勘違い野郎
Side Unidentified
クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!!!!
俺は選ばれた存在なんだぞ!?なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!!!!
ペスケ・ビアンケは俺を受け入れるべきなのにいいいぃぃぃぃぃいいいい!!!!!!!
頭をかきむしる。雨が鬱陶しい。
何度目かのペスケ・ビアンケの面接。また、落ちた。
俺は転生者だ。転生者なのに!なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――俺は認められない?
「あ」
そんな俺の目の前に、あの真のラスボスであるアインがいた。なぜか前髪を切っているが……。その隣には、見知らぬ白い男もいた。
――ああ、あいつらか。あいつらがこの世界の悪役か。
なら、あいつらを殺してそれを手土産にすれば…………ペスケ・ビアンケに入れるかもしれない。
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Side Raphael
「おお、すごいな……」
俺は、アインと共にペスケ・ビアンケの本部へ行こうとしていた。色々とやって欲しいことがあるとか何とか。
するとギルマスが、どうせ来るのなら、とアインにとある不埒者の対処を頼んでいた。自分でやれ、自分で。
「見えた?」
「途中までなら……」
アインは、魔法を超高速で飛ばしている。最初は、こんな往来があるところでやるな、と言ったが、あいにくの雨で、人っ子一人いない。
だからここぞ、とばかりに俺の動体視力を鍛えてくれているのだ。前よりも見えるようになっているから、効果はある。
これによって、何とかアインの動きについていけている。あれでもまだ本気じゃないらしいのがとんでもない。
「!!」
「振り返らないで」
「え?」
なんだか殺気を感じ、思わず振り返ろうとしたのを、すぐさま咎められる。
「たぶん、エイデンバークが言っていた人物だ」
「え……え?」
「ペスケ・ビアンケのギルドマスター」
「何であえてそれなの……」
あえてのチョイスが謎すぎる。
「そもそも、そのギルドはあまりメンバーを公にしてないでしょ」
「そうだけど」
つまり、こちらに慮った結果らしい。ギルマスの名前なんか、皆覚えてないのに。
「それで、僕はあまり詳しく知らないけれど、一体誰?」
異能力で声を消しているから、何を話しても大丈夫だよ、と言うアインに、オレは口を開く。
「あいつは何度もうちに入りたいって言っている奴だな」
「異世界転生者か」
「そう。まあ、オタクだらけの陰キャグループに、害悪陽キャが入ったらとんでもないことになるからな」
「……おたく……いんきゃ……がいあくようきゃ……」
「あ、悪い。ええっと……繊細な人見知りの集まりに、空気を読まない人間が入ると、人間関係が崩壊するだろ?」
「成程」
俺がつい元の世界の言葉を滑らすと、クエスチョンマークを頭に飛び散らせたアインがいた。
オタクも陰キャも陽キャも通じないのか……。
「うーん、教えていいものか悪いものか……」
「?」
なんとなく、マティアスがアインのことを好きな理由が分かった気がする。
「……知らないことがあっても、知ってるふりはしろよ」
「どうして?」
「……なんとなく?」
「ふうん?」
色々と伏せながら理由を話すの難しすぎだろ!!
「話を戻すけど」
「あ、はい」
ちょっと鋭い声に、ちょっと身を正す。
「性格的に合わないから、落とす、とギルマスが言ったらしい。前世の世界は、結構優しい世界だったんだ。そこでは、性格で落とすことはあまりないから、逆上してな……」
「迷惑な話だね」
「ああ。労働法というのが前世であってな、それを持ち出して自分を雇え、と言ったんだ」
「労働法……」
その言葉は通じたようだ。だが、あまりいい意味ではないらしく、顔を歪めている。
まあ、この世界の労働法と言えば、ほとんど労働者を奴隷にする法律だから、当然かもしれない。
「ああ。労働者の権利を認める法律なんだ。――この世界じゃ、あまりないだろ?だから、ギルマスが呆れかえってるんだ」
「そんなに厄介な人物に……」
事態を正しく理解したらしいアインは、沈痛な面持ちをする。
「お前の命も狙ってるかもな」
「僕の命を?どうやって僕を殺すんだ」
心底不思議そうに言うアインに、ハッとする。
――そう言えば、アインにこの世界は乙女ゲームの世界だ、と言ってない!!
「そ、そうだよな!」
「何か隠してない?」
慌ててアインに同調すると、アインからジト目を送られた。
「い、いやあ?」
「……無理には聞かないよ。――でも、僕に不利益をもたらす前には話してね」
「前向きに検討します……」
見逃してくれた……。
そんなことを話しながら、後ろの気配をうかがう。
「いつ飛び掛かってもおかしくないね」
「ああいう輩は自分の力を過信するんだよ」
「そういう人間は冒険者にならない?ほら、一獲千金のチャンスだし」
「確かに」
なんでうちに入ろうと……ああ、厨二病か。
「なるほど。ほとんどの人間にかかる、不治の病の持ち主だったか……」
「前にマティ様も不治の病を患っているとカーティス様がおっしゃっていたけど……」
「この世界に厨二病の概念はあるのかよ!!!」
じゃあなんでオタクはいないんだよ、と俺は嘆いた。
アインは、そんな俺を奇異なものを見るような目で見ていた。
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Side Unidentified
よし、行ける。俺は、ゲームの主人公よりも強い!
俺は、アインに気配を消して、襲い掛かる。アインは俺の存在に気づかない!!
「あ――」
白い男が何かを言った。しかし、俺は気にも留めなかった。
正しくは、気に留める余裕がなかった。
「案外慎重派なんだ」
「クソ!!」
アインは俺の気配に、絶対に気が付かなかった筈だ。なのに、今は地面にうつ伏せで転がされて、後ろ手に拘束されている。
「エル、どうする?」
「うーん……ギルマスからなんて聞いてるんだ?」
「特に」
「……いい感じに罰を与える、ってできないか?」
「できるよ」
「お願いします」
「俺に何をする!!――ふぐッ」
不穏な会話に、オレは声を上げるが、口をふさがれてしまった。
「魔法を使えないようにして、と」
その言葉と共に、何か体から力が抜けていった感覚がした。
「ちょっと意味が解らないんだが」
「使える相手は限られてるから、怯えなくて大丈夫だよ」
「そ、そうか……」
そんな会話が聞こえるが、内容が頭に入ってこない。
体が解放され、何度も魔法を使おうとする。何度も何度も。
「なんで……なんでなんでなんでなんでなんでッ!!」
「次はこれだけじゃ許さないからね」
顔を無理やり掴み上げ、無理やり目線を合わせられる。開ききった瞳孔が、恐怖を増長した。
じわ……と、足と足の間から、生暖かい感覚がする。
俺は、呆然自失のまま、アインと白い男――エルが去っていくのを、ただ見ていた。
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Side Raphael
「どうやって魔法を使えなくさせたの?」
「そうだね……魔法を使えるのは、精霊のお陰なんだ。その精霊を説得した」
「なるほど……いやとんでもないな!?」
サラッとすごいことしている。
「あれで、マシになるんじゃない?」
「ああ、そうだな。魔法が使えなくなるなんて、結構ショックだしな」
「転生者は魔法を好むかもしれない、と思って」
「……ちなみに根拠をお聞きしても?」
なんとなく、下手に聞いた。
「ラファエルとあの男。共通点は、魔法をかなり鍛えていること」
「ああ、そういうことか」
そりゃ、魔法がなくなったらショックだろうな。
「とにかく、依頼は達成した。――エイデンバークに報告する」
「ああ、うちの問題に巻き込んで悪かったな」
「もう既に巻き込まれてるから、問題ないよ」
「その節はどうも……」
ラファエル「ところで、エルって?」
アイン 「一応、恨まれても問題ないように」
ラファエル「まさか、名前を使う呪いの方法とか――」
アイン 「名前を知らないだけでも、情報は集めづらくなるからね」
ラファエル「あ、なるほど……」




