チャラ男の本気
Side Kirstis
「相手は――確かにふくよかだね~」
アインの柔らかい言い方を真似てみる。あの子、孤児の筈なのに育ちいいよね?
そう思いながら目の前の対戦相手を観察する。大きい体格に見合ったハルバード。相性が悪そうだ。
「む?吾輩のことを、知っているのでありますか?」
「情報は戦いにおいて命ですからね~。事前にそういうことに長けた子に、自分の対戦相手について、聞いてきたんですよ~」
「そうでありますか。吾輩もシキ殿に聞いておけばよかったであります」
「聞かなかったの?ずいぶんと余裕綽々ですね~。――ここで一本取って、王手をかけるとしますか!」
俺は、気を引き締める。確かにアインの言う通り、魔力量が多い。カーディールに次いで強いというのは、あながち間違いではないのかもしれない。
「用意――始め!」
俺は、速攻で相手を倒すことにした。流石に、魔力にものを言わせてごり押しされてはたまらない。
風属性魔法を身にまとい、空を飛ぶ。音速で相手に接近し、首筋に刃を突きつける。
「あれ?終わっちゃったね?」
「どこを見ているのでありますか、マルティン殿?」
「げ」
全然別のところから、相手の声が聞こえたと思うと、俺が刃を突きつけていたファドキシード先輩が立ち消え、代わりに別のところから現れる。
「へえ、確かに、困難で終わる訳ないですよね~!」
俺は、風属性中級魔法、エアバレットを撃ちこむ。しかし、それを魔法で防がれてしまうが、想定内だ。
「さすがに可哀想でしょ?大将が一度も出ずに終わるなんて」
「しかしそれは、強者であるという証拠であります。そして、この決勝戦においては、吾輩たちが強者だっただけであります。そう落ち込む必要はないであります」
「落ち込む?俺はマティアス様に楽させたいだけだから、俺が勝って、サティが勝つと、マティアス様が楽できるっしょ?だから――先輩には負けて欲しいんだよね~?」
「なら、吾輩は貴殿を負かし、そしてサティ殿も負かせて殿下を楽させて差し上げるであります!」
俺は、危機を察知し、すぐさまファドキシード先輩から離れる。
ドゴっ!という鈍い音が聞こえ、さっきまで俺がいたところが地面にへこんでいる。うわあ……と引きながら、あそこに自分がいたらどうなっていたのだろう、と想像してしまう。
意識は確実に飛ぶだろうな、という経験上から算出された結果に、俺は回避に集中することにした。
ファドキシード先輩の十八番は水属性魔法の質量攻撃。手足のように水を動かすオリジナル魔法を作り出す才能と、それを可能にする魔力量。モンパトーレ先輩がファドキシード先輩に負けた理由は、その自由自在な攻撃に捕まり、その重鈍な体格から繰り出される攻撃に倒れたらしい。
――これ、近づくのは危険だね~。
俺は魔法で相手取ることにした。
「風属性中級魔法、エアバースト」
「フン!」
水属性魔法を纏ったハルバードを振り下ろし、俺に魔法を消滅させる。
これは、一つの強力な魔法を撃つよりも、多くの魔法を撃って地道に削った方がいいか。
「風属性初級魔法、ウィンドウアロー!」
俺は、ループス先輩がして見せたように、初級魔法を張り巡らせる。初級魔法はほとんど魔力を消費しないから、量を展開できるが、コントロールが難しい。簡単にやってのける方がおかしいのだ。
そもそも、魔法を使えない人間が多いのに、更に上級魔法を使える人間は減る。上級魔法を展開するのと初級魔法を二十個展開するのは別ベクトルの難しさではあるものの、同じくらい難しいらしい。
魔法は、思った以上に難しい。初級魔法一つ使えるだけでも担ぎ上げられるのだ。
俺は、周囲に初級魔法を展開できるだけ展開する。ループス先輩はその中に中級魔法や上級魔法を潜ませてたから、あの人の魔法の才能がどれだけとんでもないことか。
「吾輩には、効かないであります!」
「いーや、効くね」
俺は、にっこり笑う。ファドキシード先輩は風属性魔法について、あまり詳しくないようだ。
「風属性初級魔法、雷」
「!!」
大雑把に防いだらしいが、その魔法は一つ受けるだけでも影響が出る。
結局初級魔法だから、そこまでダメージは出ない。でも、雷だから当たると当然麻痺する。それが重大な隙に繋がる!
「風属性中級魔法、エアバレット!!」
「ぐッ!!」
俺は、そんな隙に魔法を食らわせる。
決勝戦が別日になって、本当によかった。こんな魔力の大盤振る舞いなんて、できなかっただろうしね~!
「水属性魔法上級魔法、ブリザード!」
「マジ?」
俺は、こっそりファドキシード先輩の背後に回っていた。風属性魔法で空中を走っていたため、急に来た水属性魔法による強風に吹きとばされる。
受け身を取り、すぐに転がりその勢いで起き上がる。氷がすぐさま飛んできた。俺はそれを魔法と剣で何とか弾き飛ばす。
いくつか氷の礫が当たる。代わりに魔法で攻撃したら、そのうちのいくつかがファドキシード先輩にあたった。
完全な泥仕合だが、激しい魔法の応酬に、観客たちは興奮しているようだ。集中している分、実況の声も全く聞こえていなかったが、彼らには派手に見えるらしい。
今は、互いに互いの魔力が切れるのを待っているだけなのに。
「風属性中級魔法、ウィンドウランス!」
「水属性中級魔法、水操作!」
風でできた槍が、自由自在に動く水に防がれる。
魔力をあまり使いたくないのに、攻撃するのにも防御するのにも魔力を使う。それは、相手も同じだった。
俺たちは、同時に魔力が切れた。
互いに顔を見合わせ、笑う。ハルバードを剣で逸らす。金属と金属がぶつかり合い、火花が散る。ハルバードが地面に沈み、その隙に攻撃するが、ハルバードの柄で防がれてしまう。押しやられて体制を崩している間にハルバードを持ち直し、先輩は俺に向かってハルバードを振り下ろす。俺は、そこから飛びのく。そして、間合いが開き、振出しに戻った。
攻撃を避けたり逸らしたりしているが、また決め手に欠ける。
そんな応酬が続き、体力が尽きてきた。
互いに負ける訳にはいかない。そんな意地が、互いを頑なにさせる。
――多分、次が最後だ。
俺は、さっきの応酬で回復したなけなしの魔力を振り絞り、それを移動に使う。それを大きなハルバードで受ける構えを取るファドキシード先輩。
俺は、ファドキシード先輩に雷を撃ち込み、そして勢いのまま突っ込む。
そのままつばぜり合いをし、先輩はオレを力任せに振り切る。
俺は、また攻撃を加えようとして、もう足が動かないことに気が付いた。
もう既に、体力の限界を迎えていたようだ。
俺の意識は、そのままブラックアウトした。
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Side Ain
白熱した試合展開。
僕の予想では、カーティス様は粘るがこんなにかかる前に負けると思っていた。
カーティス様は、僕と戦闘スタイルが似通っている。だから、重量がある相手にめっぽう弱いのだ。だから、こんな展開になるとは、完全に予想外だった。
カーティス様とファドキシード様が同時に倒れる。
「引き分け!!」
審判が、そう宣言する。
「ほう。流石カーティスだな」
「わあ、すごいです!カーティス様、4年生に対してあんなに善戦してましたよ!」
「わ、私にできるかな……」
「安心しろ。俺は負けないからな」
「ここここ心強いですすすすす……!」
「駄目になっちゃいましたね」
サティが壊れた魔道具みたいになっちゃった。
次、サティの出番だけど大丈夫かな?