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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified
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金華の次期当主

「ねえ、バラしたでしょ」

「……いきなり寮部屋に忍び込んでなんの話?それに僕、情報を取り扱う身だから、そんなに口軽くないつもりだけど」

いきなり銀のナイフを心臓に突きつけられ、流石の僕も声に怒気が滲む。


多分終夜のことだから、天夜に関しての情報を誰かに話したことを言っているんだろうけど、アインとしての僕が、天夜のことを知っているのはおかしい。

それに、天夜は終夜の半身。いくら終夜が気に入らないとはいえ、勝手に半身について誰かに話すのはマナー違反だ。



「じゃあなんでアイツが……?」

「何が何だか知らないけど、情報が流出してるなら、調べてみる。――だからこれどけて」

「分かった。――本当に何も知らないんだね?」

「知らないよ。それに、終夜はよく僕の蝙蝠を握りつぶすから、終夜の周辺では情報が探れなくて、心底困っているんだけど?」

しつこいくらいに聞いてくる終夜に、若干の苛立ちをにじませつつ、僕は言った。


「なら、いいんだ。――アイツは、天夜のフルネームと、オレの半身が天夜だという事を、知られていた」

「……ん?天夜のフルネーム?天夜は勘当されているから、フルネームも何もない筈だけど」

「え?」

「え?」

僕の一言に、終夜が戸惑いの声を出す。そんな終夜に僕は戸惑う。


「当然終夜が招いた事態だけど、知らなかったの?」

「え?だって……え?」

「翔雲は、天音が金華の血を引いていることを知らない。だから、翔雲から見れば、突然末息子が婚外子を作ったことになる」

「あ」

「嫌がられてもさっさと囲うべきだったの、終夜は。翔雲は、名門天使一族なだけあって、かなりプライドが高い。更に末息子だからか、間髪入れず家から追い出してたよ」

「……」

「それに、終夜は冥夜からよく目の敵にされてたでしょ?噂の広がり方もおかしかったし、あんな都合よくその……」

僕は、あまりその後に続く言葉を言いたくなくて、濁してしまったが、終夜は察したようだ。


「チッ、余計なことしかしないな、あのクソ兄貴は……」

終夜は、忌々しげに舌打ちする。僕も、そんな終夜に内心同意していた。


冥夜とは、金華の長男だ。放蕩を繰り返す次男(終夜)と比べ、()()()で優秀と評判だ。


「終夜はおかしいんだよ。悪魔らしくない」

「そう?」

「そう。普通の悪魔は半身にそこまで固執しない。終夜が悪魔なら、天夜という餌を用意したところで見向きもしないし、そもそも天夜はとっくに勘当されていることを知っている筈」

「俺は?」

自分を指さす終夜に、僕は呆れかえる。


「情報の更新くらいはしてよ。……とにかく、そんなんじゃいつまで経っても天夜を渡すことはできない」

「いい。勝手に貰うから~」

「天音に嫌われるよ?」

「それは困る」

「はあ……。いい?終夜は放蕩してても、廃嫡はされてない。つまり――冥夜にとってはまだ、目の上のたん瘤だってことを弁えて」

「わかってる。けど、家なんか継ぎたくない」

「は?」

僕は思わず殺気を出した。


「そんなにキレないでよ~。俺、金華の当主なんかに似合わないでしょ?」

「……冥夜は、恐らく僕を欲しがっている」

「兄貴なら、やりかねないね」

「昔御影姉上にこっぴどく振られたと聞いたから……」

「大勢の目の前で平手打ち!いや~普段からイラついてたからさ、あの思い切りの良さは痺れたね~」

「だから顔立ちが似ている僕が欲しい」

「気持ち悪!」

思い切り顔をしかめる終夜に、僕はこう告げた。


「そんな気持ち悪い兄が金華の当主の座に座ったら、天夜と共に僕は嫁がなきゃいけないけど、終夜はそれに耐えられる?」

「何で天夜が巻き込まれてんだよ」

「弟の心を折るなら、なんだってするよ。冥夜はそういう悪魔だ」

冥夜にとって、宿敵は終夜だからね。徹底的に敵を排除したいでしょうよ。


「あいつは……?」

「ああ、美夜のこと?もっとない。美夜が金華の当主になるなら、僕は喜んで冥夜に嫁ぐよ」

「そこまでか」

「金華は商人が元になる家。金華の財力は、皇にとってもかなりの恩恵なのに、美夜は馬鹿すぎる。あと悪魔じゃないところも減点かな」

あれじゃあ、金華が没落しちゃう。なら、能力的に申し分ない冥夜の方がずっとましだ。


美夜は、金華の長女で、終夜の姉だ。浪費家で、すぐ詐欺に騙される。更に立ち上げた事業はすべて失敗。商業の差異がある金華からは、想像もできない程の無才さだ。確か、此岸の平民との間の子らしく、見た目もあまりいいとは言えない。


そんな、“残念”という言葉がぴったりの悪魔だ。



「俺がやるしかないのか~」

「天夜は、たぶんお金に困ってそうだし、金華の当主になって、多額の支援をしてあげて欲しい」

「そうだな。――なあ、お前は魔王になりたくないのか?」

話がまとまり、終夜はここから去ろうとする。そんな時、そう聞かれた。


「……僕が魔王に?そんなことをしたら、おじいさまの代からの策が全て台無しになってしまう。それに――」

僕は、何かを言いかけて、やめた。終夜の目は、より鋭くなった。


「……確かに、お前じゃあ無理だろうな」

「僕はいつだって国のために動くからね」

全てを飲み込んだ表情の終夜に、少しずれた回答をする。でも、終夜は察しただろう。



「ほら、もう行って。いつまでもここに居座られるのは迷惑だよ」

「……じゃあねぇ~」

終夜はそう言い残し、姿を消した。夜はまだ、長い。

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