氷の華
今日は、延期された魔法戦決勝戦と、パーティーが行われる。襲撃者の件もあり、外部入場者は誰もいないが、待ちに待った決勝戦に、生徒たちが盛り上がっており、魔法祭当日とあまり変わらない歓声が響いていた。
『さて、ついに来た魔法戦決勝戦!!3年連覇の王者、4-E!それに対し、1年目ながらに快進撃を続ける1-A!さて、どっちが勝つのでしょうか、シャル君!、モー君!』
『私は4-Eが勝つと思います。1-Aは先鋒のアイン選手が最も厄介ですが、その他の選手が果たして4-Eに勝てるかどうかですね。ただ、一回も試合に出ていないマティアス殿下が未知数です。殿下こそが1-Aが勝てるかもしれない道ですが、その間にアイン選手以外の選手で一勝しなければなりません』
『僕も4-Eが勝つと思います。ただ、1-Aにも勝ってほしいですね』
『ほうほう、なるほどなるほど。確かに4-Eは今までの3年間の経験がありますからね。しかし、彼らも初めての魔法戦で優勝しています。果たして1-Aはそんな彼らの再来になれるのでしょうか!?はたまた、王者の前に、誰も勝てないのだろうか!?』
『魔法戦決勝戦は、私、シャーロット・フォン・ファンパッションと』
『僕、モーリス・ヴァン・フォン・シルクリーンと』
『私、ハリエット・ディ・ヴォンジョンがお送りしまーす!!』
「だってよ」
「さあ。僕は貴方を下し、1-Aに勝利を捧げます」
「おお、流石実力で仕事を勝ち取ったと噂が立つだけはあるぜ。――だが、俺に勝てると思うなよ?」
「貴方こそ。――僕に勝てる存在なんて、九星以外誰もいません」
「とんだ自信だな。――それを折ってやるよ!!」
歯を出して、笑顔でそう叫ぶ。
「用意――始め」
審判が、無情にそう言い渡し、僕とループス様は先程のトラッシュトークとは裏腹に、じっと隙を伺っていた。
魔力が周りで渦巻いている。下手に足を踏み出したら、その魔法が一気に僕に襲い掛かってくるだろう。
見事な土魔法。僕は、そんなループス様の魔法をこっそり盗ませてもらうことにした。
『全く動きませんねー』
『お互い、隙を伺っているのでしょうか?』
「――」
僕は、一瞬できたループス様の隙を狙い、一気に肉薄する。ループス様はそんな僕に驚き、慌てて魔法を展開する。
目の前に迫りあがった土壁を切り刻むが、その隙に展開された土魔法が、背後から一気に僕を襲う。
逃げ場もないほどに展開された石礫。
『おお!目にもとまらぬ速さ!これにループス選手はどうする!?』
『十八番の土属性魔法ですね。――数えきれない石礫にアイン選手、大ピンチです!』
『アイン選手も何か策があるのでしょう。それに、あの不思議な魔法もまだ使っていませんし、まだまだ油断はできなさそうですね』
普通の人ではここで終わりだろう。最初は剣や魔法で弾き返せるだろう。しかし、それが数百、数千ともなると話が変わる。
途中で体力不足なり、魔力不足で、防ぐことができることができなくなり、石礫の集中攻撃で終わる。
しかし、そんな生ぬるい攻撃、九星にとってはデコピンほどにもならない。
「――雪月花」
全ての石礫が凍り、華が咲く。
今までのラファエル以外の試合もこの技を使っていた。
この攻撃は、とても強力すぎて相手を殺しかねなかったのだ。しかし、この技以外は怪我をさせずに拘束させるように使える技はなかった。
これを、ウィンディーネに相談したら、色々と威力を調節するコツを教えて貰った。当然対価は渡したが。
そのおかげで、この魔法祭でこの愛刀を使うことができた、という訳だ。
『わあ、いきなり石礫が氷の華になりました!』
『これは、選手を氷漬けにした魔法なのでしょうか。こんなに一気に展開ができるものなんですね』
『一気に幻想的な風景になりましたね。――ただ、まさかループス選手の魔法を凍らせるとは……』
魔法を凍らせる。これは、魔術の腕が格下の相手でないとできない技だ。つまり、どうひっくり返ってもループス様の魔法は僕に届かない。
それに、ループス様は僕の動きを、何とか目で追えるくらいだった。それに僕はさっきが全力ではない。それは、なんとなくループス様も察しているのだろう。
「とんでもねえな……」
「これで終わりですか?」
「ああ。今まで氷魔法を使われたことはあったが、魔法を凍り付かされたのは初めてだ。それに、たぶん俺の動体視力を超えて動くことができるんだろ?」
「むしろ余裕ですね」
「お前が九星と同じくらい強いっていう戯言、少しは信じてやるよ」
そう言って、ループス様は両手を上げた。
「勝者、アイン!」
そんな審判の宣言に、観客が一気に湧く。僕がそれにびっくりしていると、ループス様がおかしそうに笑った。
「アイン!すごくきれいだった!」
「ぼ、僕もできるかな……」
「あれは一応魔法ではありませんから……」
「「あんなに魔法っぽいのに?!」」
「一応剣術なんですよ。――ただ、魔力は使っていますよ。結構ごっそり持っていかれるので、魔力が少ないときついかもしれません」
「それを涼しい顔で連発するアインとは」
「うう……。いいな……。僕もかっこいい魔法とか使いたい……」
真顔で考え込んでしまったサティと、両膝と両手を地面につけ、うなだれるルー。僕はそんな二人に挟まれて、オロオロすることしかできなかった。
「少なくとも、アインは吸血鬼なんだから、そこまで考えこんだり落ち込まなければいいのに」
カーティス様の一言に、サティとルーが救われたような表情をした。……そんなに僕は吸血鬼らしくないのだろうか。
少なくとも、変な小説が巷に流れているせいだと思う。
そんなやり取りを僕たちがしている中、マティ様は後ろで静かに笑っていた。




