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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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いつか来る未来に想いを馳せて

Side Raymond


「気づいちゃいましたか……」

私は、グレースが浮かべたあの表情に、笑いがつい零れる。



ああ、本当に愉快だ。いつまでも敬愛している彼女に振り返ってもらえない。自分が心底嫌っているライバルは、彼女の元にいれるのに。



私は、そのまま夜風に当たっていた。背後から近づく気配も、とっくに気づいていた。


「レイモンド。協力してくれてありがとう。――これ、謝礼金」

「……こんなにいいのですか?」

「うん。僕、あまりお金はいらないから」

かなりの人物を敵に回す発言だ。


「それ、大声で言わないでくださいよ」

「そうだね。――僕は、近々爵位を(たまわ)ることになる。私財なんか、これからいくらでも増えるのに、今もため込む必要はないからね」

「そう言える財力が恨めしいですね……」

「元々使い道があまりないのに、王族の専属護衛だよ?――ウルガや研究資金に使って」

「ありがたくいただきます。――王からも、貰っているのですが」

「では、今後良好な関係を築くため、という事にしておこう。――これからも、力を貸してほしい」

まっすぐに私を見つめる瞳。ああ、貴女は何も変わっていないようですね。


「もちろんです。――私は、邪神が合っているとは思えないので」

「ありがとう」

アインは、私に感謝を伝え、そのまま去っていった。



「いいな~。お金を貰えるなんてさ」

少しして、終夜がそう言った。


終夜は、私の斜め前の木に寄りかかっていた。


「貴方は別に要らないでしょう」

「趣味なんだよ、紙幣を眺めるのが」

「変わり者ですね」

一体どんな趣味だ。多分、久遠では硬貨が存在しないし、金華は無類の金好きだ。そこの次男なら、そういう趣味もあるか、と思い直した。


「それで?レイは何を考えてたの?」

どうやら私に気を回してくれたらしい。この場では、さっき去ったアインしか知らない魔族共用言語――久遠語で話してくれた。


「久しい顔を見て、思わず昔に想いを()せていたのですよ。――あの頃もあの頃で、楽しかったです」

「そうなんだね~。あの頃と今、どっちが楽しい?」

「あの頃も楽しかったですよ。アナスタシアの下で人間を駆逐(くちく)する日々は、楽しかったです。あの方の下で働けるなら、私は何でもよかったんですけれどね。

今は、ウルガを育てるのが楽しいですよ。育児って、大変ですよ。それに種族が違うから、より分からないことだらけで」

私はそう言って、生後一日のウルガが急に生肉を食べ始め、慌てて吐き出させたことを思い出す。のちに杞憂だという事が分かったが、本当に肝が冷えた。


ウィキッドは生肉は駄目だから、生肉が必要な龍人にかなり驚いた。

よく実験器具も壊すし、体調不良を隠そうとする。血も繋がっていないのによくなついてくれるのが可愛くて、ついつい甘やかしてしまう。



「ふーん」

「気に入りませんか?」

「別に。俺の自業自得な所はあるし。まあその子供のお陰でこちら側になってくれるなら、何でもいいでしょ?」

「気に入らないんですね」

「そうは言ってないじゃん」

口を尖らす終夜も、私からすれば若いな、と思った。なんとなく、終夜には子供がいて、その子供が誰かという事も知っている。

終夜がアインを口説く理由も。



「まずは、一途になった方がいいんじゃないでしょうか?多情な方は嫌われますよ」

「これでも一途な方だけどね……」

二股なら、悪魔にとってはかなり一途な方、か……?


「価値観の違いですね。少なくとも、彼を口説くのをやめてみたらどうですか?」

「天夜と仲がいいからね~。それに、俺の妻になれば、下手な魔族は手を出せないし」

「ああ、そういう……」

「元々、俺は月影の婚約者候補だし、月影の婚約者は月影と結婚するつもりもないようだし。だから口説いてるんだけど、手を出す気もないしね~。手を出して天夜に嫌われたら、俺死んでも死にきれないから」

そう言って笑う終夜に、私はなんとなく不器用だな、と思った。



「ちょっと実家で忙しい時に、天夜をかくまってくれた恩人だしね~」

「本当に不器用ですね」

「そう~?俺は結構器用な方だと思うよ?実家にいた時貰ってた小遣いと同じくらい稼いでるし」

そう言って、普段から持ち歩いているらしい札束を見せてきた。成金にしか見えない。


「それはしまいなさい。――貴方は、何故ウィキッドを裏切ったのですか?」

「俺?――元々、月影が外国に出る時に連れていた天夜と天音を探して、国外に出たんだよ。月影を探す上で、ウィキッドを利用すれば、簡単に見つかると思ったんだけど。ずっと天夜と天音は月影と一緒だと思っていたし。

でも違った。月影を見つけた後、天夜と天音を探したけど、一緒に暮らしてる訳でもない。天音はたまたま見つけれたけど、天夜がなかなか見つからなかった」

「ん?途中で別れた、という事ですか?」

「そーいう事。ウィキッドを裏切ったのは元々そのつもりだったし、天夜が見つかったから。説明しなくとも、きちんと理解してくれたのはよかったよ」

夜空を見上げながら、満足そうに穏やかに笑う終夜。ただ、顔見知りになった情からくるものなのか知らないが、私は終夜が天夜と天音と共に、邪神を打倒した後、幸せに過ごしてほしいと思った。

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