表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

210/283

琥珀の旅日記 3

さて、報告するか。


俺は、筆を手に取り、報告書を作成する。



まだこの国を全て見回っていないため、少しだけだ。

明日は、貧民街をのぞいてみよう。もしかしたら、姉上の半身も見つかるかもしれないし、月影の半身もいるかもしれない。


あのお騒がせな二人が、さっさと身を固めてくれさえすれば、色々と安心なのだが。



そんな考えが頭に浮かび、消える。



――月影はともかく、御影姉上は、ストッパーが増えるだけでやらかしは止まらないんじゃないか?



あの暴れ馬が、半身を見つけたからって止まる訳がない。

けど、確実に雪影兄上の苦労はなくなるだろうな、と思いつく。


雪影兄上は、もうちょっと伴侶との時間があった方がいい。

第二魔王子妃である玉響(たまゆら)様は、本当に人格者だし、あの姉弟を見ても変わらず雪影兄上に愛を向けているから、かなり信用できる。



雪影兄上は確かに美形だけど周囲を惑わすほどじゃないんだよな……。妹と弟があれだからかもしれんが。


となると、いくら美形で生まれたとて、いいことだけじゃないんだな、と思う。

御影姉上はとんでもなくモテまくるし、月影は変態おじさんに大人気だ。特に金華の当主である白柊(はくしゅう)には特に。


金華って、本当に変態しかいない。一番ましで天使趣味の奴がいるくらいだ。

悪魔が天使にって……。



それはともかく、やはりこの国の違法奴隷はなんとしてでも救いたい。

あの可哀想な感じが、月影とどうしてもダブるのだ。


気弱で心優しい月影。俺に、守るだけの力があれば、月影はこんなにも長い間、行方不明になることはなかったのだろうか。



「あーあ、やめだやめ!!」

一人でいると、どうしても暗い思考になってしまう。俺の悪い癖だ。


まず今は、俺がやれることをしようじゃないか!俺は腐っても第八魔王子だ。そんじょそこらの奴とは、できることが段違いだ!!



俺は決意を新たに決め、時間が来るまでしっかり寝ることにした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



クラテール貧民街未明。

俺は、目立たないように暗めの色の服を身にまとい、できるだけ顔を隠す。


雨影母上や、雪影兄上、御影姉上にそれぞれ隠密についての特訓を叩きこまれていたため、ある程度は動ける。


かといって、本職ほど動けないが。



不気味なほど静まり返るこの町に、俺は音を出さないように注意する。


ここに、奴隷はいない。こんなところに違法奴隷を置くほど馬鹿な奴はいない。……少なくとも、俺はそう信じている。



奴隷は、奴隷紋という、相手を隷属させる魔法陣を使って隷属させる。

それを破壊すればその奴隷は解放されるが、そう簡単でもない。


下手をすれば死んでしまう可能性があるのだ。俺ができることは、然るべきところに、事細かに通報すること。

決してそれ以上はしない。



俺はそう自分に言い聞かせながら、近くのぼろ屋――そもそも建物なのか?――に忍び込んだ。



中にはすっかりやせ細った男が寝こけていた。

俺は、男を起こさないように、慎重に身を隠す。



身を落ち着けてしばらくしただろうか、乱暴にこのぼろ屋に押し入ってくる複数の足音が聞こえた。


「だ、誰だ!?」

「貴様、頭が高いぞ!!」

「誰に向かってものを言っている、この下賤な民め!!」

男の声に、男たちが怒鳴り返す。すっかり、男は怯え切ってしまったようだ。


「来い!貴様に拒否権はない!!」

「な、何を……!むぐっ!?」

「つべこべ言わず、さっさとついて来い!!」

男たちは、男の口に布を乱雑に突っ込み、強引に黙らせる。

男があたふたしている間に手早く腕や脚を縛り、麻袋を被せる。


そうして、男を連れ去ろうとしたその時に、俺は姿を現した。


「はいはいちょっと待った待った」

「誰だ貴様!!」

「見られたからには生かしておけん、おい、殺すぞ!!」

「何でそんなに血気盛んなの、さ!!」

俺は、次々に襲い掛かってくる男たちに、合気道で制す。


久遠独特のこの武術に、男たちは手も足も出なかったようで、すぐに床に這いつくばることとなった。



「よし、現行犯だな、という事であとよろしく~」

俺は、虚無に向かって語り掛ける。

何をしているんだ、という懐疑な視線など気にも留めない。


「かしこまりました、琥珀様」

突然後ろから声がし、俺は内心心臓が暴れ狂った。


「……ちなみに、いつからいたの?」

「琥珀様が久遠から出発される時から我々は同行しておりますよ」

平常心を取り戻しながら、気になったことを聞けば、そんな答えが返ってきて、俺は恐怖を感じた。


彼らは御影姉上の腹心の部下――夜蝶だ。俺よりもこういうことに慣れているプロたちだ。

その中の恐らく隊長が、俺に話しかけた。



クラテールに入ったとき、変な気配に気づき、存在を認識した。



彼ら的には、俺が厄介ごとに首を突っ込んで、変な事態を起こさないように、先回りして存在を主張していたのだ。



何が怖いって?俺が久遠を出て旅をしたのがかれこれもう11年になるからだよ!!


え……エルフの里を訪れた時にもいたのか?流石にそこまではいなかったと思うのだが……。え、いたのか!?



「一度琥珀様を見失った際、より一層厳重に観察しておりました」

あ、エルフの里の時かー!あれ、部外者(俺以外)は立ち入れないもんな。


……ん、観察?


「それを人は監視と言うのでは?」

「いえ、観察です」

「……」

こういう意志の強さは、御影姉上に似てる。

俺は御影姉上に一回も勝った試しがないから、早急に諦めることに決めた。



「本国に報告いたします!」

「ご苦労」

「さて、聞こえてるか?」

俺は、夜蝶の会話を右から左に流しつつ、自分が倒したうちの一人の男に歩み寄り、頬を軽くたたく。



「うぅ……」

「聞こえてるな。まず、違法奴隷は国家間で禁止されていた筈だが?」

「……」

「前々から怪しかったんだ。姉上が忙しすぎて、なかなかクラテールまで足を延ばせなかったようだがな」

「……」

「俺が来たのが運の尽きだったな。大人しく諦めろ」

俺は、そんな言葉を吐くと、男を気絶させた。


夜蝶は、男たちを担いでいる。



「久遠に持ってくのか?」

「はい。何人か夜蝶の者を置いてきます。決して、撒かないように」

「そもそも撒ける訳ないだろ、俺が」

「いえ、どうでしょう。一度我々は琥珀様を見失いましたので」

「エルフの里には行かないから。きっと、つまんないだろうし」

「そうですか」

夜蝶の隊長は、そっけなく返しただけだった。


「明日クラテールを出る。それだけは覚えてくれ」

「了解しました」

その言葉と共に、この場に残されたのは、このぼろ屋の主と、俺だけになった。


俺は、静かにあの場所から立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ