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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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紙に書かれた魔法陣

「お騒がせしました……」

僕は、透視の魔法陣を描いた紙で顔を隠し、サティとラファエルを出迎える。


「紙?」

「少し体調を崩してしまいまして……。魔法を使わない代わりに、こうしました」

「それ、見えてるのか……?」

「透視の魔法陣を描いているので、視界は問題ないですよ」

「ああ、確かに……」

ラファエルは、僕の素顔を知っている。納得した様子で、それ以上は特に気にも留めずに自分の机に座る。


「マティアス様……、その、大丈夫ですか?」

「朝の鍛錬を止めさせる代わりにな。かなりの早朝に起きだすものだから、午後に出歩くことを条件に止めさせた」

「そ、そうなんですね」

「そこまで体調がいい訳でもないのに、日が昇る前から動くなんて、馬鹿だろう」

「えっと……それがいつもの習慣だったので……」

「一日くらい休んでも誰も文句は言わん」

呆れたように言うマティ様に、僕は何も言えなかった。


「そういえば、普段からアインは魔法を使ってたのね。それも、体調悪い時には使えないものを……」

「い、今でも使えると思いますよ!?」

「使うなよ?」

「はい……」

僕は、笑顔で凄むマティ様に、頷くしかなかった。


「あと、外に出歩くなよ?」

「はい……」

僕は、追加でマティ様に凄まれ、頷く他なかった……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ええっと……そ、それは?」

会長は、僕の顔を隠している紙を指さし、戸惑ったような声を上げる。


今は閑散期なので、会長はこの騒動が起こってからというもの、ほとんどこの生徒会室に来ていない。だから、あまり事情を知らないのだ。


「気にしないでください」

「いや、気にするよ!?」

僕は冷静に返すと、会長は驚く。

確かに、顔見知りの後輩が、ある日突然魔法陣が描かれた紙で顔を隠しているのを見たら、誰だって驚くし、戸惑うだろう。


「これ、紙をめくったらどんな顔が出てくるんだろ~」

「気になるね~」

「やめなさい」

ウィリアムズ様兄弟の魔の手から、僕が逃げるような動作をすると、会長が注意してくれた。


「あんまりその紙の下を見ない方がいいですよ」

「そんなに言われると――」

「見たくなっちゃうよね~?」

ウィリアムズ様兄弟は、何かを企むような表情を、僕に向けていた。

僕は、静かに震えあがった。


「ところで、今日はなぜ集まっているのです?今は、仕事は特にない筈ですが」

「ないな。だが、アインがどうしてもと言うからな」

「ずっと部屋に閉じこもっているのは、気が滅入ってしまって……」

僕は、あまり閉じこもる、という事にいい記憶はなかった。


それを思い出してしまい、僕はどうしても、外に出たくなってしまう。


それと、この魔方陣の二つ目の効果を試してみたかったのもある。それと、もう一つ……。


「昨日は大丈夫~?なんか、具合悪くなった、って」

「その紙は……」

カーティス様とハロルド様が、続いてやってくる。僕は、説明しようと口を開こうとすると、それを遮る声がした。



「ねえねえ、アインっていつも魔法使って地味にしてたんだって~」

「紙めくってみようよ!」

「残念ながら、この紙は凍らせているので、めくることはできませんよ」

「「ケチ~」」

口を尖らせて、拗ねるウィリアムズ様兄弟を、僕は無視した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



やっぱり、僕から紙は見えないとはいえ、どこか息苦しい。

ここに人はこないだろうと踏み、僕は魔法陣が書かれた紙を取り、隠しにそれをしまい込む。


「怒られても知らないぞ?」

そんな声が背後から聞こえた。僕は、振り向かずにその声に答える。


「フィンレーが協力してくれるから大丈夫。それに――ここは人が来ないから」

「お前な……。結構執着激しめだったように見えたが?」

要は、木に登って姿を隠しながら、そう言う。


「もっと言ってくれ。何を言っても聞かないんだ」

「なら無理だな。こいつは気弱ながらも、頑固な所があったからな」

要の言葉に、フィンレーは顔をしかめた。



「ほら、ご所望のものはこれだ。受け取れ」

「ありがとう。――うん、質も十分」

僕は、前々からギルドに依頼していたものを、要から受け取った。


「これって……。デーモンブレイズトカゲの皮!?腕のいい冒険者でも命がけなものだぞ……!」

フィンレーが驚くのも無理はない。なぜなら、この魔物は火山のマグマを普段は泳いでおり、その上弱点の水属性魔法でも、なかなかに耐えるのだ。


更に、水属性魔法を使うと、素材の質も落ちるから、あまり冒険者はこの魔物に水属性魔法を使うことを好まない。

そういう難しい魔物なのだ。


「俺は腕のいい冒険者以上に腕がいいからな。――それなら、ある程度の魔法陣も、耐えれるんじゃないか?」

「そうだね。この魔方陣も、うまく行っているみたいだし、体調が治っても、隠し持ってるといいかも。――流石にこればっかりは、入手できないからね。要が腕のいい冒険者で助かったよ」

「本当にな。ギルドでこの依頼を見た時、卒倒しかけたぞ?俺以外がこの依頼を受けていたら、どうするつもりだったんだ」

要が、改めて口元を布で覆いなおしながら、問いかける。しかし、僕だってそのことを想定していなかった訳ではない。


「要以外にこの依頼を受ける冒険者がいるとは思えないけどね。いたとしても、デーモンブレイズトカゲが殺してくれるでしょ」

「……」

僕の言葉に、フィンレーが固まった。


でも、冒険者は自分の命くらい、自分で守らなきゃダメじゃない?特に、法外な報酬を吹っかけてる訳でもないしさ。


「自分の実力も図れない馬鹿なだけか。――次からは、指名依頼で頼むよ」

「気が向いたらね」

「お前金は潤沢にあるだろ。使え」

指名依頼――それも、高ランク冒険者への指名依頼なら、指名料だけでも高額だ。別に、要への指名料くらいは払えるが、払わなくてもいい方法があるなら、僕はそちらを取る。


口座から引き出してある分を使い切って、更に口座から引き出したら、僕の居場所がばれる。

幸いなことに、僕はまだ口座から引き出したお金もあるし、マティ様の護衛の報酬もある。それを、要にも知られている。



「だって結構難しい依頼は、どうせ要しか受けないんだからいいでしょ」

「俺に入る金が増えるからやれ」

「僕から出てくお金も増えるじゃん」

「誤差だろ、誤差」

要は、どうせ僕がわざわざ指名しなくとも、稼いでいるから問題はないだろう。じゃないと、郊外ではあるものの、あんな大きな屋敷を構えるなんてできる訳がない。


「ところで、それの使い道は?まあ火属性の魔法なんだろうな、という事は分かるが」

「秘密」

「そうか」

要は、僕が何も話したくない、という事を理解してくれた。

僕は、そんな要の優しさに甘える。


要は、すぐにその場からいなくなった。


「フィンレー、このことは、誰にも言わないでね」

「言いませんよ」

「あと、敬語。どうせ、もうすぐフィンレーは僕より偉くなるからね」

「そうか――なら、遠慮なく」

僕とマティ様なら、マティ様の方が権力は上だ。だからこそ、もうすぐ王太子になるフィンレーは、僕より上になるのだ。



「じゃあ、散歩から戻ろうか。ずっと話してて、誰も近づいてこなかったし」

僕は、外に出る建前を口にしながら、歩き始める。


「一体何の効果だ?」

フィンレーは、ずっとその場にとどまったまま、僕に問う。


「これ?結界の効果。人避けができるよ」

「ならずっとそれを使えばいいんじゃないか?」

「できればいいんだけどね……。人が多いと、効果が薄れるんだ」

僕は、そう言って後ろを振り返る。


「早くいかないと、マティ様に怒られる」

「なら、早くしないとな」

僕たちは、生徒会室に戻った。

隠し=ポケット

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