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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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いつも通りの朝、いつも通りの日々……?

いつから、今日はいつも通りとはかけ離れた日になってしまったのだろうか。

朝は、いつも通りだった筈だ。


そんな現実逃避なことを考えながら、僕は頭を抱えた。


何故、僕は頭を抱えているのかというと――それは、今日が始まるその時までさかのぼる。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まだ、日が昇る前のこの時間。僕は、身支度をして、外に出る。


まだ誰もいない。こんな朝早くに、貴族がほとんどな個々の生徒は、起きてくる筈もない。

来年になったら、ジャスパー様が入学してくるだろうが、それまでは早朝は、僕しかいない時間帯だろう。


準備運動をして、軽く建物の周りを走る。鳥の声が聞こえ始めてきた時間帯だ、音を消して走っているため、鳥の声と、風が木々を揺らす音しか聞こえない。


精霊王たちは、大体は遅寝遅起きなため、こんな時間帯に出くわすことは少ない。

いたとしても、シルフィードかテイアくらいだ。


だから、あまり早朝から模擬戦をしたことがない。確か、ラース兄さんがステラに帰った後に、シェイドが気まぐれに模擬戦を言い出したのを受けたくらいだ。


シルフィードやテイアは、あまり戦闘を好まない。早朝で僕がやるのは、もっぱら走り込みや剣術の練習くらいだ。

魔法は、日常的に使っているため、あまり訓練をしなくても勝手に上達していく。認識阻害の魔法は、かなり難しい魔法なのだ。



「朔」

僕は木刀を持ち、剣術の練習をする。魔力さえ込めなければ、魔法にはならない。


「十六夜」

安物の小刀を振るい、技を繰り出す。しかし、魔力を込めない。


「月ノ光――皓月(こうげつ)

無音で相手に攻撃し、聖属性を付与した攻撃で畳みかける――そういうイメージを頭に思い浮かべる。


実践を想定し、剣術を組み合わせる。


「氷纏――寒月――凍月(いてづき)――雪月花」

刀に氷を纏い、周囲の温度を奪う。凍月で続く雪月花を強化し、氷の華で、相手の自由を封じる。しかし、相手は抜け出してしまう。


霽月(せいげつ)――宵闇(よいやみ)――」

僕は、その間に刀に聖属性、小刀に闇属性を強化する。相手はそれを察知し、攻撃を仕掛けるが、僕はそれを軽々避ける。


(おぼろ)――鏡花水月――」

朧で鏡花水月の威力を上げる。どちらとも、相手を騙す技だ。


背後に現れた気配に、相手が弾かれたように距離を取り、瞬時に攻撃をする。

しかし、僕はそこにはいない。


「三日月――月ノ光――十六夜(いざよい)

三日月で遠くから攻撃し、月ノ光で静か陰忍び寄る。十六夜で理性を奪い、首を刎ねる。

予想外のところから攻撃され、相手はどうすることもできずに僕に敗れる。


僕は次の仮想敵に、刀を向けた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――ふう」

脳内で、仮想敵たちの死体の山が出来上がっている。


少し危険な所もあったが、異能力を駆使して危機を脱した。



汗をタオルで拭い、木刀と小刀を魔法でしまう。

日が昇り、あたりはすっかり明るくなっていた。



汗を洗い流すなら、早めにしなくてはいけない。もうそろそろ、朝が早い人なら起きてきても不思議ではない時間帯だ。


僕は足早に寮室に戻り、魔法で汗を洗い流す。今までは備え付けの風呂を使っていたが、光属性と闇属性以外魔法を使えるようになった今、細かく温度調節ができ、とても便利だ。


更に、髪を乾かす魔道具を使わなくとも、より簡単に、早く髪を乾かすこともできるため、その時間も鍛錬にあてられる。

僕は、体の水気を切り、髪を乾かす。


そうして、新しいシャツを着て、マティ様の部屋へ赴く。



部屋をノックし、マティ様を起こす。一応僕は護衛ではあるものの、召使いはここには入れないため、僕は執事の役割も一緒にこなさなければならない。


学園入学前からやっていることなので、全く苦ではない。むしろ、半身と一緒にいられるのだから、苦と感じる方がおかしいと、僕は思う。



あまり目覚めがいい方ではないマティ様は、ノックの音では目を覚ましてくれず、何の返事も返ってこなかった。


「失礼します」

僕は一声かけて部屋に入り、マティ様が寝ているベッドへ歩を進める。



「マティ様、起きてください。朝ですよ」

「んん……朝か?」

「はい、朝です。おはようございます、起きてください」

「ああ……」

普段の傲岸不遜さは鳴りを潜めており、寝ぼけ眼のまま起き上がってくる。


「お湯です」

僕はお湯を張った洗面器を差し出す。マティ様はそれを無言で受け取り、顔を濡らす。僕はすぐさまタオルを差し出し、残ったお湯を処分した。


段々と目が覚めてきたらしいマティ様の着替えを手伝い、その後は朝食のために学食へ向かう。


この時間になると、ほとんどの生徒は起きているが、一部のずぼらな人物は、寝たままだ。


軍人である僕からすれば、朝日が昇っているのにもかかわらず、寝ていられるのは、流石というべきか、危機感の欠如というべきか……。


まあ、ここは戦場でもなんでもないため、そんなことを考える僕の方がおかしいのだろうが。


平和なこのひと時が続けばいいな、と無理なことを願いつつ、食堂の扉を開いたのだった。



「マティ様じゃありませんの!!??」

「まあ、こんな朝からそのご尊顔を拝することができて、私はとても幸せでございますわ……!!」

「その隣には、アイン様もいましてよ!」

「本当ですわ!マティ様に負けず劣らずお美しい……」

「本当に格好いいですわ……」

平和が続けばいい、という願いが無理なものだと思ってしまったからなのだろうか?食堂の扉を開いたと同時に、そんな黄色い歓声を浴びることになってしまった。



「ま、マティ様……」

僕は、そのうちのとある令嬢が発した言葉に、怯える。


「安心しろ。きちんとお前には魔法がかかっている」

「ではなんで……」

「……それを覆すほどなんだろうな、お前は」

こっそり涙目になっている僕に呆れるマティ様。

僕は、魔法の操作が下手になってしまったのかと落ち込んでしまった。


「恐らく、昨日俺の血を飲んだからじゃないか?いいことがあると人は綺麗になると聞いた」

「なら、今までここまで騒がれなかった理由にはならないのでは……?」

学園に入学してから、ここまで騒がれたことは一回もない。騒がれたことはあっても、ここまでじゃなかった。



「何やら騒がしいと思ったら、マティアス様とアインじゃないですか~」

「おはようございます、マティアス様、アイン」

「おはようございます、ハロルド様、カーティス様」

「おはようございます~、マティアス様、アイン」

僕たちが悩んでいると、そこにハロルド様とカーティス様がやってきた。僕は、ハロルド様に挨拶を返す。


「カーティス、何か理由を知っているのか?」

マティ様は、挨拶もそこそこにカーティス様に問い質す。


「知ってるも何も、前に一緒にインタビュー受けたじゃないですか~」

「そうだが……それがどうした?」

「そのインタビュー、放送部が毎週出している新聞の号外に掲載されたんですけど、そこにイラストと一緒に載ったんですよね~。あの、モーリス・ヴァン・フォン・シルクリーンが描いた」

「ああ、そういうことか……」

「どういうことです?」

「要は、上手く描きすぎだ。ただでさえ、魔法祭で人気が上がってたからな……」

誰とは言わんが、と付け加えたマティ様は、苦虫をかみつぶしたような表情をしている。


「面倒なことになったな」

「ひとまず、異能力で隠れましょうか。それと恐らく――」

僕は、周囲を見渡しながら、こう言った。


「ここ、邪魔になっているでしょうから」

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