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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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無価値な存在

希死念慮、胸糞が嫌いな人はご注意を!

「――で、馬鹿ですか、貴方」

開口一番僕はフィンレーに(ののし)られた。


「馬鹿じゃない。そもそもの話、ウィキッドは僕に何も手出しできない。誘拐して、監禁してくるかもしれないけれど、それだけ」

「ならなんで今正体を明かすんですか。というか、明かした、というよりはばれた、に近いですが」

「僕を探しに九星を壊滅させられたらたまらないからね。――今はまだ、九星は成長途上。そろそろ年齢的に限界が来る人も出てくるけれど」

「はあ、いつも貴方が何を考えているのか、よくわかりません……」

「フィンレー王子が敬語……。フィンレー王子が敬語……」

ラファエルが呆然としたように呟いていた。


今僕たちは、ラファエルの部屋に集まっている。僕は部屋主(ラファエル)を差し置いてベッドに座り、ラファエルとフィンレーは地べたに座っていた。

僕と同じように靴を脱げるように部屋を改造しているらしい。


「いつかはばれるよ。これから、大きく動く。その時に、居場所がはっきり割れている九星に、ウィキッドの注目を集めたくなかった。九星と(皇月影)。ウィキッドなら、僕を狙う。それは間違いない。

――それに、姿を隠してやるべきことはもう終わった。僕がこれからやることは、囮になって九星の成長のための時間稼ぎをすること」

「そんなにうまく行くもんかね」

ラファエルは懐疑的だ。ジト目で睨む彼は、僕を心から信用していないのだろう。まあ、ずっと騙していたからしょうがない。


「行かせるようにするしかない。一番理想なのは、ウィキッドのみに僕の正体を知られること、だね。できれば今の状態をキープしておきたいけど、たぶん長くは保たれない」

「なんでさ。九星とか、えっと……皇だっけ?に助けを求めたらいいでしょ」

「無理だ。多分、そうなると必ず、他の家……もっと言えば、第九魔王子派に、僕の活躍が知られる。そうなると……」

声が勝手に振るえる。まともに誰かの顔を、見れなかった。


「ああ、確かにそうだったな」

そんな声がして、頭が少し重くなる。いつの間にか、体全体が震えていたようだ。


「悪かったな、無神経なことを言って」

「いえ……。ただ、邪神を打倒したことは、今までで誰一人としていない。確か、ウィリアム・フェイトという人物が最も近かったらしいけど……よくわからない。記録も、ほとんど残っていなくて……」

「確か、ロースタスを建国した王の兄だったですよね?」

「そうです。その娘が降嫁した貴族の家名が、ウィリアムズとセオドア。だから一応、精霊的にはこの国は、ロースタスという事になる」

セオドアは、ロースタス建国王の名前だ。セオドア・フェイトもとい、セオドア・ドゥ・ロースティス。何故、ウィリアム・フェイトではなく、その弟が英雄が生まれる国を建国したのかは不思議だが、ともかく、彼の血を引いている者が王を務めているこの国は、精霊からしたら、ロースタスと何ら変わりはないのだ。


「ああ、だからか」

「うん。この国にも、英雄が生まれる。どちらにせよ、僕は邪神に真っ先に殺される。でも、まだ僕は死ぬ訳にはいかない。だから、潜伏先も、かなり考える必要があった」

「久遠は駄目、ロースタスもあの惨状じゃ駄目、クリスタルパラスは根っからの魔王太子派、オケディアは聞いた話によると軍部の上層部がウィキッドと繋がっていた。……セオドアがなかったら、どこに潜伏するつもりだったんですか……」

「それなら、全ての計画を人に任せて、僕は死ぬかな。僕がいなくなれば、僕が立てた計画ももっと円滑に進む。僕という戦力がなくなるのは惜しいけれど、それでも僕がいるという不利益の方が大きいから」

僕は淡々と話す。僕の居場所は、常に邪神に筒抜けだ。だからこそ、蝙蝠を世界中に飛ばし、居場所を誤魔化している。その逆もしかりという訳でもあるのだが、それも相まって、邪神は僕を殺したくてたまらない。


「おい、簡単に死ぬって言うな」

「ラファエル。僕一人の犠牲で、全てが丸く収まる方法があるんだ。それを選ばないで、何をしろと?」

「それでも!!死にたくないくらい、言えよ馬鹿!」

叫ぶラファエルに、僕は抹消で、この部屋から外に出る音を抹消してよかったな、と思った。


「僕はもう昔から覚悟は決めているよ。――まさか、神を撃ち滅ぼすのに、代償を何も負わないつもり?」

「代償……?」

「大丈夫。僕は最初からいない筈だったから。なにも、変わらないよ」

「は……?そ、それはどういう……」

「ラファエル。辛かったら言ってよ。――僕が死んだとき、僕がいた記憶を抹消してあげるから」

「いや、そういう意味じゃ……」

ラファエルがどこか怒ったような、泣き出しそうな表情を浮かべる。しかし、僕は何も見なかったことにした。


「そもそも、前に話した通り、血の正当性は僕にある上、僕は始祖だ。此岸の時雨兄上と比べれば、僕の方が魔王に相応しい、と判断する者がかなり多い。それに、僕は功績を残してしまったから……」

「何で功績を残しちゃいけないんだ?いいじゃん、国に貢献できたんだろ?」

「それが、魔王太子殿下が月影殿下と同じ年でそれ以上の功績を残していたら、の話だな」

「つまり……」

心なしか青い顔をするラファエルを置いてけぼりに、僕は口を開く。


「今の時雨兄上には、様々な輝かしい功績がある。けれど、僕はまだ10歳だった時に、魔道具の革新的な発明をしたんだ。それで、魔道具を使うときに必要な魔力量が二十分の一になった。此岸の10歳と彼岸の10歳は意味が違う。……完全なやらかしなんだ」

「それは……想像以上のやらかしだ」

「た、確かにすごい……。じゃあ、俺たちが生活で毎日使っている明かりも、お前が発明したものが入っているのか!?」

「うん。それに、魔道具自体を発明したこともあるから……」

「この方以外に誰が魔王陛下になるのか!という平民もかなりいる。俺としては、発明ばっかの王よりも、内政や外交できちんと結果を出している方に王になって欲しいが、まだまだお若いからな……」

困ったように溜息を吐くフィンレーに、ラファエルはハッとした後、ジト目で僕に迫る。


「……お前、今何歳だ?」

「……36歳です」

「は!?えっと……23盛ってんのか!?いや、流石に盛りすぎ、というか嘘だろ絶対!」

「計算すれば、そのくらいか……。もうちょっといってると思ったが、案外若い……」

ラファエルは予想外に年上だったことに驚き、フィンレーは予想外に年下だったことに驚いた。



「だから、僕が成人する前に王位継承権争いが激化すると困るんだよ!でも、あと14年!今正体を知られると、もう僕が死ぬ以外に王位継承権争いが収まらない!」

「それはマズい!」

「何とかしろ、アイン!」

「だから僕が死ぬ以外には……」

「それ以外で頼む!」

「うーん、でも難しい……。要は、時雨兄上の方が、僕よりも魔王になる正当性があれば、簡単な訳で……。でも僕、血筋が最も大きい魔王の正当性な訳だから……」

「つまり無理、と……?」

「そうなるね」

僕のその言葉に、ラファエルはがくっ、と頭を垂れる。


「で、でもお前の正当性をなくす以外の方法が……!」

「魔族は案外血を大事にするからね。仕事は、優秀な部下がいれば回るし。極論、魔王が優秀じゃなくてもいい訳で……」

「つまり無理と……?」

「国民人気くらいかな……。僕の国民人気、全くないから。時雨兄上は、よく民に顔を出しているから、親しまれているけれど」

「そこか!!」

「でも、貴族、それも高位になればなるほど、僕の人気が高くなるからね」

「あ」

何かを察したようで、ラファエルは気まずそうな顔をする。


ああ、僕は知らない筈だもんね、二人の間では。


例えば金華が紅月と翠風を唆して僕を魔王にしようとしている、とか。

僕は結局、能力ではなく体だけで魔王になることを望まれている、とか。

何なら金華なら僕を他国との交渉のカードにもしかねない。



まさか耳をふさいだだけで、吸血鬼の始祖が、聞こえなくなる訳がない。その心遣いを無駄にしたくなくて、必死に表面を取り繕っただけ。

だから、実は昔、琥珀兄上が僕に聞かせまいとした、蘇芳兄上の発言も、しっかり記憶の中にある。



――お前はな、死ぬべきだったんだよ!せっかく黒髪で生まれたってのに、父上の代わりになれやしない出来損ないが!お前が案内人なんかじゃなければ、とっくに死んでいたのに忌まわしい!とっとと邪神に食われて共に死ね!!そのために生きてきたんだろ、今までよぉ!!



僕は、生まれるべきじゃなかったんだよね、蘇芳兄上。わかってますから。息をしていてごめんなさい。

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