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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified
201/205

今宵の相手は……

「アイン~マティアス様ってさ、実際強いの?」

そんな言葉を投げかけたのは、カーティス様だった。僕は、意外な人物からの問いかけに内心驚きながらも、こう答えた。


「分かりません」

「え~?そんなことないでしょ~?」

「マティ様は、気配を消すことと、殺気の強さは群を抜いています。――九星すら凌ぐくらいには」

僕の言葉に、ルーとサティが同時に止まり、沈黙が流れる。


「まっさか~」

明るい声が、その沈黙をぶった切った。カーティス様は、九星の力を信じている。だからこそ、マティ様が九星を凌ぐところがあるという事に、全く信じきれないのだ。


「僕は、気配を察知することに関しては九星の誰よりも優れています。――それでも、僕はマティ様を時々見失います」

「またまた~」

「殺気ですが、僕が浴びたことがないほどでしたね。……気配を消すことも、殺気を出すことも、強いかどうかとは別問題です」

「あ、だからわからない、なんだ!」

ルーが、納得した、という風に言ったが、カーティス様は怪しげに笑いながら、言葉をつづけた。



「それでも、なんとなくは分かるでしょ?今まで二年間一緒だった訳だし」

「その二年間の間、僕はマティ様に稽古以外で剣を取らせるような真似はしていませんよ。それに、なおさら不思議なんですよ」

「不思議?」

カーティス様は首をかしげた。それにつられでもしたのか、ルーもサティも同じく首をかしげる。


「セオドアの王族は、幼い頃に戦場に立たなければならない、という掟もないでしょう?」

「なにそれ?戦闘民族でもあるまいし。――もしかして、場数を踏んでいない筈なのに、っていうこと?」

「そういうことです」

「どうしても殺したい相手がいるんじゃないの?」

「それが全く心当たりがない上に、一般人の殺気に僕が怯むこともありません」

「怯んだんだ」

「……」

「まあ、確かに不思議だね。そこまでなら、それなりの技術が必要だと思うけど、俺だってそんなの聞いたことないし」

「なので、僕はマティ様の実力について、あまり知らないのです」

僕は、身のこなしから、同年代よりは腕が立つかもしれないけどその程度だ、という推測をしている。

あまりにも自信たっぷりなもんだから、かなり信頼を置いてしまったが、恐らくカーティス様と同程度ではなかろうか。


僕は、だからこそ試合は一方的に、一瞬で決着がつくと思っていた。

だって、マティ様が殺気を出せば一発なのだからだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うわあ……えげつなかったね……」

「あんな数の魔法、見たことなかったです」

「すごいです……!」

「……」

僕は、思わず黙ってしまった。なぜなら、あんな魔法を展開できる程、マティ様の魔力は多くなかった筈だからだ。


つまりは、精霊に手伝ってもらっている、という事になりうる訳で。



でも、精霊に手伝ってもらうには、精霊の存在を信じる必要がある。ちょっとだけなら、精霊が気まぐれで助けてくれる、という事もあるだろう。

けれど、あれだけの量ともなると、マティ様が精霊を見ることができる、という事も考える必要がある。



まあ、可能性は限りなくゼロに近いだろうが。上級精霊ならまだしも、中級精霊や、ましては下級精霊たちは、嘘を吐く知能はない。

そして僕はマティ様が精霊を見えるという事を、今まで精霊たちから聞いたことがなかった。



つまりは、マティ様は精霊を見ることができない、という事になる。

流石に、たまに鬱陶しいと思う下級精霊を無視するのは現実的ではない。普通なら、紅茶に入っている下級精霊を飲まないようにするだろう。

筆入れの中に入っていた精霊たちが勢いよく飛び出したら、何かしらの反応をするだろう。


それなのに、眉一つ動かさなかった。つまり、見えていないのだ。



下級精霊や中級精霊は、好奇心が強く、しょっちゅう誰にでもいたずらを仕掛けている。だからこそ、精霊が見えているのなら、精霊たちが勘づかない訳がないのだ。



――でも、それほど影響はないかな。



マティ様が強かったとして、それは果たして九星と並ぶだろうか?

少なくとも、混血の彼岸にすら及ばない程度だろう。九星は混血の彼岸なら普通に圧倒できる。



僕は、予想外に強かったマティ様に動揺していた心を何とか落ち着けていた。

そんな僕を、四つの瞳が見つめていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「わあ、格好いいです!ジェシカ様もお美しいです!」

僕たちの姿を認めたサティが、そう言う。なんだか、サティの頬が赤い気がする。



ここは魔法祭の後に行われるダンスパーティーだ。周りには、着飾った学園の生徒しかいない。元々学園の行事なため、生徒と教師以外は参加しないのだ。



だからこそ、僕たちは、礼服を着ている。


マティ様は、ジェシカ様とお揃いの礼服に身を包んでいる。黒い上着に暗い灰のシャツ。ジェシカ様の瞳と同じ色のアスコットタイだ。

対するジェシカ様は、黒い上品なドレス。マティ様の瞳の色があしらわれており、それはマティ様の体と含め、互いが婚約者であることを示している。更に、ジェシカ様は肘上までの黒いレースの手袋を身に着けている。


僕は瞳と同じ色の上着に同じ色のベスト。白のシャツに紅いネクタイ。金の台座に美しい青の宝石があしらわれたカフスボタン。

更に白い手袋をはめている。



「アインは普段とは違うな」

ハロルド様は僕を上から下まで眺めてそう言う。

普段は、僕は護衛としてパーティーに参加しているから、礼服を着ているのが物珍しいのだろう。


「僕も主役の一員なので、着飾っています。――ハロルド様も、似合っていますよ」

「お前に言われたくない」

「どうしてですか?」

ハロルド様が、苦虫を噛み潰したような表情をした。


「それはね~?アインがあまりにも決まっているからだよ~?」

「そうですか……?あまりこういうものを着ないので、変でなくてよかったです」

「嫌味か……?」

ラファエルの地の這うような声に、カーティス様が爆笑していた。



「お前に俺と共に踊る栄誉を与えてやる」

「ふふ、光栄ですわ」

曲が流れ、マティ様がジェシカ様をダンスに誘う。


国一番高貴な婚約者が踊る。とても優雅なステップに、周りの生徒は魅入っているようだ。


「わあ……本物のお姫様みたい……」

「みたいではなくて、本物のお姫様ですよ、ジェシカ様は」

「あ、そうか」

何かを思い出したようにサティが手をつく。

多分、サティはお姫様=王女と勘違いしたんだろうな。


「踊りますか?」

周囲がマティ様たちに見惚れる中、僕は、サティに手を差し出す。


「え!?ででで、でも私は一回も踊ったことないし……!!」

何故か顔を赤くし、どもりまくっているサティ。平民同士なら楽だと思ったのだが、どうしたのだろうか。


「大丈夫ですよ。僕に身を任せてください」

「え、そ、それじゃあ……」

「では改めて。――私に共に踊る栄誉をお与えください、お姫様」

「ええ!!??」

サティの顔がさらに真っ赤になる。僕はじっと待っていると、サティはおずおず、という風に僕の手に手をのせた。


「ひゅー、やるねえ」

カーティス様はそんな僕たちを茶化すように口笛を吹く。しかし、サティは全く聞こえていないようだった。



僕は、サティの背に手を回し、手を握る。

新しい曲が始まり、僕たちも動き出した。


サティは物凄く緊張していて、かなりがちがちだった。僕はそんなサティに苦笑した。


「そこまで緊張しないでください。――足を踏んでもいいですよ」

「え、あ、うぅ……」

言葉になっていない声を出すサティに、僕はまた苦笑した。


かなりたどたどしかっただろう。サティに合わせて難易度を落としていたため、あまり見られたものでもなかったかもしれない。

それでも、サティは楽しそうだった。僕は、そんなサティが楽しく踊れるようにリードをする。


「た、楽しい……」

「よかったです」

僕はしれっと難易度を上げてみたが、難なくついてきた。


そして、曲が終わる。


「あ、ありがとう、アイン!」

「さすがでしたよ、サティ」

「そうだよ!初めてだと思えなかった!」

「でも私、何度かアインの足を踏んじゃったし……」

サティが落ち込んだような顔をしたが、ルーの初めてのダンスの方が酷かった。僕は女性パートもできるから相手を務めたが、ほとんど僕の足の上にルーの足が乗った状態だった。


「でも、大丈夫?」

「なにがですか?」

カーティス様がおもしろいものを見るかのように僕の顔をのぞき込む。

僕は、カーティス様の言いたいことがよくわからなかった。


「……前途多難だな」

ハロルド様が呆れたように溜息を吐いていた。

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