清掃員さん
Side Sattie
「清掃員さん清掃員さん!!」
「どうしましたか?」
私は、魔法祭の前に会った清掃員さんを呼びかけながら、駆け寄る。
もうすっかり顔なじみとなった清掃員さんは、私を穏やかに受け入れる。
お母さんがいたら、こういう感じなのかな、と思う一方、清掃員さんは男性なので、いやお父さんか、と思い直す。
「私、魔法祭でたくさん活躍して、サージェントたちに褒められちゃって……」
「それはよかったですね。私も、見てましたよ」
茶目っ気たっぷりに笑う清掃員さんを見て、結構親しくなったかな、と嬉しくなる。
「ええ!?そうなんですか!?」
「ええ。清掃中にこっそりと。――とても格好良かったですよ」
「やったあ!えへへ……」
清掃員さんの言葉に、素直に喜ぶ私。
「最近、ダイエットは捗ってますか?」
「魔法祭があったから、かなり捗ったんですけど、これからはちょっと……」
「戦闘はかなり運動しますからね。あ、そうだ、優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます!!」
「インタビュー記事も見ましたよ」
「わっ、恥ずかしい……」
私は、熱い頬を指先でかく。そんな私に見せつけるように、新聞を広げる清掃員さん。み、見ないで~!!
「ええと、優勝の秘訣は、ソルセルリー様の繊細な魔法操作」
「ああああああ」
「魔法戦で苦戦したところは、ウォレン・ディ・ウジェター様との決勝戦」
「やめ、やめ、やめてえええぇぇぇ……」
私は、記事を朗読する清掃員さんの口をふさぐ。そんな私を見て、笑いをこらえきれない清掃員さん。
内容は、放送委員の優勝者へのインタビューと、魔法祭の時を描いたイラスト。
その空間を切り取った……いや、それを優に超えるイラストに、私はしばらく見入っていた。
実物よりも数段格好良くなっているイラストの中の私に、放心していたのを、生徒会室でやってしまい、爆笑された。
それをつい混乱ついでに清掃員さんに言ってしまい、思い切り笑われてしまった。清掃員さんって、雰囲気に見合わずゲラなんだよね。
なんだか、髪や瞳の色も合わせて、ラファエルと似てる。もしかしたら生き別れの兄弟なのかも。
え、気になる。
「清掃員さんって、もしかして幼い頃に生き別れた弟とかいるんですか?」
「え?いないですよ?」
「そうなんですか……」
どうやら、ラファエルと清掃員さんは、生き別れの兄弟じゃないらしい。
「じゃあ、従弟とか!?」
「従弟は一人もいないですね」
「うぅ……」
どうやら違うらしい。うーん、じゃあラファエルとは、親戚じゃないんだろうな……。
「どうしたんですか?」
「ものすごく似てる人がいまして」
「似てる?」
「ええ。ものすごく」
私は神妙にそう言った。
「でも、世界には同じ人物が三人いる、という噂もあるみたいですよ」
「じゃあ、ドッペルゲンガー!?」
「なら、気を付けないといけませんね」
いたずらっぽく笑う清掃員さんは、最初とはかなり印象が違って見えた。
最初はとある黒髪美青年と似ていると思ったのに、彼よりもずっと感情が豊かで、現実にいる、という実感があった。
いや、ドッペルゲンガーは非現実的なんだけれど。
「清掃員さんは、普段は何をしているんですか?」
「普段、ですか……。一人暮らしですよ。一人侘しい一人暮らしです」
「そうなんですね」
なんだか、イメージ通りだ。
「ええ。たまに友人が来るくらいです」
「友人!?」
いるんだ!?しかも家に来るくらい親しい友人が!
私が驚いていると、清掃員さんは、クスクス笑う。それが、どことなく上品だった。
なんだか、平民でも物凄く上品な人多くない?ラファエルくらいしか、平民感ある人がいないんだけど。ラファエルは、人間じゃないけどね?
「とは言っても、建前上なので。あんな奴、友人とは言えませんよ」
「なら、私は……?」
「こんなに可愛い子が、友人になるなら、大歓迎ですよ」
「か、可愛いって……」
私が喜んでいると、清掃員さんは言葉をつづけた。
「休日、私の家に遊びに来ますか?他の友達も連れてきていいですよ」
「いいんですか!?」
「ええ。ただ、うちは狭いですから……」
「なら、喜んで!!」
私は、清掃員さんの両手を取って、喜ぶ。私の勢いに一瞬引き気味になってしまった清掃員さんは、吹きだした。
私は、連れてくる友達を脳内で吟味する。そんな私を穏やかに見守る清掃員さん。
「そろそろ、寮に戻った方がいいんじゃないですか?」
「あ、確かにそうですね。――じゃあ帰ります!」
清掃員さんに言われ、周囲を見渡してみると、もう既に辺りは薄暗くなってしまっていた。
薄暗くなってからすっかり暗くなるまではあっという間だ。
なら、まだ明るいうちに帰った方がいいだろう。
「また明日!」
「はい、また明日」
私は、手を振って、清掃員さんと別れる。清掃員さんに別れの言葉を口にして、寮に帰った。
「うーん、ジェシカ様に声をかけてもいいものなのか……。それにしても」
私は、なんだかラファエルを連れて行きたくなった。だって物凄く似てるんだもん。
顔立ちも似てる気がする。流石ドッペルゲンガー!まあ、決まった訳じゃないけど。
ただ、新聞にパーティーのことが書かれてなくてよかった、と思った。だって、あの事が書かれていたら……。
「あの時のアインがものすごく格好良かったこと、つい言っちゃうじゃん……」
私は、結構迂闊だ。てんぱった挙句、変なことを口走ること間違いなし。
というか、皆格好良すぎるし、皆綺麗すぎるのがいけないのよ!あのラファエルでさえ、結構格好良かったし!
そういう八つ当たり気味な思考になりながらも、明日清掃員さんの家に一緒に遊びに行くのに誘う人を、思い浮かべた。




