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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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息子は父に敵わない

僕は、数分気絶していたようだ。

目を覚ますと、僕はマティ様に姫抱きされているようだ。

……思わず赤面しそうな顔を何とか平静に保つ。


僕は、周囲の状況を探るため、目をつぶったまま、マティ様とレイモンドたちの会話を聞くことにした。


「それで?貴様らは誰だ?」

「私はレイモンドと言います。この子は私のこのウルガ。そしてこの悪魔は、ニカ・シュドベリーズです」

「ニカダ。インネン(因縁)の相手がココに侵入しようとしてイタんでね、ソレを追ってココに来タ」

レイモンドの嘘に、終夜が片言で乗っかる。ラファエルとウルガが突然とんでもない嘘を言う二人に、オロオロしているが、レイモンドも終夜も全く意に介していない。



――さすがレイモンドだ。



僕は、咄嗟(とっさ)に王族に嘘を吐いたレイモンドを、内心で称賛(しょうさん)していた。


皇として、正直あまり金華の放浪息子(終夜)がここにいることは、知られたくなかった。

どう取り繕っても、侵入者であることは間違いない。いや、それ以前に密入国者だ。流石に密入国は犯罪だ。

確実に久遠や金華の弱みにはなる。


「と、とうさん……?」

「ウルガ。大丈夫ですよ。アインはちょっと眠っているだけです」

「……」

戸惑ったウルガが、レイモンドに何かを言おうとするが、それをレイモンドが遮り、あたかもウルガが僕を心配しているように見せた。


マティ様は、鋭いから、違和感を感じているだろう。だが、それを追求するつもりはないようだ。



「マティアス殿下!置いていかないでください!」

「ルーファス、悪いな。父上、どうやら戦いは終わったらしいです」

「父上……?」

「マティ。それで、どうなのだ?」

「父上。一目瞭然でしょう?」

「ああ、そうだな。だが、詳しく聞かねばならん」

「それは当然でしょう。さて、レイモンド。あとで説明して貰おうか」

「……」

マティ様の方が上手だったことに、僕は震えた。レイモンドはかなり旧いウィキッドだ。それに、レイモンド曰く、彼は頭脳担当だったらしい。


その場しのぎの嘘は、終夜の立場を悪くするだけに終わってしまった。



「それでアイン、いつまで寝ているつもりなんだ?」

「ん……」

耳元でささやくその低音がくすぐったい。つい声が漏れた。


「何で寝たふりをしたんだ?」

「き、気まずくて……」

「……」

顔が熱い。だ、だって、起きたら姫抱きで誰かと会話しているなんて……。しかも、僕以外に気絶した者はいなかったみたいだし。それだけでも恥ずかしい。


「そこまで言うなら下すか?」

「い、今立てないです……」

「……ん?」

僕は、先程の戦いで動けない。死力を尽くしたのだ。本当に恥ずかしい。人前で、こんな風に抱きかかえられるなんて……。

マティ様の体で顔を隠す。だが、耳が暑いから、きっと赤くなっているのだろう。だから、意味がないかもしれない。


僕がまともにマティ様の顔を見れないでいると、ラファエルたちがしみじみとつぶやいた。



「苦労してそうだな、王子様は」

「アイツは、王子様が悪魔じゃなくてよかったね~」

「憐れですね……。自分の顔の良さを自覚していないのでしょうか」

「聞こえてるぞ」

自分の、顔の良さ……?あっ。


僕は、レイモンドのその言葉に、戦いのさなかで月下美人を使ったことを忘れていた。こっそりマティ様の様子をうかがってみたが、ばっちり視線がかち合ってしまった。


美しい金の髪に、爽やかな青い瞳。遠い昔に見覚えがありそうな緑色をしたピアスが太陽の光で輝いている。


じっと真剣に見つめられ、僕はその雰囲気に耐えきれず、すっと顔を逸らす。



「俺が毎日見ていた顔より、かなり整ってるな?」

「……闇属性中級魔法、幻影」

僕は闇属性魔法を使ったが、上手くいかなかった。どうやら、まだ月下美人の効果が残っているらしい。正確には、魔法は使える。けれど、毎日使っていたレベルの闇属性魔法が使えない。


「あ、あの……」

「なんだ?」

「まだ魔法が使えなくて……」

「そうか。俺が代わりに使うか?」

「お願いします……」

僕は、マティ様の腕の中で、頭を下げた。


マティ様の魔法がかけられる。

なんだか安心できて……。


「寝るなよ?」

「すみません!」

うとうとしかけていた。ずっと体中が痛い。でも、マティ様が心配するから、平気なフリをする。


「マティ様、僕もう立てます……。迷惑をおかけしました……。――重かったですよね?」

「どうだろうな?」

マティ様が、意味ありげに笑った。

その笑みに、僕は釘付けとなると同時に、脳裏に懸念が浮かぶ。



――それは重かったということなのだろうか?



僕は、気になって仕方なかった。



僕はマティ様に下ろしてもらったが、ふらついてしまった。

すぐさまマティ様に支えられる。僕がふらついたのはその一回だけで、すぐにマティ様の支えなしに立つことができた。



「お、おい……大丈夫か?」

ラファエルが心配そうに駆け寄ってきた。僕はそんなラファエルに、大丈夫、と返した。



「しっかり歩けるなら、これから講堂に行く。そこで、民の不安を取り除くぞ。パニックになられては敵わん」

そんな声を上げたのは、国王陛下だった。


「さ、流石にまだ……」

「了解しました。ではまず、着替えさせてください。それと、怪我を治して血も落とさないと、完全に不安を取り除けないのではないでしょうか?」

「その通りだ。すぐに準備しろ」

「父上。まだアインに無理は――」

「マティ。これぐらいはしてもらう」

「マティ様。僕は構いません。――陛下。五分お待ちください」

マティ様が陛下に食って掛かるが、陛下に言葉を遮られる。

僕は、マティ様が僕を心配してくれているのが嬉しかったが、それを表情に出さずに頭を下げた。


「よいよい。まだ体がきついだろう?」

「?はい」

なんだか含みがある言い方だが、きついのも事実。首をかしげながら、僕は頷いた。


「ブッ」

誰かが吹きだした。位置的に、ラファエルだろう。そちらに顔を向けると、声を出さずに笑っているラファエルとレイモンドを終夜。僕はウルガと共に、首をかしげていた。


そして――なぜかマティ様が、顔を真っ赤にしていた。 

いつも自信満々なマティ様が……?

僕は不思議に思いながらも、マティ様と共に自室に急いだ。

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