、本当に参っているんだろうな?」

「うん、そうだね。――いくら九星といえども、全能ではないからね。僕は他の九星より、僕は強い力を持っているだけだよ」

そう肩をすくめる月影は、確かにどこか疲労が垣間見えた。


男――特に大柄な男へのトラウマ。魔法を使うには、大なり小なり神経を使う。だからか、難しい魔法を使うと、気が疲れるのだ。

それに、あまり群衆も好きではないのだろう。なら、月影にとって、あの状況はとても歓迎できる場面ではなさそうだ。



「無理をしてまで、あれが欲しかったのか?」

別に、特段差し迫った感じではなかった様子に、俺は(いぶか)しむ。


「というより、魔法陣の動作確認かな。それと、失敗作のテスト。あれも欲しかったけど、要を学園内に引き入れるより、僕が要に会いに行った方がリスクは少ないしね。――微々たる差ではあるけれど」

小声で付け足した言葉に、月影はあの男の実力について、かなり信用しているのだな、と思った。


「だからマティアス王太子に全く信用されていないんじゃないか?休むということを――」

「僕が休んで何になる?僕は、よっぽどの無茶をし続けない限り、倒れない。一度、限界を知ったから、あそこまでの無茶をしなければ、問題はないよ。それに――僕は一刻も早く、目的を果たさなきゃいけないんだ。休んだ分、それが後ろ倒しになる」

俺の言う事を遮り、鋭い声を出す月影。

心なしか暗くなっている瞳の中の開ききった瞳孔は、まるで何かに追い立てられているような――そんな危うい雰囲気に、俺は、言葉にならない。


「だが――」

「彼岸を舐めてもらっては困るよ。僕は僕で、対策はある」

「対策……」

そのうっかり男でも惚れかねない綺麗な顔立ちは、どう考えても騒がれる未来しかないんだが。


昔の王族の過ちを受けて、とんでもない美形に慣れておいてよかった。

皇御影の似顔絵らしいものを、イーストフールの王族は幼い頃から眺めているのだが、この美しさは人間の腕では描ききれなかった、という事なのだろう。想像の数倍は美しい。


俺は国を傾けたい訳ではないから、決して惚れはしない。


「そう。だから、あの作戦に便乗させてもらった。もう、明日からは普通の日常になると思うよ」

「一体何をした?」

その無表情は、一周回ってとても異質だ。


「ちょっと、認識を変えてもらっただけだよ。人間はずるいからね。抜け道を、いくらでも探し回ってしまう」

「確かにそうだな」

俺は頷く。確かに、カースティスは、アインは実力がある人物が好きだ、という噂を流した筈だ。しかし、そこをどう改変したのかは謎だが、実力がある人物を従えている者が好きだ、とか、そういう感じに置き換わっている。一体どんな人物だ、それ。いくら何でも自分の好きな様に改変しすぎだろう。


「あとは、生徒会や風紀委員会からの処分を待つだけだね」

「生徒会や風紀委員会からの処分――まさか!」

俺は気づいてしまった。多分、月影は間違った噂から、正しい噂へと、認識を変えた。そこで、大人数がその二組織から処分を下されるだろう。下手したら、それだけでは済まないかもしれない。


すると、生徒たちは結構今更な気もするが、気づく筈だ。アインは、ただの平民ではない、と。

アインは生徒会と風紀委員会、その二つから保護されているという事実に。


それに、少し冷静になるかもしれない。

あのカーディール・フォン・ループスですら、瞬殺だったのだ。そんな人物に、誰が強さをアピールできるのか、という事に。


もしかしたら、月影はカースティスがあの提案をしたときに、この作戦を思いついたのかもしれない。

人は、感情が高ぶり周りが見えなくなった時、全てを自分の都合のいいように捻じ曲げる。

その性質を利用し、被害を手っ取り早く拡大させたのではなかろうか。


月影が、何もなく疲弊するとは考えにくい。マティアス王太子を騙すのだ、それなりの状況が揃っていないと、騙すことなんかできないだろう。



「僕は、逃げるとき必ず風紀委員室の前を通り、生徒会室に逃げ込んでいる。そろそろ、僕に連絡が来る筈だよ」

俺は今まで気が付かなかったが、九星の中でも足が速そうな月影は、あの群衆を一瞬で撒けない訳がない。つまり、あの逃走劇はわざとだったのだ。


それも、マティアス王太子に勘づかれないよう、行く先々に追手を配置していたのだろうが。



「さすがは九星だな……」

「なにを言っているのか。そろそろ、これもつけなきゃ」

そう言いながら、月影は尻ポケットから、あの魔法陣が描かれた紙を取り出す。丁寧に折りたたまれたその紙は、折り目がついていたが、月影が何やら小さく呟くと、その折り目が綺麗になくなった。

月影は、その紙を、再び顔の前につける。


どうやら、証拠隠滅は抜かりないらしい。


俺は、そんな月影に感心しながら、一緒に生徒会室へと向かう。生徒会室の前まで行くと、中がいつもより騒がしいことに気が付いた。


月影は、そんな様子に目もくれず、扉を開く。すると、月影が言っていたように、そこには風紀委員長――ロゼッタ・フォン・ウィリアムズと副風紀委員長――スバル・ディ・エトワールがいた。


「お帰り。ちょうどいい所に帰ってきたね」

柔らかく出迎える生徒会長――アイザック・ド・ヴァンラーシュに対し、マティアス王太子はとても不機嫌そうに、俺を睨む。


俺は、蛇に睨まれた蛙の気分を味わいながら、アイザックの言葉に、返事をした。

月影も、軽くアイザックに返事を返しながら、戸惑った風にロゼッタとスバルを見る。お前はとんでもない役者だな。


俺は、大体の要件の検討をついていながらも、ソファに腰を下ろし、静かに話を聞くことにした。

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