解決
Side Rudeus
風紀委員の人たちに案内され、僕たちは校舎側へと逃げた。あの圧倒的なプレッシャー。なんだか、今までやっていた魔法戦がおままごとのようにしか感じなかった。
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春に入学式をした講堂。そこには、避難した生徒とその保護者が顔を曇らせていた。
誰もが不安でざわざわしている。いつ、あの恐ろしい襲撃者がこの校舎に攻めてくるのか?そんな恐怖が、生徒たちをパニックに陥らせる。
空気が割れんばかりの音が、時々届く。それも、人々の不安を助長しているのだろう。
さっそく会長が動いているらしい。風紀と提携して、生徒やその保護者たちの避難誘導をしているのだが、いつ恐怖が爆発して、この校舎から飛び出ていく人が出てくるのか、分からない。
今は、何とかぎりぎりで持ちこたえているのだが、その均衡が崩れてしまえば……。考えたくもない。
「アイン、大丈夫かな……」
「信じて待ちましょう、だって、一番強いんですよ!?」
サティが、僕の手を強く握ってくれた。
「そ、そうだよね、アインを信じよう」
僕も強く握り返し、自然と笑みがこぼれた。
「お、いいこと言うじゃーん、サティ。マティアス様も、アインのことを信じてやればいいんですよ~」
突然、僕の頭上から声が降ってきた。その声の持ち主はカーティス様で、こんな事態になっても、通常運転でなんだか安心してしまった。
「アインが負けるとは、思ってはない。俺の護衛だ、弱い訳がないだろう?」
「素直じゃないな~」
マティアス王太子殿下にそう言うカーティス様は、心臓に毛が生えていると思う。
「おい、カーティス。マティアス殿下に失礼だぞ」
「許してくれてるんだし、別にいーじゃん?ルルもそんなにカリカリしないでよ。牛乳飲んで落ち着いて?」
「お前……人をおちょくるのも大概にしろ!!!」
「わ~ルルが怒った~」
「今からお前をティティと呼ぶ、以上」
「わー、それは勘弁して!!」
「知らん。もう決めた」
「ひっど~い」
ブーブー、とカーティス様が抗議しているが、ハロルド様はどこ吹く風だ。
そもそも、カーティス様って、カーティス以外の愛称が存在していたんだな、と思ってしまった。
「ルー、お前の兄は今どこだ?」
「兄さんですか?多分、戦いに向かっていると思うのですが……。すみません、お力になれず」
「いや、いい。事前に話を通しているからな。戦いに行く前に合流する手筈だ。今すぐという訳でもないし、まあいつか会えるだろう」
「え、事前にって……」
マティアス様の話に違和感があった。まるで、あの襲撃が起こることを、事前に知っていたような……。
「それよりも、あの戦いに参戦するような馬鹿が出ないようにする。あの戦いで、俺たちができることは、何もないからな」
「なにもない、ですか」
「ああ。何もない。ただ無駄に命を散らせるだけだ。王太子命令があれば、馬鹿は引きさがる他ない」
確かに、それはそうだ。
「父上にも話を通す必要がある。それとフィンレー王子も連れて行った方がいいかもな。――ああ、楽しくて仕方ない」
そう言って、マティアス様はその場から立ち去った。我が国の王太子殿下に不敬ではあるが、とんでもなく下衆い表情をしていた。
「マティアス様って、あんな風に笑うこともあるんですね……」
サティが完全に引いたような表情で語る。
――そのセリフ、小説に出てきた気がする。……反対の意味で。
「あちゃ~。あれ、本気だね。ドンマイ」
カーティス様が後頭部の髪をかき上げながら、誰かへの無事を祈っている。ハロルド様は、そんなカーティス様に首をかしげていた。
「サティさん、大丈夫ですの!?」
「大丈夫です!」
「!!??」
僕は、背後から突然人の声がして文字通り飛びあがった。
「マルティン様も、アムステルダム様も、ソルセルリー様も無事ですね。よかったですわ……!」
安心したような表情を浮かべる彼女は、たしかシスティーナ・フォン・エヴァーゼ様だ。
僕たちは、あの襲撃者たちが来た時にかなり近い所にいた。だから、エヴァーゼ様は僕たちを心配してくれたのだろう。
だが、この場にはマティアス様とアインがいない。そのことに気づくと、すぐにエヴァーゼ様の表情が曇った。
「王太子殿下とアイン君は……?」
「エヴァーゼ先輩、マティアス様は先程、フィンレー殿下と共に国王陛下にこの件について、奏上したいことがあるそうで、陛下の元に向かわれたのですわ。それと、アインとラファエルが今襲撃者と戦っているらしいですの。
ただ、安心してくださいまし。アインはあの九星ですわ。――あの九星、しかもその中でも最強のアインに勝てる相手なんて、そうそういないですわ」
カーティス様が説明しようと、口を開けた瞬間、凛とした声が聞こえた。
そちらに向くと、そこにはジェシカ様がいた。
「ふふ、皆様、この国には幸運にもとんでもなく強いお方がいらっしゃいますわ!あの方は、とても有名な都市伝説、九星所属ですわ!さらに、国に多大なる貢献をしたとして、あのステラ王国で公爵位を叙爵される予定なのですわ。そんな方が、守ってくださっているのです。
皆さまも知っているのではなくて?九星は、戦場をたった一人で勝敗を変えることができることを。たかが二人。襲撃者二人に負けるほど、九星は弱いのでしょうか?」
一際大きい声で、ジェシカ様がそう言った。その言葉に、周囲の人々の目に、冷静さが戻った。
「アインが弱い訳がない!だって、私、手も足も出なかったんですから!」
「そうだよ!魔法の腕も、僕どころか魔導士団長の兄さんですら、手も足も出ない程だったんですよ!それに、クラス皆でアインにかかっても、かすり傷も付けられなかった……」
「俺も頑張ったのにね~」
カーティス様が緩く笑う。カーティス様の実力を思い知った生徒たちは、その意味に気づいてひどく驚いていた。
「――その通りだ」
最初とは別の意味でざわめいていたこの講堂内に、一つの声が響いた。
自然と傅きたくなるその声の持ち主は、この国の王、テオドール・ドゥ・セオドア国王陛下だ。その傍には、カタリーナ・フォン・セオドア王妃殿下がいらっしゃった。
壇上にいる陛下は、たった一言でこの講堂内にいる人間すべてを黙らせた。
「この度、我が息子の専属護衛であるアインが、この学園に侵入した襲撃者を撃退した」
その言葉に戸惑い、ざわめく人々の目の前に、マティアス様と一緒にアインが壇上に登場した。
その姿は、先程まであんなに激しい戦いをしていたとは思えない程、しっかりとした足で立っている。傷一つない。
だが、アインが陛下に跪こうとすると、それを陛下が手で制止していた。
「襲撃者は、撃退しました。もう、この学園は安全です」
陛下に視線で促され、アインは涼しい表情でそう言う。それが、とても頼もしく思えたのだろう。安心し、空気が緩んだ。
「うむ、よくやった。我が国の国民を守ってくれた。感謝する」
「当然のことをしたまででございます。その上、私に助力してくださった方のお陰で、襲撃者を無事撃退いたしました」
「では、その者にも褒美をやろう。追って報せる」
「承知しました」
アインがボウアンドスクレープをし、失礼します、という言葉と共に、その場から去っていった。
ティス、カース、ティティ、スス、ティア、カティア、……結局いいのが見つからなかったんですよね……。
あとカティやスティはマティとサティがあるからなし!というのは最初から決めてありました。
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