閑話:モーリス・ヴァン・フォン・シルクリーンの戯言
Side Maurice
僕の名前はモーリス・ヴァン・フォン・シルクリーン!!あの芸術大国、クリスタルパラスの国王に認められた稀代の芸術家だ!
この僕が、セオドアに数ある学園のうち、この学園に入ったのは理由がある。
それは、生BLを見るため!腐女子だった前世からの夢だったのだ!
本当は騎士学園に入りたかったのだが、生憎剣術には才能がてんでなく、入学は断念することになった。
しかし!ここにもBLはあるかもしれない!だからこそ僕はこの全寮制の学園に入ることにしたのだ!
元々奇行を繰り返す僕を、家族は放任している。きちんと芸術家として、収入を得ているというのもあるだろう!
「さて、今日も探しますか……」
放課後というのは、とてもいい時間だ!僕にとっては生BLを探す時間になるし、生徒たちにとっては、思い思いの行動をする時間になる。
最近のお気に入り、というかそもそもこの世界、前世より同性愛が忌避される。まあ、同姓では子を生すことができないから、当然と言えば当然ではある。だからこそ、彼らは恋人同士ではないのだが、それでも見ていててえてえ。
そのカップリングは、マティアス×アインだ。主×従者、金髪×黒髪。王道こそ至高!
例えば、普段は威風堂々とした主に静かに付き従う騎士。二人きりの時では、甘い時を一緒に過ごす恋人同士……。
妄想が捗る!!
でも、最近はカースティス×ハロルドもいいんじゃないかと思っている。ケンカップルも最高……!
「今日はどこにいるかな~?」
「誰の話かな?」
「ヒッ!!」
恐る恐る振り返ってみると、そこには素晴らしい笑顔を浮かべていらっしゃる、鬼委員長が……。
「な、ななな、なんでここにいるんでしょうか、ハリー先輩!!」
「どっかの馬鹿がずっと委員会室にこないからね、モー君?」
「さ、さて……。その馬鹿は、僕のことでは……」
「でもなんでここにいるんだろうね?今日、取材あるよね?」
「……」
僕は、結局悪魔に勝つことはできないらしい。笑顔なのに、こんなに恐ろしいなんて、絶対おかしい。
「ほら、さっさと委員会活動行くよ!」
「勘弁してくださいよ~!」
どこにそんな力があるのか、文字通り僕を引っ張っていく悪魔に、僕はもう観念することしかできなかった。
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「ハリー先輩!ありがとうございます!先輩は天使です!」
「本当に態度がころころ変わるわね……」
取材対象に会った僕は、一瞬でハリーに尻尾を振った。そんな僕に、ハリーは呆れきっていた。
「なんというか……とても個性的な方ですね」
「素直に変人だと言えばいいぞ」
取材対象の内のお二方は、僕にそんなことを言う。
しかし僕は全く気にならない。なぜなら、彼らは僕のお気に入りのカップリングの二人だったのだ!
「では、そろそろインタビューをさせてくださーい!この変態のことは気にしないでくださいね!」
「分かりました?」
「元からそのつもりだ」
「緊張します……!」
「分かりました~、ヴォンジョン先輩~」
それぞれな返答をする、サティ、ルーデウス、カースティス、マティアス、アインを尻目に、すっかり僕は自分の世界に浸っていた。
「手厳しい……。それでも――」
ハリーが僕の口をふさいだせいで、僕は二の句が継げなかった。
「まず、魔法祭を一年生で優勝した今の気持ちをどうぞ!」
「う、嬉しいです!」
「皆さんのお陰です……!」
「俺ががんばったお陰だよね~」
「フン、当然の結果だな」
「皆さんのお陰ですよ」
「成程、ありがとうございます~」
五人五色の回答を、ササっとメモする。
性格が出るな、と考えながら、こそっとマティアスとアインを観察する。
あ、ばれた。
「優勝の秘訣は何でしょうか~?」
「ぼ、僕はあまり役に立たなかったので……」
「ルー様もすごかったですよ!私、ルー様ほど繊細な魔法操作、できませんし!」
「優しい……」
「俺が勝ったからかな~。ね~、アイン」
「そうですね。団体戦なので、一人で勝てることはできませんし」
「俺がチームメンバーを決めたからだろうな」
「そうだったんですね~。力を合わせてチームを優勝に導いたのですね」
僕はまたもやメモをする。流石に趣味に没頭しすぎて、仕事をおろそかにすると、ハリーに叱られるどころではない。殴られる。
「魔法戦で、苦戦したところはどこでしょうか?」
「僕は……」
「お前と俺は苦戦も何もないだろ」
瞬殺だったからな。
「俺は決勝戦~」
「私もです!」
「僕は、全試合苦戦しました……」
「ふむふむ、参考になります~」
僕はメモ用紙に目を落とした。
「では最後に!魔法戦のハイライトは何でしょうか!?」
「「決勝戦のカーティス様!!」」
「ファドキシード様との対決でしょうか?あの試合は、私も実況に熱が入りました!」
ハリーは、シャルと一緒にひくほど熱が入っていた。まあ、分からんでもないが。
「さすがに照れるね~。俺は、決勝戦のサティかな。まさかあそこまで天気を操れるなんてね~」
あれは、僕は遠い目をした。魔法って、天気まで操れるんダー。
「僕は、一回戦でルーが勝ったところですね。いつも特訓を頑張っていらしたので」
「優しい……」
「ループスとの対決、あれはなかなか綺麗だったぞ」
「綺麗でしたね~。一瞬で視界一杯に氷の華が咲き乱れましたね」
ハリーの言葉に、アイン以外の人物がうんうん、と頷いていた。
「お忙しい中、インタビューを受けていただき、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
僕は、ハリーに倣って声を上げた。
インタビューは、始終和やかな雰囲気で終わった。
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「よし!じゃあ僕はこれで……」
「モー君、たしか君――絵、上手いよね?」
「………………喜んで描かせていただきます」
どうやら趣味の時間はもうちょっとお預けらしい。




