自然に騒がれなくするには
僕たちは異能力で姿を隠し、隅の方のテーブルに移動した。
突然目の前で消えた僕たちに、食堂にいた生徒たちはパニックになっていた。
「すっごい騒ぎ」
「人が目の前で消えたからな」
「にしても、こんなに近くにいるのに誰一人として、気が付かないもんなんだね~」
「存在感を異能力で消しているので。これなら、気配を消すよりも、視覚的に見つけづらくなりますよ」
「成程ね~」
「こんなのが、ステラにはごろごろいるのか……」
僕の言葉に、カーティス様はかなり呑気だったが、ハロルド様は厳しい表情をしている。
「いませんよ。異能力を使える人物なんて、そう多くはありませんし。更に、その中で強力な異能力と言ったら、どれくらいになるか……。主だって軍事運用できませんよ」
「そうなんだ~」
実際は、異能力部隊というものがいくつかあるが、九星以外あまり戦果を挙げていないようなので、まるっきり嘘ではない。
「でも九星は、異能力者しかいないんでしょ?」
「そんな都市伝説、未だに信じてるのか」
呆れたようなハロルド様の声に、カーティス様が反論する。
「だってさ、アインの強さって九星だ、って言われてもおかしくなくない?」
「なら証拠を出せ、証拠を」
「そんなまどろっこしいことしなくとも、本人に直接聞けばいいじゃ~ん」
「え、あ、えーっと……」
カーティス様の言葉に、一気に僕に視線が集まったが、僕はなんと言えばいいのか、答えに窮してしまった。
「そもそもアインはステラ国民なんだ。そんなこと聞かれても、答える訳ないだろ」
正論だ。
別に九星の存在自体は、別に機密でもなんでもないから、言ってもいいのだが。ハロルド様が信じるかどうか、というところもある。
「そんなことはどうでもいいだろう。ひとまず、しばらくはこのままだろうこの状況を、どうすべきか、だ」
「そうですね。ずっと異能力を使っている訳にもいきませんし……」
「変装もめんど~」
「印象操作……しようにも、下げる方法は……」
「元々マティアス様って人気だったからね~。それに、アイン君も影でモテてたし」
「え?」
カーティス様の予想外の言葉に、僕は一瞬固まる。
「だって、将来は安泰でしょ?さらに、顔もいいし性格も難がある訳でもない。あと平民。マティアス様と違って、身分関係なく狙いやすい、っていうところが悪さしてるよね~」
「あと、婚約者もいない。殿下はジェシカ嬢という婚約者がいるという事によって、ある程度の虫よけ効果があるからな」
カーティス様とハロルド様の説明により、納得してしまった。
更にそこで、とあることを思い出す。
「もしこれで、公爵なんかに叙爵されたその日には……?」
「目が回るほどの縁談の数々が舞い降りてくるだろうな」
マティ様が止めを刺してくる。カーティス様がにやにやしている。僕はそんなカーティス様をスルーし、考えをめぐらす。
「僕に不名誉な噂を流してみるのはどうでしょう」
「却下」
「はやっ」
「カーティス?」
マティ様の言葉に、カーティス様が驚き、ハロルド様がそんなカーティス様を睨む。
「下手な噂は、逆に好感度アップの可能性がある上、やりすぎたら俺の護衛を外されるぞ?」
「そうですよね……」
「マティアス様が使った方法でいいんじゃないの?」
カーティス様の言葉に、一瞬黙る。
「好きな人と一生添い遂げたいです、と言うつもりか?余計駄目だろ」
沈黙を破ったのはハロルド様だった。全くの正論に、僕はしきりに頷く。
「違うよ~。頭硬いな~、ハロルドは。アインより強い令嬢なんて、そうそういないんだから、自分より強い人としか結婚したくない、とかそんなこと言えばいいんだよ」
「なるほど!」
光明が見えた!確かに、僕よりも強い存在なんて、それこそ世界を見てもほとんどいない。
「そうなると、決闘が大量に申し込まれそうだが」
「ループス先輩をけちょんけちょんにしたんですから、間違っても自分が勝てる、なんて思いあがりもしないでしょ」
マティ様の言葉に、カーティス様が得意げに返すが、ハロルド様に想いきり足を踏まれていた。
その後、カーティス様が床で、足を抱えて悶絶して転げまわっていたことは、言うまでもない。
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じゃあ、それとなく噂で流しとくね~、と笑顔で去っていったカーティス様と別れ(何で?)、マティ様とハロルド様と僕は一旦自室に戻った後、1-Aの教室に足を踏み入れる。
すると、食堂の時と変わらない歓声が轟き、僕は面食らった。
「あいつ……そういうことか」
僕は、そんなハロルド様の言葉で、何故カーティス様が僕たちと別行動をとったか、ようやく悟った。
「騒がしい。黙れ」
「「「「「「申し訳ございません!!!!!」」」」」」
「黙れ!」
マティ様の言葉で、沸き立っていた教室は、ようやく静かになった。
「もしかして俺、関係なかったのに巻き込まれて……」
ハロルド様が、何かに気づきかけたが、すぐさま口を閉ざしていた。
その節は、大変申し訳なく思っています。
「そう言えば、カーティス様は大丈夫なんでしょうか?」
「なんだ?」
僕のそんな言葉に、マティ様が反応してくれる。
「いえ……ただ、魔法戦の時のイラストが、この騒動のきっかけなら、カーティス様も、ルーもサティも大変そうだな、と思いまして……」
「ああ、そういうことなら問題ない。ルーはあの顔だろう?ここまでの騒ぎにはならない」
ルーは、身長も低めで、格好いいというよりは可愛い顔立ちだ。マティ様曰く、令嬢は自分より可愛い、もしくは美しい者には、劣等感が出て惹かれない、という者もいるのだとか。
「サティは、可愛らしいいのは外見だけだからな。すぐにでも本性がばれる」
この国は、女性は穏やかに、お淑やかであるべき、という感じなのだ。
サティのあの性格は、魔族では美徳とされても、人間の間では、欠点になるそうだ。
「あとカーティスは……婚約者がいるからな」
「婚約者……」
分かってしまった。恐らく、カーティス様に言い寄る令嬢たちを、ガナーシャ様は詰めるのだろうな。それを恐れて、誰もカーティス様に言い寄らない、と。
「婚約者が自殺未遂をするからな。自分が他家のご令嬢を間接的に殺した、なんてこと、嫌だろ」
「そっちですか……」
「あの令嬢は、虐める、というよりかは自傷して迷惑かける、という印象が強い」
「そうなんですね、覚えておきます」
僕は、ハロルド様の説明を、脳に刻んでおくことにした。
その後、まばらに生徒たちが教室に入ってきたが、カーティス様が教室に来ることはなかった。
ちなみに、そのことについて、ハロルド様は烈火のごとく怒っていらっしゃった。
いまさらなこと
Side Raphael
「なあ、アイン。天使ってなんで彼岸の魔族なんだ?天使は天使だろ」
「え、天使って魔族なん?」
「やっぱ堕天してるやんww」
ふと気になったことを聞く。前世では、天使が魔族の一種になるなんて、見たことなかったから。
その他の雑音は総じて無視する。
「?言ってる意味が分かんないんだけど、天使って彼岸の住人でしょ?」
「言われてみると?」
「全くわからん。パス」
アインの反応からするに、常識らしい。
いや、魔族って英語で悪魔と一緒だし。わかるか。
でも、そう言われると、地獄=彼岸=天国だな。そして、魔族のルーツは彼岸の住人だ。
「天国の住人も、地獄の住人も、皆彼岸の住人だから、魔族、と呼ばれてるのか?」
「そうだね。単純に、人族とは違う、という事を示したかっただけだし、案外魔族という言葉以外でも、よかったのかもしれないけどね」
「ならそうしろよ……。紛らわしい!」
「なんだよ!ラファエル堕天してねえのかよ!」
「何でお前らはそんなに俺に堕天してほしいんだよ!!」
「「「「「「「「なんとなく」」」」」」」」
「酷っ」
こいつら、俺をなんだと思って――!
「うーん、堕天という概念はないかな……」
「なら、最初の堕天使はラファエルだ!!」
「よかったな!堕天使の始祖だぞ!」
「誰が堕天使の始祖だ!!よし、お前らお仕置きが足りなかったようだな……?」
「「「「「「「「ギャー!!堕天したー!!」」」」」」」」
いつも、ペスケ・ビアンケは賑やかです。




