九星の脅威
Side Matthias
「さて、緊急会議だ」
俺はジェシカを呼びつけ、今起こった緊急事態を説明する。ゲームの知識が必要かもしれないと思ったからだ。
「それって放置でいいんじゃない?アイン、強いよ」
「俺が嫌だ。それに、“丁重に扱う筈の捕虜”が行方不明。下手したら、国が消えるぞ?」
「え、そこまで!?」
九星は都市伝説じゃない。中には称号的な物と捉えている者もいるが、違う。一人一人が化物な、九人の軍人だ。
“終焉の狂戦士”、“絶対零度の司令官”、“世界最高の鍛冶師”に会って分かった。全員化物じみた強さだ。“鮮血の死神”と呼ばれるアインがかなり手加減してくれていたのが分かる程には。
「九星って、そんなに強いの?私、ゲームに出てないことは分からないのよね……」
「九星は、一人で国を簡単に沈めることができる、九人の化物集団だ。それぞれに二つ名がある。
ただ、存在が機密扱いなのか、その情報は殆どが出回らない。分かるのは、一人一人の年齢、性別それと二つ名だ。名前は、アインのように最初からない者もいるだろうな」
「アインって、そんな立ち位置だったんだ……」
「フッ」
俺よりアインを知っているジェシカを驚かすことができ、正直気分がいい。
「九星はやると言ったらやる。それ程の力を持つ上に、元オケディア王国だ。こんな国、幾らでも如何こうする事ができる」
「オケディアは何か特別な意味が?」
「超古代国家なんだ。そんじょそこらの国とは一線を画す。――まあ、今はアインだ。一体どこにい……」
ふと、魔力を感じ、俺は言葉を止める。
「どうしたの?」
「覚えがある魔力が流れた」
「私には感じなかったけれど……」
当惑しながらジェシカはこちらを見る。微かではあったが、確かに流れた。
「で、これからどうすンだ、王太子サマ?」
「「は?」」
ここにいる筈のない声が上から降ってくる。スタ、と軽い音とともに現れたのは、オレンジの髪を持つ青年だった。頭には、鬼の証である黒い角が生えていた。
――影は何しているんだ!!
心の中で、目の前の人物――“終焉の狂戦士”ラースを止められなかった隠密部隊に悪態をつく。
「アイツらか?もうちょっと訓練した方がいいンじゃねぇか?アインのヤツだと、アイツら制圧すンのに十秒あれば十分だぞ?」
「じゅ、十秒って……」
「九星は化物集団だからなァ。ま、一番の化物は、ララ姉とかノア兄とかだけどな」
ははっ、と笑う橙髪の青年に、俺とジェシカは呆気にとられた。
何時から聞いていたんだ……?
何時から聞いていたのかしら……?
ジェシカと、アイコンタクトで気持ちを共有できたことに安堵した。
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Side Jessica
マティアスに呼びつけられて、約十分。私ね……。
――ゲームに出てない情報は分かんないのよ!!
ああ、あの男にもうちょっと何か聞き出すべきだったわ!!アイン自身の半生、あれだけでも十分濃いから……!まだあるっていう所まで思考が回らなかったわよ!
「俺は最初から聞いていたぜ?まあ、よかったな、――」
男の言った言葉は、最後の方は小さすぎて何も聞き取れなかった。でも、深く突っ込んではいけないような気がした。なんというか、全身でそのことへの追及を拒絶しているように見えたからだ。
「ねえ、アインの居場所って分かっているのかしら?」
「分かる訳ねェだろ」
「「はい?」」
今なんて言ったのかしら……。うん、幻聴よね!
「俺が、アインの居場所なんて分かる訳ねェだろ。後、同時刻にうちステラとリセーアスからもアインの魔力が流れた。多分、自分でどこにいンのか探ってたンじゃないか?」
アインと言うキャラクターは、隠れイケメンで、何でもできるハイスペック持ちだ。頭で思いつく大体の事は、普通にできる。だからこそ、元手が何もない状態でも、自分の場所を探るのは、簡単だったに違いない。
「ま、結局は、向こうから来る。それまでの俺の仕事は、反乱分子を蹴散らすことだ。この国勝手に潰したら、アインがガチギレするからな。アイツ、普段怒らないから、怖いンだよ、ブチギレたら……」
その時のことを思い出しているのか、目の前の男は腕をさする。顔も心なしか青いので、相当だったようだ。
――王家の影ですら圧倒する彼を青ざめさせるって……。
「だから、九星はアインの許可無くここを潰さねェよ。そこは安心しろ。俺が来た理由は、アインが過ごしやすい環境を手っ取り早く作ることに、俺が最適だったからだ。どうせ、アインはマティアス王子の血を吸ってンだろうし、アインが人間じゃねェってのはもう知ってンだろ?」
この人(?)、ちょっと迂闊で抜けているのかもしれない。何故なら――。
「それ、私がもし知らなかったとして、それを拒絶したらどうするのです?私が偶々そのどちらにも当て嵌まらなかっただけであるのですが、どちらかに当て嵌まれば醜聞ですわよ?」
「うぐ……」
彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。自分の迂闊さに気が付いたらしい。
「俺、命を拾ったかもしれん……」
――え、それだけ!?
「流石に半身を引き裂いた、となると、俺も同じことされる……!ああ、よかった!!半身引き裂かれたら、死ぬしかないからな!!アインと心中する羽目にならなくてよかった!!」
大袈裟に安堵している。九星と言うネームバリューに気圧されていたが、中身は案外普通の人間(?)……?
「そこまで言うなら、迂闊な発言止めろ。アインの命が幾つあっても足りん」
マティアスが呆れたように言う。本当にそれ。
……と言うか、マティアスはアイン中心なのね。
「流石に足りるだろ。お前がアイツを拒絶さえしなければ」
「だから!!そういうことを!!言うな!!何度言えば解る!?貴様はその半身とやらを、そんなに引き裂かれたいか!?」
「よし、反乱分子を何とかしに行こうか!!」
強引の話を終わらせた男に、溜息を吐くマティアス。
後で教えて貰ったが、彼は九星の“終焉の狂戦士”ラースらしい。薄々九星の誰かだということは分かっていたが、本当に戦闘能力は高い。アインに対して不満をかなり持っている人物を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げをしていた。
結論。“終焉の狂戦士”は脳筋である。




