最も恐ろしい国、久遠
革命2年前でした、今までおかしいと思った方、もしかしていらっしゃるのではないでしょうか?
すみませんm(_ _;)m
「そう言えば、魔法祭前からずっと思ってたことなんだが、ロースタス、オケディア、クリスタルパラス、久遠があたかも特別のように言ってるが、一体どういう意味なんだ?」
「説明していなかったのですか?」
「一般人に誰が説明するの?そのことを知っているのは、それぞれの国の王族だけだよ」
「それもそうですね」
「一般人……?」
ラファエルが腑に落ちない表情をしているが、巻き込んだのはこちらだ。説明を要求されるなら、それに応じなければならないだろう。
「ラファエル。これから話すことは、ペスケ・ビアンケにもよく伝えておいてほしい。これは、絶対に人に話してはいけない内容だ。君たちがその内容を知っているのは、僕とフィンレーのみにしてほしい」
「分かった」
「気を付けてよ。きちんと、外で話すときは防音対策をすること。一応後で御符を渡す。それで、しっかり防音をしてよ」
「ここにきて急に日本!!」
「は?」
「無視しよう。時々ラファエルは変なことを言うから」
ラファエルの言葉に、フィンレーはあっけにとられた表情になるが、僕は澄まして冷静にそう言った。
そして、説明するために口を開く。
「さっきラファエルが上げた国。それが超古代国家と呼ばれている」
「なにその古そうな国」
実際古い。寿命がない筈の魔族でさえも、建国時の正確な歴史が分からないほど古いのだ。
「周りの国は、せいぜい言ったとしても千年程度だけど、その国は億単位で前に建国された国だ」
「ウィリアム・フェイトってそんなに古い人だったのか!?」
「ああ。だからほとんど記録が残ってないんだよ。残ってたとしても、久遠かロースタスの禁書庫くらいだ」
「あとはクリスタルパラスにも一応名前はあるらしいよ。でも、その本数ページ破られてるらしい」
「なんだか闇が深そうだな……」
ラファエルが聞いてはいけないことを聞いた感じで、顔を青くしている。
「その四ヶ国は、精霊が国王を任命した国なんだ。そして、それぞれ精霊に願いを叶えて貰うと同時に、特別な役目を精霊から仰せつかった」
「願いと特別な役目……?」
ラファエルの言葉に、僕は頷いて続ける。
「最初は、誕生の国、ロースタス。ロースタスは、豊かな土地を手に入れるとともに、英雄が生まれる国になった。今は100年前に、御影姉上の所為で三国に分かれてしまって物凄く荒れているけれど、元々緑が美しい国だったそうだ」
「今の姿じゃ、全く見る影もないけどな」
「旅行好きな姉上がよく足を運んでいたんだ、きっといい国だったんだよ」
自虐気味に言ったフィンレーに、僕は慰めるように言う。
「次に、約束の国、オケディア。オケディアは、特殊な力を持つ人を手に入れるとともに、封印された精霊の開放を担う国になった。今は2年前の革命で、ステラに名前が変わってて、今の国王は建国王とは血の繋がりもないけれど、たぶん子供を政略結婚させると思う。5歳の王子がいるからね」
「そんな幼い時から……?」
「超古代国家は、精霊と建国王の間の契約で成り立っているんだ。その建国王の血筋がいないと、その契約が成り立たなくなってしまう。例えば、オケディアで言えば、異能力者が全く生まれなくなってしまうとかね」
契約はかなり繊細だ。長い年月でも、失われない契約とは、取扱注意のガラス細工と一緒なのだ。
「という事は、オケディア以外の王族は、全部建国王の血を引いているという事か……?」
「なんならセオドア王もそう。だから、セオドアも精霊から見れば、ロースタスの一部になる」
「でも人族や魔族、ウィキッドから見れば、ロースタスの王族が建国した訳でもないから、ロースタスではない、という事になるのか」
「そういうこと」
精霊とそれ以外の見方の違いで、僕は安全な潜伏場所を見つけられたのだ。本当に、大きな落とし穴だったよ。いくら血縁でも、とんでもなく昔の話だ。精霊から聞かなければ、まさかセオドア王がロースタス建国王の末裔とは、知ることはなかっただろう。
「その次は、技術の国、エネリシア。エネリシアは世界最先端の技術を手に入れると共に、邪神やウィキッドにも通用する武器が手に入る国になった。だからかなりいい腕の鍛冶師や魔道具師が揃っている。けど今は、芸術に目覚めたとかで、芸術国家に生まれ変わっている。それで名前がクリスタルパラスに変わった。ただ、エネリシアの技術も残っているし、何ならそれから更に進化もしているよ」
「なんか……何でもありだな、その国」
「国王自身も芸術家らしい。技術が失われてないのはよかったが、かなり無責任だよな」
「でも最低限、責務は全うしているからいいんじゃない?フィンレーも、王になったら責務をきちんと全うしてね」
「もちろんだ。あんな恥さらしな国、俺が一から叩き直す」
フィンレーがやる気に満ち溢れている中、僕は更に説明を続けた。
「最後に決戦の国、久遠。久遠はこの世界を異世界からの進攻から守る結界を精霊に張ってもらうことを条件に、邪神の器となる者と邪神の居場所が分かる者が、王族の中から生まれる。
本来神は、僕たちが倒せるどころか触れることすらできない存在だけど、器を通して今は干渉することができる。そして、器を完全に乗っ取った邪神は、よく姿を眩ませるから、案内人と呼ばれる、邪神の居場所が分かる者が必要なんだ」
「つまり、器が死ねば、邪神も死ぬと?」
「とても簡単に言えばそう。でも、ただ器を殺しても、邪神は死なない」
「もしそれだけで死んでるなら、もうとっくに邪神はいないだろうしな」
「そうだね。それに昔は英雄も案内人も各地に生まれていたんだけどね、めっきり少なくなって、今や最低限すら生まれてこない。
だから、人工の英雄も作り出そうとしているんだけど、力が弱くて……」
「「人工的に英雄をつくれるのか!!??」」
僕の言葉に、ラファエルとフィンレーが驚く。でも僕は冷静に二文字を告げた。
「無理」
「いやでも今……」
「ロースタス出身で、元々英雄になれる素質がある子で、更に英雄の血を飲ませることで無理やり開花させた感じかな。ぎりぎり英雄だってわかる程度。力が弱い神ならともかく、邪神はかなり力の強い神だから、全く意味がない。焼け石にいくら水をかけても無意味だけど、その水が一滴しかないなら、もはや作る労力すら無駄。天然の、強力な英雄が現れるまで、待つしかない」
「なんていう神任せな」
「しかたないよ。一応英雄がいるだけでもましだから」
空気が落ちた。
「ならさ、案内人はいるのか?」
ラファエルが気を取り直すように、明るい声でそう聞いた。
「目の前にいるだろ」
「目の前?」
「僕だよ、案内人は」
「はい?」
「僕が行方不明になった理由、僕が案内人だから。多分、世界で一人の案内人だから、僕は吸血鬼の始祖なんだろうね。居場所を誤魔化せるの、吸血鬼しかできないし」
「どういうこと?」
全く意味が解らない、という風にラファエルが問う。
「案内人は邪神の居場所が分かるけど、邪神も案内人の居場所が分かるんだよ。つまり、自分の居場所がばれたくない邪神は、真っ先に案内人を殺す。
けれど僕は蝙蝠を飛ばすことができる。そしてその蝙蝠も、邪神の居場所が分かる。つまり、僕が世界中に蝙蝠を飛ばせば、邪神からすれば、世界中に僕がいる、という風になる」
「チートだろそれ」
ラファエルが頭を抱えてしまった。
「じゃあもう一つ聞きたい。紅月とか、翠風とかは何だ?」
「久遠の公爵家の中でも最も権威がある四家だね。この国で例えるなら、グラッチェス家とか、アムステルダム家みたいなもの」
「成程な。つまり誰か魔王に推し始めたら、その意向を無視することができなくなりそうだな」
「できるだけ無視できないだけで、魔王が直々に後継者を選んだ後にそう言われても、もうあまり意味がない筈だけど……。面倒なのは変わりないね。だからよく、暗殺とか起きるよ」
「何でそんな物騒なことを、笑顔で言うんだよ」
「僕もあまりにうるさいようなら、金華の先代当主と当主と次期当主を殺そうと思ってるからね」
僕がしなくとも、雪影兄上か御影姉上のどちらかがしてくれそうだが。
「けんりょくってこわい」
「俺も怖い。特に久遠は怖い」
「こうやって魔族は間引きしないとね」
「「間引きって言うな!!!」」
どうやら人族と魔族の価値観は違うらしい。




