実力不詳の王太子殿下
Side Silkiair
『さて、残すところ、魔法戦最後の戦いになりました!シャル君、モー君、これは驚きでしたね~』
『そうですね。この時点で、4-Eの単独優勝はなくなりましたね』
『まさかあの4年生に1年生がここまで善戦するとは思いませんでしたね!』
放送部の言葉に、私は自分の相手を考えて、更に付け足す。
もう、4-Eの優勝はあり得ない、と。
マティアス・ドゥ・セオドア王太子殿下。とても強力な吸血鬼の護衛がいるからか、あまり武の才能に関してはなにも話を聞かない。
けど、確実に殿下は強い。それは、あの日、襲撃が起きた時のことだ。
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カーディールも行っちゃったし、それに襲撃者も気になるし。この学園で、私たちは確実に強者に入る。
戦っているのは一年生たちと保護者達。
私たちが何とかすべきだと思う。
その思いと共に、私は気配を消して、ステージに戻る。
こっそり物陰からうかがう。ここなら、位置も高いから全てが見通せる。
「まさか、たかが100年も生きていない人間に、ここまで追い込まれるとはね――!」
「……朧」
「あはは、その攻撃はもう見切ったわ……!」
王太子殿下の護衛の青年――アインと緑髪の女の侵入者。
フッと気配が消えたかと思うと、女が変な方向に攻撃する。
「死になさい、一陣――!」
「――!!」
「え?」
思わず声が出る。なぜなら、その攻撃の先からアインが出てきて、右腕がぼとりと落ちた。
それは、勝敗が決したも同じだった。
欠損を治すには、かなりの魔法の腕が必要だ。それも、息をするように上級魔法を多重展開する程の。
そんなの、国一番の魔術師でもできるかどうか。いつか、“不死の聖女”の噂を聞いたことがあるけど、それは確実に嘘。そんな人が本当にいるなら、もっと有名になってるし。
私は、アインの助太刀に向かおうと思った。しかし、それは敵わなかった。なぜなら、腕を掴まれ、阻止されたからだ。
「やめろ。貴様があそこに行ったところで、死ぬ以外何もできない」
「そんなことは――!!」
その声に振り返り、怒りをぶつけようとしたら、あまりに予想外の人物がいて言葉が止まる。
「あいつは、吸血鬼だ。――腕が吹き飛んだくらいで、痛くもかゆくもないだろうな」
「え……?」
「さらに、あの場には人間がいない。人間より強力な力を持つ者たちが、あれだけ手古摺っているんだ、たかが人間でしかない貴様が言ったところで、無駄死にするだけだ」
そんな王太子殿下の言葉とともに、アインが腕を再生させた。笑いながら血を大量に流していた所から見ても、確かに人間ではない。
「あいつは……あとで仕置きだな」
頭が痛い、という風に言う殿下は、じっとアインの戦いを見つめていた。
そんな殿下を見て、私はハッとした。そもそも、気配がしなかった。腕を掴まれるまで、私はずっと殿下がいたことに気が付かなかったのだ。
アインも、稀にこちらを見たように感じたが、それでも殿下の方を見たことはない。なんとなく私の存在を勘づいているのだろうが、殿下のことに関しては、全く気が付いていないようだ。
アインの方は、赤い霧が広がっていた。赤い濃い霧に、アインと緑髪の女が呑み込まれ、見えなくなる。
一切中が見えない。気配を感じ取れないため、何をやっているのか何もわからない。
しかし、殿下は中で何をやっているのかわかったのだろう。あの霧が晴れる前、殿下の顔が曇った。
横目で殿下の顔色を窺っていた私は、そのことに不思議に思っていると、霧が晴れた。そこで広がる光景に、私は納得するとともに、顔を青ざめた。
「あはは!私に逆らうからよ!」
緑髪の女は、蹲って倒れたアインに対し、高らかに笑った。
「さて、そろそろここからいなくなってくれるか?もう既に――彼我の実力差を感じ取れただろう?」
「……わかった」
私は、素直に頷いた。大ピンチの後輩を助けたかった。けれど、恐らく私がいては、助けたくとも助けれないのだろう。
私が気が付かなかった隠密力。なら、私が出しゃばるより、殿下が助けた方がいいのだろう。
私は静かにその場から去った。そのあと、カーディールと合流した。
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「さて、俺の勝利は変わらないが……楽しもうか」
「……勝つのは、私」
私は、使い慣れた二つの逆刃鎌を、逆手に持つ。
殿下は、どこにでもあるような、普通の剣だ。
「用意――始め」
私は、その言葉と共に、足を踏み出す。足に力を籠め、力強く踏み出す。
手を前でクロスさせ、それを薙いで攻撃する。
「――!」
しかし、いつの間にか目の前には誰もいない。
「俺はここだぞ?」
「!!」
背後から聞こえた声に振り返ると、そこには余裕な笑みを浮かべた殿下がいた。
私は、すぐに殿下に攻撃した。しかし、それも全て当たらない。
「風属性初級魔法、ウィンドウアロー」
私は、攻撃に魔法を取り入れてみたものの、そもそも私は魔法が得意ではない。それでも、ウォレンに教えて貰って、集中すれば中級魔法まで使えるようになった。
けれど、当然実践では使えない。前は魔法を実践で使えないレベルだったから、かなりマシではある。
「たったこの程度か?」
殿下は、私の魔法を斬った。
「ま、魔法を……!」
「さて、止めだ」
殿下が指を鳴らす。すると、周りにおびただしい数の魔法。前に見たカーディールとウォレンの戦いのときに浮かんでいた魔法の比ではない。
隙間なく埋められた白と黒。それら一つ一つが、それなりの魔力を持ち合わせている。
「こんな数……。人間じゃない」
「さあな?俺はまぎれもなく人間だぞ?」
殿下は、私を余裕たっぷりに笑いながら、不思議そうに首をかしげる。
「さて、審判。どちらが勝ちだと思う?」
「し、勝者、マティアス・ドゥ・セオドア王太子殿下」
その言葉と共に、優勝が決まった。




