晴れの魔術師と雨の魔術師
Side Sattie
『さて!次は副将戦!魔法戦三連覇中の4-Eにここまで渡り合えるとは、予想外です!』
『1勝ち1負け1引き分けの同点ですからね。先ほどの戦闘は、とても激しい戦いでしたね』
『かなり熱い試合展開でした!力強さが売りのファドキシード選手と、素早さが売りのマルティン選手。どちらも一歩も引かず、激しい攻防を繰り返していましたね!ファドキシード選手とマルティン選手はどちらも学園生から逸脱している実力ですね』
放送の会話が右耳から入り、そのまま左耳から出ていく。
緊張しすぎて、まともに動けない。右足と右手を同時に前に出してしまう。観客がどっと沸くが、私には全く聞こえなかった。
「……」
私は、短剣を構えた。それで、緊張が薄れ、目の前の戦いに集中する準備ができた。
「用意――始め」
その言葉と共に、私は短剣を空に突き上げた。
「火属性光属性融合上級魔法、サンライズ!」
疑似太陽が空に上がり、あたりを暑く照らす。体の奥底から力が沸き上がってくる。そんな感覚を覚えた。
「……水属性上級魔法、驟雨」
相手――ウジェター先輩は、そんな私の魔法に対抗するように水属性魔法のバフ魔法を使う。
私の上には太陽、ウジェター先輩の上には黒い雨雲。
晴れと雨が共存する幻想的な空。晴れの方の空には虹がかかり、そんな天気に観客は興奮していた。
「どっちのバフ魔法が強いか、比べましょう!」
「……ああ」
私は、太陽を背負ってウジェター先輩に接近する。
「光属性初級魔法、ライトニング!」
「水属性中級魔法、フロスト」
手の平から出てきた光が、雷のように相手を攻撃する。それを、ウジェター先輩は鏡のような氷を作り出し、跳ね返す。
私は、それを気にも留めずに、強化された身体能力にものを言わせて背後に回り込む。
私は、ウジェター先輩の背後から短剣を突き出す。
ちなみに、魔法戦中の怪我は、かなりひどいものでなければ試合後に治してもらえる。だから、容赦なく急所は外してやってしまえ、とマティアス様に言われていた。
「!!」
「け、結界……!」
私の動きを目で追い切れなかったのだろう。結界が作動した気配に驚くウジェター先輩に不意を突いた攻撃を防がれたことに驚く私。
私は、一旦距離を取ることにし、聖属性初級魔法、ホーリーアローをいくつか撃ち、それにウジェター先輩が対処しているうちに撤退に成功した。
「火属性聖属性融合初級魔法、トーチアロー」
私は、火属性初級魔法のファイヤーアローと聖属性初級魔法のホーリーアローを融合した。
火属性魔法は、火力が強いことが特徴だ。だが、水属性にかなり弱い。
聖属性魔法は、火力が弱いが、弱点である魔属性の影響は、そこまで大きくない。融合魔法が存在する理由は、そんな短所を補い合ったり、長所を伸ばしたりするためだ。
「ウォーターアロー」
ウジェター先輩は私の魔法に対抗するために魔法を放つ。しかし、私の魔法はウォーターアローを打ち破り、そのままウジェター先輩に向かっている。
「ア、アイスウォール!!」
ウジェター先輩は慌てて中級魔法を放った。
私の融合魔法は、二つの魔法を融合して一つの魔法にしている。だから、単純計算で威力は二倍なのだ。
属性と魔法の難易度か、魔力への命令を詠唱してから魔法を放つと威力が上がり、難しい魔法が成功しやすくなる。
余裕綽々で油断したそのツケだ。
「はあっ!!」
「アイスウォール!」
私の短剣の攻撃を魔法で防ぐ。私は反対側から無詠唱で光属性魔法を放つ。
私の攻撃はアインやカーティス様と比べてつたなかっただろう。ただ短剣を突きつけたり、振り下ろすだけ。剣術で魔法のような力を使うアインや、フェイントを混ぜながら剣で戦っていたカーティス様には劣る。
「え、ちょ……」
でも、私は強力なバフを盛っている状態だ。だから、押して押して押しまくる!!!
ウジェター先輩が戸惑っていることを尻目に、私は四方八方から攻撃する。
ちょこまかと動きまくる私にじれてきたのか、ウジェター先輩が一気に勝負に出た。
「これで終わりだ!我が敵を串刺しにせよ、水属性上級魔法、ウォーターランス!!」
「異能力、融合!」
私は、ずっと自分の魔法に対してしか使っていなかった異能力を使った。
私は驟雨と共に、ウォーターランスの制御を聖属性中級魔法の祝福を融合することによって制御を奪った。
「な……な……な……!」
もはや何も言えないらしかった。
「水属性聖属性融合上級魔法、奔流」
二つの上級魔法から生み出された水の流れは、ウジェター先輩を巻き込みステージを一気に水浸しにする。
ウジェター先輩は、水の流れに飲まれ、完全に気絶してしまっていた。
空の半分を覆っていた分厚い雨雲がなくなり、カラッと晴れた。私はその眩しさに目をすぼめ、手で影を作った。
空には、試合開始した時にできていた虹より、大きな虹ができていた。疑似太陽は、私の勝利をたたえるように輝いている。
「勝者、サティ!」
私は、天幕に戻り、狂喜乱舞した。ルーとアインが落ち着いて、と私をなだめていたが、私は二人を巻き込んで一緒に踊った。
いつの間にか保健室に運ばれていたカーティス様が戻ってきており、私たちに加わって一緒に踊った。マティアス様は、そんな私たちを静かに笑って見守っていた。




