計画の行く末、忍び寄る影
Side Urga
「さてさて、彼の計画は、果たして成功するのでしょうかね?」
「せいこうすルんじゃねえの?」
オレは、父さんの言ったことがよくわからなかった。
「無理じゃない?もし、成功させるならウィキッドの襲撃場所をもっと考えるでしょ」
「確かに、とってもおあつらえ向きの場所がありますからね」
そう言って、父さんと悪魔は賑やかな声がする講堂に目を向ける。どうやら、あそこで戦えば、彼の計画はよりうまく行ったらしい。
それに、元々その予定だったけど、あまりにもウィキッドの人数が少なすぎて、おじゃんになったらしい。
「でもさー、俺たち以上に情報を知って、今後の計画を立てれる集団っていなくない?“絶対零度の司令官”と比べても、持ってる情報の質が違いすぎるし」
建物の屋根に腰を下ろし、背筋を伸ばす悪魔。
「けれど、実際は次々と計画の変更を余儀なくされていますし、もはや私たちの計画の全容を知られていてもおかしくないですね」
「そんなことある?あの“絶対零度の司令官”でさえも欺く計画だよ?」
父さんの言葉に、ありえない、というように両手の平を上向きにして、首を振る。
「事実ですから。――まあ、この計画が最終的にどうであれ、私たちの目的さえ完遂できればそれでいいです。それは、あちらも同じようなので」
「でもさ、俺天夜を盾にされたら逆らえないよ」
父さんの言葉は、どこか冷たい。そんな父さんを茶化す悪魔。
「私はうまみが多い方に乗り換えるだけです。――今は、彼のそばが一番いいんですよ」
「あっそ。――俺は、次々に裏切られそうだから、最後まで裏切らないであげるかな。もう自棄じゃん。子供の自棄。あんまりにも可哀想だからね」
「可哀想、ですか」
悪魔の言葉を、父さんが繰り返す。彼は一体誰なのか。オレにはわからない。けれど、父さんはその人のこと、全く可哀想には思っていなかった。
「運が悪かった?」
「いったいなんのはなしをしてるんダ?」
オレの頭上で会話する二人に、聞いてみる。けれど、その答えは返ってこなかった。
「私は、必然だと思いますけどね」
「レイは冷たいな~。フィフィの方がもっと可愛げあったよ?」
「フィフィ?」
「レイの弟子らしいね、彼。よく揶揄って遊んでたよ」
「……ヌフィストをそう評するのは貴方だけですよ」
悪魔の言葉に、父さんは呆れたようだった。顔に手を当て、やれやれ、といったふうに首を振る。
「そう?あーあ、やっぱ割に合わないよね。ティティそろそろ依頼してくれないかな~?」
「ティティ?」
「カースティス・フォン・マルティン。腹黒そうだよね、彼」
「……」
けらけらと笑う悪魔と、すっかり呆れきっている父さん。それに挟まるオレ。
「貴方が普段何していようと、私には関係ありません。けれど――」
「さすがに子供には手を出さないよ、俺。手を出すなら、大人の方がいいしね」
「――その言葉、信じてますよ」
父さんは、オレの手を取った。
「ウルガは俺のタイプじゃないし、月影は手を出したら一巻の終わりだからね」
「……」
「何?疑ってんの?でもレイじゃ、俺に勝てないよね?」
「……」
不穏な空気に、オレはハラハラする。
「俺って、結構温厚な方なんだよ。レイ、もしあの子を裏切るなら、さっさと裏切ればいい。俺は止めないよ。俺だって、天夜のためにも、自分のためにも、あの子を裏切りたいし。――でも、可哀想なんだよ」
「分かってますよ。そんなことは。長く生きてきて、案内人が可哀想じゃなかったことは、一度もないですから」
「あっそ。――今は、まだ協力関係だ。互いにあの子に力を貸そう。だから、あんたの本心は、まだ言わないでおいてやるよ」
「……」
悪魔は、父さんの心臓の上を軽くたたく。そしてオレに笑って手を振り、去っていった。俺はその背中が見えなくなるまで睨みつけていた。
「とうさん……?」
ずっと黙ってばかりで動かない父さんを、オレは心配で心配で見上げた。
「さあ、帰りましょうか」
「う、うん」
いつの間にか、いつもの父さんに戻って、オレの手を引く。俺はそれに頷いて、屋根から去った。
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Side Shuya
「こんなんが欲しかったの?」
オレは、サツタバを数えながら、暗がりにいる、とある人物に語り掛けた。
「ああ。――不愉快だな」
「消せ、という依頼はさすがに引き受けられないよ?」
依頼主の低く小さい声に、物騒だな~、と思いながら、しっかり釘は刺す。
「いい。それは俺がやることだ。お前は俺に情報を持って来い。報酬は弾む」
「分かった~。ねェ、次はどんな情報が欲しい?好きなあの子のスリーサイズとか?」
「それは自分で調べるからいい。貴様、余計なことはするなよ?」
「コワいな~。本当に命が取られそうだよ~。――でもキミ、オレより弱いよね?」
「……何が言いたい?」
「分かってるクセに~。まァ、キミオモシロいしさ、次の依頼はいくつか負けてあげるよ」
オレは、その場から離れる。もうこれで依頼は達成した。あとは自室に戻るダケだ。
「翔雲天夜」
「どうしたの?依頼?」
「いや、何でもない」
「オレは、自分で欲しいモノは、自分で手に入れる主義だよ。報酬はサツタバ以外はあり得ないからね~」
「分かった。覚えておこう」
その言葉を聞き、オレはすぐさま立ち去った。