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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩

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正体不明な密会

Side Unidentified


食後に愛しい妻の淹れた紅茶を飲みながら、陽の下で微睡(まどろ)む。これが、俺の一番幸せな時間だったりする。


情熱的な夜も悪くない。しかし、静かに時が過ぎるのを待つだけ、というのも、長寿な俺たちの特権のような気がしていい。



そんな俺の至福な時間は、ドアのノックする音によって、終わりを迎えた。



コンコンコン


「はーい」


妻が出る。見知った、懐かしい魔力に、普段来客は全て妻任せにする俺は、妻の後ろから、来客を見る。


俺は、少し笑ってしまった。――いや、訂正しよう。ゲラゲラ笑っていた。だってそうだろう?背の高かった幼馴染が、子供のような身長になって、家の門を叩いているのだから。



「笑いすぎだ」

その客はムッとしながら言った。


世間話をしながら家に招き入れ、ソファに座らせる。妻が紅茶を持ってきた。

そいつは、舌がかなり肥えている。まあ、やんごとなきお方なので、当然だろう。そんな彼が、妻の紅茶を飲み、満足そうに頷く。それに嬉しくなったが、そいつの用事は、妻の紅茶を飲みに来た、という訳ではないだろう。



「で、何しに来たんだ?」

「そんなに来ちゃいけない?」

目の前の少年が、無表情のまま首を傾げる。



「いや。だが、お前がここに来るのは三回目位だろう、そのどれもに用事があった」

「その通りだよ。今日は、知っておいた方がいい、あることを伝えに来たんだ」

少し意外な訪問理由に、俺は軽く目を瞬かせる。



「いつもの蝙蝠便じゃ、駄目なのか?」

吸血鬼は、蝙蝠の分身を作り出すことができる。その蝙蝠に、手紙を持たせて、飛ばす。まあ、鳩が蝙蝠になっただけだが、吸血鬼には、そんな便利なものがある。俺たちは、知らせたいことがあると、そういう方法で連絡を取っていた。

彼が、なんとなく居場所がばれると気まずい俺に配慮しているのに、ただ甘えているというのもあるが。



「偶々近くにいただけだよ。それにこの情報は、秘匿性を高くしたい、というのもある」

「そうか」

納得したと同時に、大変なことが起こったのか、と身構える。



「魔族がこの国に侵入した」

「いつもの事じゃないか」

俺は、冷める前に紅茶を飲む。目の前の少年は、それをじっと見つめた後、口を開く。



「それが僕の行方を掴んだ者だとしたら?」

「………………は?」

「僕……」

「分かった、分かった、もういいもういい」

衝撃告白を無表情でしやがった奴を睨む。妻も、顔が青い。



「その者は、もうとっくに始末した。そいつは、手柄を独占しようとしていたらしく、誰にも伝えていなかったようなんだ」

「マジか」

何その幸運羨ましい。妻もほっとしていた。



――やっぱ、報・連・相は大事なんだな。いつ死ぬかわからない訳だしな。



これは、皇では珍しいと言えば珍しいが、そこまでの訓練を積んだ者は逆に、こういうことに加担しないのだろう。皇の名を持つ者を殺すのは、リスクが高い。過失のない彼を手にかけるのは、馬鹿がやることだ。

万が一もないが、もし殺れたとしても絞り首は免れない。



「でも、それって、皇君の居場所がバレるのも、時間の問題じゃないかしら?」

妻は不安そうだ。


「それが案外そうでもないんだ。あいつは、僕のいる国を偶然掴んだだけらしいし、偽情報も多い。きっと、この情報を掴んだとて、偽物の一つと見られるに違いない。それに、誰も僕の顔すら覚えていない」

「ほんと、こういう時の運は強いよな」

昔から、そうだった。いざと言う時は絶対に逃さない。

必然といえば必然なのかもしれないが、未だに居場所が割れてないのは運の要素もあるだろう。



「運じゃない。全て必然だよ。そもそも、僕は幼い頃から男性恐怖症だったんだ。だから離宮で隔離され、女性の召使いのみに育てられた。

あの男は確かにお目付役だった、だがそれ以前に男だ。会う機会もそうそうなかった彼が僕の容姿なんか覚えている訳がない」

「ああ、会える男は母親たちと兄たち。それから父親だっけ?」

やけに男の出入りが厳しかったのを覚えている。



「それと乳兄弟(お前)。兄上たちは許可制、父上は――来なかった」

「そうか。――取り敢えず、皇については要注意、でいいか?」

しんみりとした空気を紛らわせるように言う。


本来、魔族は血の繋がっている存在には優しいが、例外も存在する。自分の命を脅かすような存在や、大好きな父親を将来殺すことが確約している存在は、許容できなかったのだろう。同じ皇からも命を狙われている。

皇は、同じ皇の名を持つ者なら、ノーリスクで殺すことができる。次期魔王が決まっている今は関係ないが、王位継承権争いの関係上そうなった。



「ああ。それと、いつか助力を求めるかもしれないけれど……」

「いいぞ。お前には借りがあるからな。それ抜きにしても、幼馴染が大変な時には、協力を惜しまないものだ」

「ありがとう」

「そういう言葉はな、もう少し顔を綻ばせて言えよ!」

前に会った時よりも、無表情が崩れない幼馴染の頬を引っ張る。くそっ、こんな時でもイケメンは変わらないのか。



「そろそろ出る。新婚なのに、邪魔したね」

「ああ。別に構わないさ。その代わり、お前も伴侶出来たら押し掛けるからな」

まあ、こいつもこいつで大変なのだろう。暫く伴侶はできそうにないが、こいつの選ぶ伴侶も気になる。



「ああ。いつになるか分からないけれど」

「いつになっても構わないからさ、新婚の邪魔をさせろよ。絶対だからな!」

これは、この件が終わり、目の前の幼馴染の(しがらみ)が全てなくなった時。互いに生きていようという約束。俺は、妻と共に家から出ていく親友の後姿を見届けた。



「大丈夫かしら?」

妻が不安そうに言う。まあ、その気持ちは正しい。この件が終わった時、誰が生きているか分からないのだ。俺もあいつも死ぬ気はないが、死ぬことになるかもしれない。それでも――。



「あいつは大丈夫さ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Matthias

「なんで今なンだよッ!!」

なんだかキレている鬼人――鬼って言ったら、鬼人だ間違えるな、と言われた――が、頭を抱えた。


「どうしたんだ?」



アインが行方不明になって数日。一向にアインの居場所が掴めていない状況で、焦っていたのは事実だった。



「ああ、ノア兄が今更アインの居場所教えるって言ってきてさ……。いや、未来見えてンだろ、さっさと教えろよ!」

「それ機密情報なんじゃ……」

「あ」

「おい……」

ラースが、ついつい漏らしてしまった、と言う風に口を抑えているが、出てしまった言葉はもう戻せない。



「貴様は究極の間抜けだな」

「ぐう……」

悔しそうに唸っているが、事実である。



「そ、それよりも、ノア兄!アインの居場所は!?――え?そこにいンの?遠くないか?」

「そういえば、さっきはスルーしていたが、貴様は誰と話しているんだ」

ラースは、ずっと虚空と話している。そればかりか、今ここにいない人物の言葉を聞き取っている。電話もないこの世界。今のラースはホラー以外の何物でもない。



「ん?ノア兄以外居ないだろ。――え?あ、確かに。ん、ええとだなァ、九星は全員異能持ちなのは知ってるか?異能持ちってのは、異能力と言う、魔法ではない、この世の理を変える力を持つ者だ」



――へえ、この世界には、魔法以外の存在もあるのか。じゃあ、アインが血を操って攻撃してきたあれは、異能と言うことになるのか?



ジェシカが驚いているのを見ると、どうやら彼女は知らなかったらしい。



「異能持ちはな、オケディア王国でしか誕生しない、稀有な存在で、しかもオケディア王国民全てが持ってる訳じゃない。アインはその異能の力を研究してたンだ」

「アインが?」

ジェシカが、驚いた風に言う。



「まあ、研究を完成させる前にチーズルに強制移送だがな」

悔しそうにラースが言った。



「それをノアが見つけてミリアが解読。結果、異能力者にしか使えない連絡方法を編み出すことに成功したンだが、欠点が多い。効果が弱いから、色々と条件を限定する事で、どこにいても連絡できる状態になったンだ。凄いだろ」

今の話で、ラースが活躍した所はどこにもなかったのに、物凄く自慢気だ。子供かよ。



「それ、貴方何もしてないじゃない……」

「いや、ミリアが凄いだろ」

「アインも凄いと思うが」

「アイツはあれが本職だ。そもそも最初は筆より重い物持ったことがなかった引きこもりだぜ?その点、ミリアは魔術を研究するンじゃなくて、使うのが専門だ。一つ新しい魔術を編み出すだけで偉業なンだよ」

呆れた風にラースは言うが、アインの年齢はきちんと覚えているだろうか?あいつ確か11だった筈なんだが。



「脱線したな。それで、アインの居場所。分かったのだろう?案内しろ」

「そういう傲慢な口調、人に嫌われるぞ?」

「俺の言葉の意味が分からないのか?」

「へいへい、分かりましたよ、王太子サマ」

ラースは悪態をつきながら、アインがいる場所を告げる。



「アインは今、西側の関所付近にいるンだと。物凄いスピードでこちらに向かってきてるらしいぞ」

「よく王都の位置が分かったわね?」

「蝙蝠が魔力を同心円状に広げて、距離を測ったらしいぞ。普通は試そうとは思わないし、そもそもできない」

九星でもできるできないが割れるのに……。と言うラースは絶対にできなさそうだ。



「今結構気が立ってるみたいなンだ。人は最小限にした方がいいンだとさ。――王太子サマは絶対に連れて行け。異論は認めん、ってノア兄、そんなに遠いとこに連れ出せンの?――イケるって……。――わかったよ、それが一番なンだな!?」

ラースは、自棄になったように叫んだ。そして――。



「王太子サマ。俺は、これからアインを()()()くる。ノア兄は、アンタにも行って欲しいみたいなんだ。少し遠いが、ノア兄が話をつけたンだとさ。で、どうする?」

楽しくて仕方がない、と言う風に、その口は、大きな弧を描いていたのだった。

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