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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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琥珀の旅日記 2

クラテール。そこは、美しい宝石が有名な小国だ。


この国で産出された宝石は、ブランドがブランドが付き、かなり高い値段で取引されている。

そのため、クラテールさんの宝石を持つことは、一つのステータスにもなっており、世界中の金持ちたちが、こぞって求めている。



そういう輝かしい一面はあるが、実態は数々の国でもう既に廃止されている奴隷制度が適用されていたり、貧富の(かたよ)りが起こっていたり、オケディアのように戦争を周囲に仕掛けまくっていたりなど、なかなかに危険な国である。



オケディアは、小国であったがために、かなり舐められやすかったし、最初はオケディアに戦争を仕掛けていた国々にやり返していた。

まあ、その国々は滅亡まで追い込まれたため、やりすぎかもしれないが、一旦は大目に見て貰える。


他の国も、セオドア以外はすべてオケディアに敵対していた国だ。……元々問題に上がってたくらいだし、御影姉上の調査の結果からも、あの政府や、軍に戦争を仕掛ける相手を選ぶほどの理性はなかった筈だが……月影が、何とかしたんだろうな。



そういう特殊すぎる事情を抱えるオケディアとは違って、クラテールは単純にたくさん宝石が採れるだけの国だ。そろそろ久遠の粛清対象にされてもおかしくないような国で、たぶん呑気に観光できるのも、今の内なのかもしれない。



そう思いながら、きれいな街並みを歩く。


綺麗に並べられた白い石畳の道。にぎわう宝石商。少し外れると、そこには温泉街が広がる。

宝石は火山の近くで取れるため、クラテールは火山の国なのだ。

だから温泉もある。


宝石の印象が強いため、少し影が薄いが……クラテールの温泉も、格別だ、という話を聞いたことがある。



「こんなに綺麗なのにな~」

俺は、クラテールの事情を知っている。

あまり変な所に行かなければ、治安はすこぶるいい。


だからこそ、他国の人間は気づけない。クラテールには、違法奴隷がたくさんいることを。



「まあでも、俺にできることは何もないし」

確かに、違法奴隷は可哀想だと思う。だって、何の落ち度もないのに、勝手に奴隷にされたのだ。


だが、俺は助けようとは思わない。

変なことをすれば、被害が拡大するだけだし、そもそも俺には問題解決能力はない。


時雨兄上のような柔軟さはない。

梅姉上のような交渉力もない。

雪影兄上のような冷静さもない。

御影姉上のような度胸も美貌もない。

そして、月影のような聡明さも持ち合わせていない。

他の兄弟がやっている、こういう事態の対処もしたことがないから、知識もない。


俺ができるのは、クラテールの現状を久遠に報告することだけだ。

変な正義感は、邪魔になるだけだし、何より俺は、御影姉上の半身探しが仕事なのだ。それ以外は、月影探ししかできない。


平民上がりの母を持つ俺には、碌な伝も持ち合わせていない。

あるとすれば、月影を紹介してくれ、という寝言を発する脳みそ下半身野郎だ。当然俺はそんな奴らの存在を認識する訳がない。



だから俺は、無視した。この路地の先に、貧民街があるのを、俺は知っておきながら。



俺の手は、誰かを救えるほど、大きくはないから。



「あーあ、胸糞悪いな……」

俺は、誰も救えない。だからこそ、少しでも現状がましになるように、今はとりあえず、明部を探索することとした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「すごいな……やっぱ、この国の宝石は、一目置かれるだけはある」

俺の母方の家が宝石商をやっているから、いくつもの高品質な宝石を見たことがある。

そんな俺でも、めったにお目にかかれないくらいの品質の宝石が、ゴロゴロある。


とは言っても、一つ一つ小国が買えるくらいの値が付けられている。

様々なルートから、安く仕入れようとすれば、少し品質は劣るものの、値段はこれの半額くらいだ。



「さて、いくつか買うか」

俺がクラテールにいたとばれれば、何をされるかわかったもんじゃない。

避けれる火種は避けるのが鉄則だ。



梅姉上にはピンクサファイア。髪と瞳の色に会う宝石であり、割と普段使いする梅姉上には、ピッタリの宝石だ。


御影姉上には、デュモルチェライトという模様が入ったクォーツ。花のような模様が、色も相まって、氷の華のように見えて、まさに御影姉上にピッタリだ。


栗花落姉上には、スピネル。それも、コバルトスピネルだ。なかなか市場に出回らないため、ブルースピネルよりも貴重なのだ。


氷雨母上には、アイスブルーダイヤモンド。照射処理された淡い青のダイヤモンド。氷雨母上は、淡い青が好きなので、きっとこの宝石も気に入る筈だ。


雨影母上には、デマントイドガーネット。深い緑の宝石は、呪いに侵され、黒く濁る前の月影の瞳によく似ている。青や赤系色の宝石は結構持っているため、緑の宝石が欲しいと話していた。何ならいらない宝石を売って、緑の宝石を買おうとしていた。



全て、ただでプレゼントするつもりはない。色々と頼みごとをしたいときの手土産として、効果的に使うつもりだ。


ちなみに瑪瑙(めのう)母上は、もう十分宝石を持っているため、要らない、と言いそうだ。特に瑪瑙が多い。ちなみに俺は琥珀をよく誕生日の贈り物としてもらう。確かに男だし、あんま持ってても意味ない。

いや、ちょっとは欲しいけどね?限度があるんだよ、限度が。


そう考えながら、宝石の値段を勉強してもらいつつ、無事に買い上げた。


ふう、横暴で優秀な姉がいる無能な弟は大変だ……。



綺麗な黒曜石もあったから、つい衝動買いしてしまった。

これだけ使ってもまだ余裕がある魔王子の小遣いがとんでもないのか、単純に今まで使わな過ぎたのか……。


そんなことを考えながら、俺は周囲の光で輝くこの石を、宿の部屋で長いこと眺めていた。

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