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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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その傷は今でも影響を与えて……

僕は、早歩きで生徒会室に向かう。


後ろの大群には、目もくれないで。

早々にルーを撒いてしまった。だから、今は一人だ。あとでマティ様に何を言われるかわかったものじゃないため、誰かと合流したいのだが……。



急いで生徒会室に入り、扉を勢いよく閉める。かなり雑になってしまったが、仕方ない。

どうやら、生徒会室には、誰もいないようだ。サティがいると思ったのだが。


僕は、念のため仮眠室へ向かう。行儀悪く壁にもたれながら座り込み、深く息を吐く。



「きついな……」

今まで、軍にいたり、マティ様やジェシカ様の計らいもあってか、あまり人と関わらずに生きてきた。

だから、突然あんな大人数に囲まれて、困る……というより、精神が擦り減らされる。


思った以上に、僕は大人数が嫌いなようだ。……敵軍よりは、圧倒的に少ない筈なのに。



やっぱり、権力を持っていない僕は、格好の獲物なのだろうか。

でも、下手に権力を持って。それが、僕が魔王になるのを後押ししてしまうかもしれない。


それだけは、絶対に避けなくてはいけない。



生徒会室は、原則生徒会役員以外の生徒は立ち入り禁止だ。

ルーの異母兄である魔術師団長と、騎士団長。彼らが学生だった時、魔術師団長をめぐって、令嬢たちの間でし烈な争いをしていたそうだ。


ついには、生徒会室にまで押しかけ、業務を滞らせたらしい。それに起こった当時の生徒会長が、生徒会役員以外の立ち入りを禁止したそうだ。


だから、ここは安全地帯ともいえる。

ここにいれば、少なくとも煩わしいことから解放される。


僕は、自分にかけている魔法を解く。かなり疲れているらしい。そう、他人事のように思いながら、生徒会室にある姿見を見る。

これは、何代か前の生徒会役員が置いていったものらしい。今は誰も使っていないそれは、部屋の隅に観葉植物と共に置かれている。


母上と、姉上に似た、誰もが惑わされる美しい容貌。

だれもしらない、ぼくのすがお。


この美貌は、もはや呪いのようだ。顔立ちをいくら地味にしようが、たかが知れている。

この忌々しい黒と同じ、のろい。



外が騒がしい。僕は、生徒会室の明かりをつけていないから、通り過ぎてくれると思う。僕は、息をひそめた。

まるで、気分は罪人のようだ。まあ、状況な似てなくもないけれど。


数々の足音が、ここを通り過ぎていく。そう、ぼんやりと思った。

祈る神もいない。精霊に祈ったって仕方ない。そんな僕の思いがいけなかったのだろうか、一つの足音が、止まる。

立て続けに、いくつかの足音も止まった。


「あ、ここ生徒会室だ」

誰かがそう言った。


「でも、ここって普通の生徒は立ち入り禁止じゃなかったかしら?」

「ばれなきゃいいんですのよ、ばれなきゃ」

「でも……」

「アイン様って、生徒会役員でしたよね?なら、ここにいる可能性もありますわ!」

「それはそうだけど……」

「もしかしたら、ここにアイン様の私物が……」

僕は、扉を氷漬けにした。恐らく、ここにいることはばれただろう。けれど、どうせばれる運命だったなら、仕方ない。

籠城すればいい。


いざというときは、闇属性魔法で、全くの別人になればいい。少しの間なら、問題ない筈だ。


「ここにいるんですね、アイン様!」

「どうか開けてください、アイン様!」

「ちょ、ちょっと……やめようよ……」

「では貴女は立ち去りなさいな。うるさいですわよ」

「でも……」

いい加減、煩い。あまり気分のいいものではない会話に、異能力で、音を遮断しようとしたその時だった。


「そこ!なにをしてるんですか!」

「貴様ら、アインに拒絶されているという事が、理解できないのか?」

「「「お、王太子殿下……!」」」

「俺の問いに答えろ。全く、理解できないのかと聞いている」

「そ、そんなことは……!」

「ならとっとと去れ。ここに貴様らがいる道理などない」

「「「し、失礼しました~!」」」

そんな声と共に、三人分の足音が、どこかへ立ち去った。僕は、警戒しながら扉の氷を消す。


すると、扉が開く音がし、二人分の足音が生徒会室に入ったのが分かった。少し戸惑った気配がしたが、すぐに何かを思い当たったらしく、仮眠室の扉が開かれた。

そこにいたのは、マティ様とサティだった。


「全く!ルー様を撒くなんて!ずっと探してたんだよ!?」

「……すみません」

「生徒会室に向かったのはいい判断だったな。――疲れたか?」

「はい」

僕は、俯かせていた顔を上げる。マティ様の顔が視界に入る寸前に、目の前が暗くなった。


「え!?」

「お前……ここに来るのが俺だったとは限らない。魔法を使うのが疲れたならいい。なら、少なくとも顔を隠せ」

「すみません……」

ふわりと漂うマティ様の匂い。

それに続く、サティの戸惑いの声と、マティ様の優しい叱責の声。

僕の視界を覆っているのは、どうやらマティ様の上着らしい。


上着が視界を覆っているため、マティ様の表情をうかがい知ることはできない。でも、好きな匂いに包まれ、安心した。



「もう、限界になったのか」

「たぶん、休めば大丈夫だと……」

「明日は休め。俺も休む」

「な、何を……!」

「それがいいですね!明日、皆さんには説明しておきます!何なら、今すぐ休まれてはどうでしょう?アイン、とても疲れているみたいですし」

「そうしようか」

「え?ちょ、ちょっと待ってください!」

僕の訴えも空しく、マティ様は僕を軽々抱き上げる。

そんなマティ様に、サティは感嘆の声を上げる。



「アイン、お大事に~!」

僕は、マティ様に姫抱きされながら、そんなサティの声を聞いた。僕はもう既に、どうにでもなれ、という気持ちになっていた。



その後、何人かにすれ違ったが、マティ様が抱えているのが僕だという事に、誰も気が付かないまま、僕はマティ様の寮室に連れられた。

もういいだろうと思い、僕はマティ様の上着を顔からどける。


視界に映るのは、予想通りの光景だった。僕はマティ様のベッドの上に座らされており、マティ様は僕の正面に立っている。

マティ様は、いつもの悠然自若(ゆうぜんじじゃく)な笑みは姿を消し、厳しい表情をしている。


「血を飲ませてやる。だからお前はここで寝ろ」

「自分の部屋に戻りますよ」

「命令だ」

「……わかりました」

マティ様は、頑固だ。一度決めたら、絶対に曲げない。そんな人だ。


だから僕は、すぐに折れる。マティ様は、いつだって僕の嫌がることをしてこないから。


マティ様は、カーティス様が知らなかった、僕のストレスを気遣ってくれる。



あの話を聞いたとき、覚悟は決まっていたのに。


令嬢たちが雇った、僕が大の苦手な大柄の男が、大量に押し寄せてくることくらいは。

予想の範疇(はんちゅう)だったのだ。



でも、やっぱり苦手は苦手。今日一日だけで、すっかり疲れてしまったらしい。


「寝ろ」

「はい」

僕は、優しいマティ様の言葉通り、目を閉じるや否や、すぐさま夢の世界へと旅立った……。

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