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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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閑話:“全色の魔術姫”の初陣

Side Miria


私が、初めて人を殺したのは、10歳の時だった。


今でも覚えている。自分の魔法が、人を殺す、あの感覚を。

全てに絶望するあの感覚。それを見下ろす、冷たい瞳。



だから、私はあの男――皇月影を憎んでいるのだ。皇月影は――私に人を殺させた張本人なのだ。私を、私たちを、戦争兵器に仕立て上げた、あの氷よりも冷たい男だ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side 03


ウラティナの戦い。この戦いは、九星が出陣する三つ目の戦争であり、私の初陣の舞台だ。



「もう一度説明する。九星では初めての攻撃部隊だ。暗殺者も狙撃手も一応攻撃部隊ではあるが、やっぱり魔法の方が分かりやすく圧倒できるからな。だから、間違えるなよ?」

「分かってるわよ」

「生意気な……!」

豚みたいな男は、血管を浮かび上がらせながら怒る。私は、それを冷たく見ていた。



なんで、戦争なんかするんだか。人なんか、殺したくない。


「なら、最初に何をすればいいのか、分かる?」

とても美しい男が、鋭い表情で私に問う。


「……光属性、闇属性以外の上級魔法を敵に撃つ」

柔らかい声の筈なのに、冷たい。そんな声に、私はすらすらと答える。


「違う。――生意気に振舞いたいなら、自分の役割ぐらい、きちんと理解してこなして」

「あってるでしょ!?」

無能が、とでも言いたげなその男に、私は声を荒らげる。


「おい!この方にそんな態度を取るなよ……!」

「いい。――君がやるべきことは、味方の兵士が敵方の兵士に追い詰められ、じりじりと撤退する。敵はこの戦いを取った、と勘違いするだろう。その瞬間に、魔法を叩きこむんだ。まるで、味方の危機(ピンチ)に駆けつける、英雄(ヒーロー)のように。あと、こいつ」

「え?」

急に似顔絵を見せられた。その中の男は、どこにでもいそうな、平凡な男だった。


「敵の捕虜の目の前で、殺せ。敵国の間諜(かんちょう)だ」

「何でわざわざ泳がせていたの?私、スパイを見つけることはできないわよ」

「いつでも九星は見ている。それは01が見つけたとすればいい」

険しい顔のまま、男――皇月影は冷たくそう言った。



じっと私が月影を睨んでいると、天幕の外から、兵士たちの(とき)の声が聞こえる。ああ、戦争が、始まった。



「しっかりやって。――少なくとも、二、三個は魔法を撃ってもらうよ。光と闇以外の属性の魔法を一つずつ」

「……なんで人を殺さないといけないの」

「じゃあ今すぐツァオバークンスト家に戻る?九星に役立たずはいらない」

「……」

月影はずい、と私に美しい(かんばせ)を近づけ、瞳孔が開いた瞳で私に呪詛を吐くように言う。私は、黙るしかなかった。



ツァオバークンスト家とは、私の実家だ。魔法狂いの一族。代々魔導士団長を輩出している名門一族だ。

その中で、私は落ちこぼれだった。


それでも侯爵位。全く魔法の才がない訳でもなかったから、放置されていても、そこそこいい暮らしができた。



なんで私だったのかわからない。国一番の魔導士だった父の再来と言われる長兄や、独自に魔法の開発をしている長姉ではなく、特に目立った才能がない三女の私。

軍はそんな私を欲した。家は、役立たずの娘が役に立つと思い、すぐに私を軍に売った。



ずっと恨んでいた。私を軍に売った実家を。血を吐き、泥を舐めるような生活を送っても、あいつらは豪華な服を身にまとい、豪華な食事で腹を満たす。


軍も軍だ。横暴で、人でなし。せっかく友達になれたと思った13も死んだ。



それに、今度は私に人殺しをさせようとする。



「人を殺すのが怖いの?」

「あ、当たり前でしょ!人を殺すなんて!そんなの嫌に決まってる!!」

「でも殺してくれないと困るんだよ。――ねえ、僕が今すぐ味方諸共魔法で全て吹き飛ばす。それを君がやったことにする。もしくは、作戦通り、君が魔法を撃って、敵兵だけを一掃する。どっちがいい?」

「……は?」

「ほら。早く選んで。十秒以内に。――君の選択が、味方を殺すんだよ」

「……」

私は、目の前の悪魔のような男を睨む。


「十、九、八――」

形の整った唇が、カウントダウンを始める。



――どうする?私は、どうすればいい?



「七、六、五――」



――私が、この手で人を、殺す?そ、そんなの絶対嫌!



「四、三、二――」



――でも、私が殺さないと、味方も死ぬ。私が殺さないと……。死ななくていい人たちまで、死んじゃう!!



「一」

「わ、私がするから!だから……。だから、味方まで、殺さないで……」

「その言葉、反故にしたら神話級魔法を撃つから。――もしかしたら、僕と君以外、誰一人生きて帰れないかもね?」

「――!!」

残酷な言葉。私は、絶対に敵兵を殺さなければならなくなった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



味方の兵士が、じりじりと撤退する。敵はそんな私たちに、勝ったと勘違いした。



「撃て」

冷たい声に、私はできるだけ無心に魔法を撃つ。火属性、水属性、風属性、土属性、聖属性、魔属性。最後に光属性と闇属性。私は、風属性魔法で空を飛びながら、全ての属性の上級魔法を撃つ。


大地に、八色の華が咲く。

こんな状況じゃなければ、うっとりと眺めるような美しい光景だった。



しかし、よく見れば人が空を飛んでいる。上級魔法の衝撃で、空を飛び、地面に叩きつけられ赤く染まり、動かなくなる。

最前線で戦っていた敵兵は、後方部隊がそんなことになっているのを見て、顔が青ざめていた。


中には、絶望で涙を流している兵士もいた。



私は、そんな光景を見て、吐き気と同時に胸が張り裂けそうだった。

月影は、興味もなさげにその光景をただ眺めていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「これで、心臓を刺すんだ」

「これ、って……」

月影に渡されたのは、短剣。ずっしりと手にかかる重みが、恐ろしい。



「捕虜を集めた。目の前で、間諜を始末すれば、自分も同じ目に合うんじゃないか、と怯え、素直に情報を吐いてくれる筈だ。

――あ、そうだ。きちんと狙いは外さない方がいいよ。きっと痛いから」

無表情でそんなことを言う月影が、今はとんでもなく恐ろしく思えた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「お、お助けを!!」

「……ごめんなさい」

誰にも聞こえないように、口の中でつぶやく。


私は、狙いを外さないように目を見開く。しかし、何も見ないように目の前のことに集中する。



「そ、そいつは家族がいるんだ!結婚して五年になる女房がいるんだ!しかも、妊娠している。なあ、まだ性別もわからない子供から、父親を取る気か?」

「……」

捕虜から、そんな声が聞こえる。私は、奥歯を砕かんばかりに食いしばる。



私は、覚悟を決めた。それでも、手が震える。私は、男に素早く駆け寄り、心臓に刃を突き立てる。男は、力なく私に倒れ掛かってきた。


嫌に、肉を断ち切る感触が生々しく、血の鉄臭さが鼻を突いた。

しかし、私はそれを何でもないようにふるまう。――振舞わなければいけない。


そんな私に向かって、悪魔だ!とか、人の心がない冷血女め!とか、そんな言葉が聞こえた。涙がでそうになったが、泣いたら恐らく、月影に何をされるかわからない。


多分、月影からした九星は、きっと泣かないから。



「きちんと役割を果たしてくれて、よかったよ」

「悪魔が!!」

心の奥底から、憎しみが溢れてやまない。私は、帰りの馬車で、月影のことを一切見なかったし、一切口も利かなかった。

ただ、馬車の車輪の音だけが、大きく聞こえていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Miria


久しぶりの悪夢だ。

何故か、月影のことがあまり思い出せなかった。


けれど、最近はなぜか思い出せるようになり、さっきも夢を見た。


あれは、私の初陣だ。そして、初めて人を殺した日でもある。



あれから、十年経った。今は人を殺すことに、全くの抵抗を感じない。慣れてしまった、そう自嘲するとともに、たまに手が赤く染まっているように見える時がある。



私が月影を憎む理由。多分、私たちは月影に記憶を消されている。その記憶が蘇れば蘇るほどに、月影に対しての憎しみが沸き起こる。



月影は、血も涙もない悪魔だ。研究者たちとは違うだろう。



「皇月影……私が、必ずお前を殺す」

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― 新着の感想 ―
月影っ!! わるいやつ!!
朗読スペースから1話だけ読ませていただきました! 静かな文体の中にある、確かな世界観が素敵ですね。 特に8つの属性の魔法を花として表現している部分が好きです。
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