STOP!無茶ぶり
「あれ?今日も来たの?」
「はい。――特に用事はないけれど」
僕は、今日、ペスケ・ビアンケを訪れていた。
普段はラファエルと共に来るため、一人でふらっと来た僕に、リクは驚いているようだった。
「にしても、うちの奴、結構態度コロっと変わったよな~」
どこか申し訳なさそうに言うリクに、僕は肩をすくめる。
「なあ、嫌ってないのか?」
「別に。そもそも、関係を改善するつもりは、なかったから」
図太いようで、その実僕の顔色をうかがいながらの質問に、僕はそっけなく返す。
「ラファエルか?」
リクが、予想外の人物の名を上げる。
――なんでそこでラファエルが?
「俺たちと、仲良くしようと思ったきっかけ」
僕が黙った間に、そんな僕の疑問を感じ取ったのだろう。リクは言葉を続けた。
「違う。――ただ、利用価値を見出しただけ」
「俺たちに?」
「そう」
「“鮮血の死神”に、利用価値がある、と言われるのはなんだか嬉しいな」
顔をほころばせるリクに、僕は少々面食らう。
「だってさ、俺たちなんか一撃で吹き飛ばせるだろ?」
「吹き飛ばせないものの方が、少ないかな」
「そんな強者に、使える、と思わせれるくらい、俺たちは有能なんだろ?」
「……すごい前向きだね」
「そのポジティブさが、俺の売りだからな!」
胸を逸らしてそう言い切ったリクに、僕は小さく笑う。
「やっぱ、お前は普通の男の子なんだな」
「ふ、普通……?」
「あー!リクがアインを口説いてるー!!」
僕が、リクの言葉を聞き返すと同時に、そんな声が聞こえた。
「別に口説いてねえよ。それよりもお前、アインを嫌ってなかったか?」
「アインはいい子だもの。そんなアインのことを、私が嫌う訳ないわ」
「記憶改竄しやがって……」
「それに~」
マリーのその言葉に、リクが呆れている。僕はその間に挟まれている訳なのだが、マリーは何を思ったのか僕に抱きついた。
「……ちょっとは動揺しなさいよ」
「女慣れしてんなー」
「……」
一切動揺せず、無表情を崩さない僕に、つまらなそうな反応をした。
久遠にいた頃、身の回りの世話は女性が主にやっていたからか、女性と距離が近くても、あまり動揺しない。
それをつまらないと言われたところで、僕にはどうしようもない。
「まあその顔面なら、そうなるか」
二人は僕の顔をじーと見て、同時に溜息を吐いた。
その溜息には、どこか羨望の感情が混ざっていたように感じた。
「……何をしてるんだ、二人は」
そう言いながら、僕たちに近づくのはラファエルだ。僕がいて、意外そうな顔をしたものの、僕に抱きついているマリーを見て、面倒くさそうな表情をした。
「あ、ラファエルだ」
「アインよりも顔面偏差値低いラファエルだ」
「顔面偏差値低いは余計だろ」
「だってあなた、攻略対象じゃないじゃない」
「だってあなた、厨二病拗らせてるじゃない」
「だってあなた、アインみたいなポーカーフェイスじゃないじゃない」
リクは、ペスケ・ビアンケのメンバーに、かなり容赦ない。
そして、マリーの口調を真似し、ラファエルを煽っている。
そして、今まで僕たちの会話を聞いていたのか、続々とペスケ・ビアンケのメンバーが集まり始める。
「誰が厨二病だ!そう言うお前らが厨二病だろ!」
「ほら、厨二病はよく、漆黒の堕天使、とか言うでしょ?」
「確かに言うな!?だが、俺は漆黒じゃなくて純白だし、そもそも堕天してないんだが!?」
「純白の堕天使はちょっと……」
「一旦堕天使から離れろ」
「攻略対象じゃないから、イケメンって言っても、霞むし」
「そう言うお前は美形なのかよ」
「不細工が不細工って言ったところで、恥ずかしいだけだぞー」
「リク!お前はどっちの味方だよ!」
「それにラファエル……クール系目指したって、きついだけだって」
「誰もクール系目指してねーわ!!」
「忙しそうだね、ラファエル」
「アインまでボケに回らないでくれ……」
「ふふ」
「アインが笑った!!」
人が集まると、すぐに騒がしくなるペスケ・ビアンケ。その喧騒の中心にいるラファエルが、学園の中よりも幾分か子供っぽく見えた。
「やっぱり、クール系は笑ったときのギャップがいいのよ。ラファエルはよく笑うしよく怒るから、クール系は無理ね」
「いつ誰がクール系目指すって言った」
「ここに完璧なクール系がいるから、ラファエルががんばっても霞むだけだって」
「人の話を聞け!!」
僕の肩を掴みながら、好き勝手言うペスケ・ビアンケの面々に、ラファエルは吠える。
「そもそも顔がよくなきゃイタいだけなのよ」
「そうそう、それこそアイン並みに」
「そうそういないだろ、こんな美形」
「えっと……」
「やっぱりラファエルのなんちゃってイケメンとは違うわね~お肌から綺麗」
僕は戸惑いの声を上げたが、ラファエルを罵倒しながら、黙殺された。
「誰がなんちゃってイケメンだ!!」
「「「「「「「「お前」」」」」」」」
「よしお前ら、どうやら地獄を見たいようだな?」
流石のラファエルも、こめかみに青筋を立てているようだ。そんなラファエルを前に、ペスケ・ビアンケのメンバーがクルっと僕の方を向き、助けを求めた(?)。
「「「「「「「「アイえも~ん!ラファエルがいじめる~!」」」」」」」」
「??え?」
「無茶ぶり止めろ。通じてないだろ」
「えっと……僕の名前は……」
「知ってる。こいつらの悪乗りだ。付き合わなくていい」
「そ、そう?」
かなり息ぴったりだったな、と思いながら、僕は片っ端からラファエルにボコボコに叩きのめされているペスケ・ビアンケの面々を、穏やかに見守った。




